第2話 PLAYER_2

 2月2日、深夜……やや薄暗い部屋で私はコントローラを手にゲームを進めていた。


 有休を数日まとめて取りある程度の自由時間を確保。攻略ウィキや動画の情報、表計算ソフトで作成したデータや独自攻略チャートなどを並列させパソコンの画面に置いておく。……そう、明け透けに言えば私は『廃人プレイヤー』だ。まだ見ぬレアアイテムやイベント、より効率的なキャラクターの育成方法、イースターエッグ(※1)などなど……発売された直後に買って3年ほど経った今でもこのゲームをプレイし続けている。


 『1000回遊べるRPG』。……これで何度目のはじめからニューゲームだろうか。もはや数えきれない。残りわずかとなったエナジードリンクを飲み干し、ポーズ画面を解除する。


 突然だが解説しよう。このゲームは大きく分けて3つのストーリーで成り立っている。ゲーム進行の基幹となる『メインストーリー』、攻略キャラそれぞれにいくつかのルートが存在し、メインストーリーと連動していて並行しながら進める『キャラストーリー』…ここがいわゆる『恋愛シミュレーション』要素だ。そして攻略してもメイン・キャラストーリーには影響が無い『フリーストーリー』。


 今私が挑んでいるのはメインストーリーにおいて最後のボスとなる、『明都院 割美あくどいん わるみ』をルート。主人公達を目の敵にしており、降り掛かるトラブルの大半は彼女によるもの。しかし同時に彼女もまた『攻略可能キャラ』の一人である。それなら彼女を攻略すればボスになるのを防げるのではないか? と思われるかもしれないが……実はそうではない。


 悪役である彼女を攻略しようとすると……なんと主人公がに寝返り、一緒に悪事を行うようになり……彼女がラスボスになる手伝いをしてしまうのだ。実のところ、攻略キャラが悪役になってしまうルートや悪役となった主人公により他の攻略キャラを引き込むルートは存在する。しかし彼女を改心させ悪事をやめさせるルートは……残念ながら今のところ一切見つかっていない。他の攻略キャラには複数のストーリーが用意されているのに、彼女だけルートがひとつしかないのだ。


 これは個人的な解釈だが……このゲームは勧善懲悪がかなりはっきりと描写されている。だから最初から悪役である彼女は最後まで悪役でなければならないのだろう。それでも諦めきれず何度も彼女を救うルートを探っているのは……これも個人的な問題。私は『ハッピーエンド』が好きなのだ。例え悪役であろうとも、もし彼女を赦し、救い、皆が笑って終われる物語があるのならば……或いは、もし彼女が悪事に手を染めずにいられたならば……


 …そんな事を考えながらストーリーを進め……ん?


 ▽明都院

「あ、あの……弘前様? その………ええ

 やっぱりわたくし……あなたの言う通り……やめようと思いましてよ」


 …まさか。この時彼女はどんなに説得しても絶対にやめなかったはず。と言うのも、本来なら彼女はこのままとある神殿へ行き、彼女がラスボスとなってしまう原因である《邪神の魔石》というアイテムを手に入れる。しかしマップデータやアイテムデータは存在しない為、その神殿へ先回りして回収や破壊する事はシステム的に不可能……つまりメインストーリーにおいて絶対に揺らがない部分だ。と言う事は。


「……来た? ついに来た!? よっっっっっっっしゃあああああ!!!」


 これまでに無い高揚感。急いで会話ログやプレイデータをパソコンに打ち込み、クイックセーブ(※2)も複数枠行う。ちなみに『弘前ひろさき』という苗字は私のものではなく、主人公キャラのもの。名前は変更可能だが苗字は固定されている。さあ、これからはもっと慎重に……徹底的にこのルートを研究しなくては! これから忙しくなるぞ……しかし急に大きな動きをしたからだろうか? なんだかやけに頭がくらくらする。それに天井が回って…目が……霞んで………鼻から…………落ちた赤色が


「……あ、これやば」



――― *何かが倒れる音*






(※1)イースターエッグ

海外のお祭り…の事では無く、ゲームにおいては

ゲーム内に隠された開発者のメッセージや遊び要素を指す。

(※2)クイックセーブ

シミュレーションゲームなどにおいて、その場面や状態を即座に保存する機能。

クイックロードという機能を使うとそこから再開でき、

データを残していれば何度も可能。

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