眼鏡陰キャな俺、隣りのクラスの委員長と何故か不自然なくらいに遭遇する
武 頼庵(藤谷 K介)
眼鏡陰キャな俺、隣りのクラスの委員長と何故か不自然なくらいに遭遇する
※前書き※
このお話は、とある企画用に執筆したものです。
「危ない!!」
「え?!」
声が聞こえた瞬間に見えた景色。それはとても青くて手を伸ばしても届きそうにないくらい高い空だった。
どん!!
うわっ!!
きゃぁ!!
「――ねぇ!! 返――よ!!」
――誰だ……?
耳元で騒ぎ立てる大きな声。そう思った後、声が聞こえなくなったと思った時には意識を手放していた。
これが、中学1年生の春に、俺こと
俺の住んでいる町は、春になると桜の木が一斉に開花し、地元だけではなく遠い他県からもわざわざ足を運んできてくれる人が居るほど、桜というのが観光名所になっていて、なおかつ貴重な観光収入源にもなっている。
町を挙げての観光地化がすすめられ、いたるところに桜に纏わる名が出来上がっていた。
桜の花が咲いている時だけではなく、散った後も道という道いっぱいに広がる薄桜色の花びらたちが、まるで絨毯を敷いたようにその甘い香りと共に町中に広がる。
春独特の温かくも冷たい風によりたなびくそれが、まるで波を起こしたようにも見える事から写真を撮る人だけではなく、動画を撮る人達によって町の中には人で溢れるようになる。
そうなるとーー。
この時俺が巻き込まれた事故は、そのような事がおこした事故ともいえる。ちょうどスポットと言われる場所になっているところが、通っている中学校の近くで、登下校時には多くの学生が使用する道路の一つ。
目の前には幹線道路がある事から、歩道橋が作られており、俺や友達も同じ学校へ通う生徒もけっこうな人達が使用するソノ場所で、事故は起こった。
俺や友達が歩道橋を使用して道路を渡ろうと昇っている時、俺達の前には同じ学校へ通う女子生徒数人の姿が有った。その中の一人は良く知っている人物で顔を見合わせるたびにケンカをするという所謂犬猿の仲的な相手、
運命のいたずらというのはいきなり訪れるもので、ごう!! という音と共に吹いた桜の花を含んだ風が俺達を襲う。
「きゃぁ!!」
「むっ!!」
「あ!?」
その風を受けて下を向く者、腕で風を受ける者などそれぞれがそれぞれの行動をとった。その時キラリと光るものが空を舞うのを俺は見ていた。
『桜』を撮りに来たと思われるカメラマンの持つ三脚が俺たちの
その持っていた人も風によって体勢を崩したのだろう、階段から落ちそうになっていた。それをまともに受ける形となったのが、俺達の前にいる女子生徒たち。
いきなりの事で何もできなかったのだろう、そのまま今度は俺達の前へと倒れこんできたのだ。
俺も中学校に上がったばかり。勿論体なんて出来上がっているわけもなく、三脚と女子生徒を支える事など出来るはずもない。
俺は咄嗟に
そして冒頭のシーンへと繋がる。
「いって……」
「だ、大丈夫!?」
「ん? あぁ……たぶん?」
「救急車!! 早く呼んで!!」
慌ただしく動く周りの人達と、俺の事を見つめる女子生徒。俺の意識はその時まではしっかりと記憶があった。
それから数年――。
「今日からこのクラスに転入してきた片桐颯太です。以前はこの町に住んでましたが戻ってきました。どうかよろしくお願いします」
くいっと眼鏡を手で押し上げながら、出来る限りの笑顔を作って皆にあいさつをする。
「よし!! じゃぁ委員長!!」
「は、はい!!」
「片桐の事頼む。校内とか案内してやってくれ」
「分かりました!!」
――あれ? 委員長って……もしかして……。
「席は一番後ろの席にしておいたから、そこに座ってくれ。何かあれば委員長の
「はい」
「よし!! じゃあ今日の予定を話すぞぉ~――」
新たな学校へと転校してきて、初めての挨拶は陰キャな俺にしては良くできたと思う。そしてクラスの担任の先生も良い人そうだ。とある事情からそうならざるを得ないのだけど、誰もその事には触れてくることが無いみたいなので、ホッとする。
更に言うとこの委員長だけど、見覚えがある。というかありすぎる。先生に言われた席に向かって歩いて移動する。
「颯太……だよな?」
「あぁ……久しぶりだな和弘」
俺に向かって話しかけて来たのは、先ほど先生から委員長として指名された関。そして中学時代までの俺の幼馴染でもある。
「もう……良いのか?」
「まぁ……な」
「そっか……元気そうで良かった!! またよろしくな!!」
「おう!! こちらこそ!!」
懐かしい顔を見て、手を伸ばしてきたその手をしっかりと握り、笑顔を返す。
――良し!! 新たなスタートだ!!
