第7話 門出
――SIDE.明都院 割美
▽ワルミ
「……お父様、よろしいですか?
大事なお話がございますの」
▽ワルミの父
「……ああ、割美か 丁度よかった
私からもお前に話があったのだ 入れ」
――鋭く重厚なバリトンの声が響く。
私は明都院財閥の社長であり貴族位も有しているワルミの父の部屋にいる。これからする話……それはもちろんBクラス不正編入の件だ。内なるワルミは恐怖で泣きそうに……いや、既に泣いている。それほどまでに厳格な人物なのだろう。
……彼はこの事実をまだ知らないはず。不正を指示した母が巧妙に隠しているからだ。だがそれも愛しい娘に箔を付けさせるため……ワルミが実力で上位クラスへの編入を勝ち取ればよかっただけなのだ。中等部時代に転生していれば……と、考えたところで今更どうにもならない。だからここで……
▽ワルミの父
「高等部の編入試験……Bクラスになったそうだな
できればAクラスになってほしかったが…それでも十分な成績だ」
▽ワルミ
「……それについて………お父様に謝らねばならない事がございます」
――声が、体が、震える。怖い。どうしようもなく怖い。真実を語れば、その先がどうなるか何も分からない。
……だとしても。自らを虚勢の鍍金で塗り固めて、動けなくなってしまう前に。
私は話した。
中等部では怠けてばかりいた事、
Bクラス編入は不正によるものである事、
そうなってしまった責は他でもない自分にある事、
だからいかなる罰も甘んじて受け入れる事……
父は事の顛末を聞いてしばらくの後、呻くように息を吐いた。
▽ワルミの父
「………それが事実であるとして………何故それを今私に伝えた?
黙っていればそのまま編入できたんだぞ?
それに実力が及ばぬならば…
聡い学園側が勝手にクラスを落としてくれるだろうに」
▽ワルミ
「それでは………それではいけないのです」
▽ワルミの父
「………何故だ?」
深く……静かに輝く光を湛えた双眸が射抜く。
▽ワルミ
「………わたくしの、ためです」
▽ワルミの父
「………そうか」
父は言葉を続けていく。どことなく声色が柔らかくなった……ような気がした。
▽ワルミの父
「……なに、大方予想していた通りだ
私はお前の父親だ 中等部からずっと見ていればそのくらい分かる
妻や資産の妙な動きも……恐らくそれだろうと薄々気付いていた
…待っていたのだよ お前が自らの足で立ち上がろうとするその時をな」
携帯端末を開き、どこかと連絡を取り始める。
▽ワルミの父
「………私だ ―――― そうだ それは真実であった
――――― ……ああ、やっと話してくれたよ 手筈通りに頼む」
……一体どこだろうか? 皆目見当も付かない。
▽ワルミの父
「………さて
割美…お前は罰を甘んじて受けると言ったな」
▽ワルミ
「………はい 二言はありませんわ」
▽ワルミの父
「お前には……変わらずフジヤマ冒険者学園高等部に編入してもらう
だが………行き先はFクラスだ
冒険者稼業は実力主義……力を持たねば生き残れない
それは例え高校の少年少女達であっても変わらない
彼らとて冒険者……幼くも飢えた獅子であるのだからな
特にFクラスは上位クラスからの圧力が他と比にならない程強いという……」
……父の声にわずかな苦悩が混ざる。つまりあの連絡は…学園関係者辺りか。私もフジヤマ冒険者学園のFクラスがどのような場であるのか……数多のプレイングで身に染みている。
▽ワルミの父
「付き人もいない 学園の寮に一人で住め
一応半年ほどは資金や物資の援助をしておく
独り立ちするまで、明都院の門をくぐる事を禁ずる
………これが最後のチャンスだと思え
泣いて戻ってきたならば……もはやお前に冒険者の道は無い」
ああ、まさかこの
▽ワルミ
「……承知いたしましたわ、お父様」
▽ワルミの父
「………ふっ
昔のお前ならば…イヤだイヤだと駄々をこねていただろうに
まったく、どういう心変わりをしたのやら
……いい目をするようになったな 割美」
……まあ、内なるワルミはお父様の言う通りイヤですわイヤですわとのたうち回っておりますけども。生憎前世の私は一人暮らしのプロでね。余裕ッスよ余裕。内なるワルミだって美容関係の知識が豊富だし…その辺はしっかりお世話になりますわよ。
▽ワルミの父
「………強くなれ」
▽ワルミ
「………もちろんですわ」
これで
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