第23話 暴走
試合開始直後に見せた必殺の一撃を再び放とうとする仲間をよそに、自分が別人になっていくような感覚に襲われていた。その恐怖すら飲み込むほどに力が暴走していく。
オレヒトリデイイ
「
協力技の構えを取っていた仲間が
大水槽内にいる各人の周囲には、己の心の海が渦巻いていた。多種多様な世界がある中で、
大技の予兆を察知した
神はこの世界に存在しないのではない、出会った時点で記録すら残すことを許されないから神なのだ。自分の想像をはるかに超えた強大な力を前に、
1-1
会場が静まり返るほどの冷たい得点が入った。
・・・
得点が入ったというのに、何の感慨も湧かない。この試合に勝たなければいけないということは分かる。ただ、何か大事なものが飲み込まれてしまったような気がする。でも、勝てるならこれでいいんだろう。
「
「どうした…とは?」
「いや、明らかに様子がおかしいだろ!」
「そうか。」
「そうかって、それだけかよ…?」
「勝てるなら多少様子が変でもいいだろう。」
「多少って…。でも勝たなきゃいけないのはそうなんだけど…そうじゃなくって…!!俺達でも何か助けになれないかって…。」
「心配せずとも大丈夫だ。俺がやる。」
「っ!!」
奪うべきボールと狙うべきゴールだけを見ながら話をした。一番強い俺が点を取って勝つ。それはチームの為にもなるはずだ。何も間違ったことは言っていない。けれど、なぜか心がざわつく。大事な何かが心に引っかかる。いや、どうでもいい。全ては勝った後で…。俺は、何のために勝とうとしているんだ?
・・・
確実にこのままでは負ける。そしたら全てが終わってしまう。どうしたらどうしたら…
「
そう声をかけてきたのは
「力を貸せって、そんな急に言われても。」
「お前ならできるだろ。」
「何を根拠に。」
「さんざん俺のことを付け回してきてたお前なら、俺の技に合わせることもできるだろ。」
確かに、このチームで
そう反論しようと
「分かった。やろう。」
このまま戦っても負けるだけなんだ。それなら、少しでも未来のあるほうに賭ける。 仲が良いわけではないし、なんなら嫌われてるまであるだろう
・・・
とても手の届かない神のような存在が相手だと思った。けれど、
とはいえ、現状
唐突に付与された能力を扱えなかった俺たちは、
「手加減はいらないからな、
「余計なお世話だよ、
ガン、と拳を合わせ、余分な情報を遮るように目を閉じる。ぐんぐんと上昇していく黄金のエネルギーに飲み込まれないように刃状のオーラを高めていく。今にも対消滅しそうな危うい合技は、まるで2人の関係性を示しているかのようだった。良家の出であり、将来を期待され、その道から逸れた2人は、同じ境遇であるがゆえに仲良くすることはできなかった。相手との馴れ合いが、そのまま自分の過去に対する妥協となってしまうから。そんな2人が唯一通じ合うものが、敬意。互いの生き様への敬意だけが、今この瞬間彼らの合技を支えていた。未完成、されど1人では辿り着くことのできない境地に至った技が、孤独な神と激突する。
・・・
ゴーグル越しに淡い光が見える。こちらの技をわずかばかりにこらえながらも、徐々に飲み込まれていく光。その光を飲み込むにつれて、その発生源となっている人間の深層心理が流れ込んでくる。
『飲み込まれる。』
キミハカテナイ
そう応えると、先ほどまで内側に向かっていた男の感情がこちらに向いた。
『いつもこんな景色を見てたのか。』
ソウダヨ
『誰も本当の意味で理解なんてできなかっただろうな。』
ソウダヨ
『なのに自分は他人のことを気にかける。あんたは1人じゃないって。』
オレハ
『でも俺は1人ですよ~ってか。ふざけるなよ。』
ホントノコトダヨ
『勝手に1人で背負い込んで、自分から1人になってるだけだろ。』
ドノミチリカイサレナイ
『じゃあ今俺たちが見てるこの景色は何なんだ。同じ世界が見れてるじゃないか。』
ワカラナイ
『怖かったんだろう、心の奥底を覗くのが。そして、自分の心の奥底を覗かれるのが。』
ヤメテ
『もう手遅れだ。俺はお前の闇に飲み込まれて、お前は俺の光を食らう。避けようも無く奥底を知れてしまう。』
イヤダ
『さあ衝撃に備えろよ。』
イヤダ
『今度は俺が救う番だ。』
エ?
淡い淡い光を飲み込んだ先にあったのは、冷たい海の底で感じるマントルの熱のような温かさ。忘れていたものよりもずっと深い温かさがそこにあった。それは、俺に1人になることの恐怖を思い出させてくれた。
『お前は1人じゃない。』
そうだな。あんたはそう言うよな。でも、他の人がそうかは分からない。俺の仲間は良い人ばかりだ。善意には善意を、悪意には悪意を返してくれる良い人。だからこそ、皆がいる海面のほうを見続けて、1人で深淵へと突き進むのを拒んだ。
全てを失う覚悟で突き進んだのに、それすらできなかった。中途半端な俺に返ってくる感情は知れている。こんなことなら、人の温もりなど忘れたままでいたかった。……まだ、みんなとサッカーがしたい。
・・・
鏡が割れるように暗黒が砕け散った。
「なんだ!?どうなった!?」
「不発だ!!セカンドボール!!」
零れ落ちたボールを
「
お前が言ったんだろ、仲間の顔を見ろって。1人で終わった気になってんじゃねぇよ。
「
・・・
「おおおぉぉぉらああああ!!!!」
そんな俺の諦観を薙ぎ払うかのようにFWの
「
「なんで…。」
「なんでもくそもあるかぁ!!お前がなんかごちゃごちゃ考えてんの俺らにもちゃんと見えてんだよ!!あの程度の言葉で俺たちがお前を見捨てる訳ねぇだろうが!!」
「俺たちはとっくにお前という漢に惚れちまってんだよ!!!だから、頼むから諦めないでくれ!!!」
「俺たちもまだお前とサッカーがしたいんだよ!!!」
ぐだぐだ考えて馬鹿みたいだ。こんな最高の仲間がいるのに何が1人になるだ。悲劇のヒロインぶって楽しんでんじゃないやい。
心を覗いただけで全てを分かった気になっていた。今までの経験から変化を推測していた。でも、自分の言動に相手の心がどう呼応するかなんて推測できるわけがなかった。なら、今この瞬間この灼熱を仲間と共に生きようじゃないか。それが俺たち、
「勝負だ!!
「かかってこいよ!
散らばった仲間たちから昇る極小の木漏れ日が交錯する。合わさった日の光は、太陽に負けじと天高く光の柱を突き立てた。灼熱の日の光で鍛え上げられた剣を、海の化身が手を蒸発させながら握りしめる。
太陽の剣と十字架の剣の衝突は、激しいつばぜり合いを引き起こした。周囲の人間に救われ、自分を見つめ直す機会を得た2人。ほぼ互角の2人の戦いの勝敗は、勝つことへの意志が決まりてとなった。負けたくなかった
2-1
敗者側一回戦
勝者 FC vanguard
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