第38話 背番号3番 黒血 勇牙
リスタートの笛が鳴る中、
・ ・ ・ ・ ・
俺は馬鹿で、要領も悪かった。基本感覚的に好みなほうへ進んでいった。ずっとサッカーを続けてたのも、なんとなく好きだったからだ。努力や積み上げた時間が人生に意味を与えるなんて考え方はしたこともなかった。
そんな俺が、馬鹿なりにいろいろ考えるようになった。人とサッカーをするようになって、時間とか努力が自分だけで完結しなくなったからだ。自分が果たすべき役割とか、人に迷惑をかけない方法とか、会話術とかいろいろ。
はじめはそれで良かった。今までやってこなかったことをやったおかげで、技を習得することもできたし、仲間もできた。けど、馬鹿なりに考えるようになったせいで、その成功に固執してしまった。
それが理解できた後も、何かが変わるわけではなかった。なぜなら、その成功に至るまでの時間や努力を捨て去ることに、恐怖を感じるようになってしまったから。心は行けと言っているが、頭は行くなと言っている状態。そんで、出来の悪い頭を無駄にぐるぐる回して時間をどぶに捨てた。
そんな考えが少しだけ晴れたような感じがした瞬間があった。
そんで何もかも吹っ切れた今。もう恐怖はねぇ。というか、17?8?年間やってきた俺にこんだけの価値しか与えられない努力だとか時間っていうのは、大した価値持ってないんじゃねぇの。いや、こんな変な理屈こねる必要ねぇな。努力や時間が俺に意味を与えてくれるっていう受け身の姿勢が気に食わねぇ。努力にも、積み上げた時間にも、それを共にした仲間たちにも、全てに意味を与えるのは俺自身だ。
だから今この瞬間、熱狂の中心へ飛び込め。
・ ・ ・ ・ ・
奇しくも先ほどと同じ形が生まれた。攻防が切り替わる狭間に現れる怪物
vanguard陣営が薄々
「お前を警戒しないわけがないだろう。」
全てを見越したかのような完璧なパスカットは、
「やられっぱなしだと思うなよ。」
技を前にしてはあまりに無力な
故に、油断が生じた。
主戦場から離れた位置でボールを持った
「それはこちらのセリフだ!!」
と、スライディングを仕掛ける。
それが功を奏し、
「やれ!!
希望は再び、FC vanguardへ舞い降りた。
・ ・ ・ ・ ・
加速していく熱狂に身をゆだねた
努力、時間、そして仲間たち。その全てに意味を与えるっつうなら、こいつらが信じた
ギャリギャリギャリと、意志を持ったチェーンソーが獲物を食らうようなけたたましい音と共に打ち上げられたそれは、
全身を開放し、回転のエネルギーと振り下ろしの力を足し合わせた蹴りが、過去とぶつかり合う。その最中、時代を象徴する天才に言われた一つの言葉が脳裏をよぎった。
(古い存在はさっさと絶滅したほうが良いぞ。新しい時代の枷となる。)
かつて絶滅したほうが良いとまで言われた蛮勇は、今日ことのときをもって、絶望を滅する勇猛な牙となった。
過去の獣たち、時代すらも滅ぼした巨大隕石が、
3-2
無慈悲なホイッスルが鳴り響く。
試合終了まで、残り10分。
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