俺が入ったクラスの人達はとてもよくしてくれた。休憩時間には和弘のおかげもあってすんなりと馴染むことが出来たと思う。それも元々コミュ力お化けの和弘のおかげだともいえるけど。ただ和弘だけじゃなく数人の顔に見覚えがあったのも助かった。
その人たちも俺の事を覚えていてくれたらしく、皆「懐かしいな」「元気だったか?」なんて気楽に声を掛けてくれるから、俺も緊張感が少しだけ和らいだ気がする。
その後も何事もなく1週間が過ぎた。クラスの中では男子たちの中ではうまく溶け込むことが出来たと思うけど、女子達からは未だにお客さん状態のまま。
話すシーンは数度あるけど、決して『仲が良い』とは言えない。
――まぁ、こんな姿の俺に好き好んで声を掛ける人なんていないと思うしな。
メガネの先に見える黒髪をいじりながら、俺はため息をついた。
好きで伸ばしているわけでもなく、好きで眼鏡をしているわけでもない。黒髪でぼさぼさ……とは言わないまでも纏まっている方だと思う髪型と、黒縁の分厚いレンズの付いた眼鏡をしている俺。あの事故以来ずっと俺には当たり前になっている格好なのだけど、知らない人達からすれば俺はれっきとした陰キャと見られるだろうことは分かっていた。
ワイワイとそんな男子たちと話していた休憩時間。
「わりぃ、ちょっとトイレに行ってくる」
「おう」
「いってら」
俺は一人でトイレへと向かって教室を出て行く。廊下を進んでいくと、なんだか目の前を歩いていた人が壁際へと避けるそぶりを始める。不思議に思っているとその向こう側から歩いて来る一人の女子生徒と目が合った。
――お? この人をみんな避けてるのか?
その人はとても綺麗な人だった。さらさらな黒い長い髪を揺らしつつ、色白で小さな顔にバランスのいい配置の顔のパーツが並んでいて、大きな町へ行けば絶対スカウトされるだろうと思うくらい、俺にとっては一生絡むことが無さそうな存在。
俺が考えている間にもすたすたと近づいて来るその生徒。
「っ!?」
「ん?」
一瞬だけ、本当に一瞬だけ俺の方をチラッと見たと思ったら、大きな瞳を更に見開いて驚いた表情をした。
しかし何も言わずにその場を去って行く。
――なんだ? まぁいいか。トイレトイレっと……。
特に気にする事もなく、そのまま俺はトイレへと歩いて向かった。
何故かそれ以降、頻繁にソノ女子生徒の事を目撃することが多くなった。休憩時間もそうだけど、お昼休みや、放課後など学校の中でだけ――という注釈は付くけど、気が付くと俺の視界にその生徒がいる。
「なあ和弘」
「どうした?」
「ちょっと聞くけどよ、あの
「ん?」
自分のクラスへと向かう途中の廊下で、今も俺の視界に捉えているその子の事を聞いてみる事にする。
「あぁ……」
「知ってるか?」
「そりゃぁなぁ」
「どんな人?」
「なに? なに? 気になっちゃう?」
「ば~か!! そうじゃねぇよ。そうじゃねぇけど……」
――こういつも視界に入るとそりゃ気にはなるさ。
どういうつもりで和弘が聞いたのか知らないけど、俺には微塵もそんなつもりはない。だけど何かが引っかかったように気にはなる相手。それだけなのだが……。
「まぁ
「へぇ……」
「あの通り、容姿端麗!! 成績優秀!! ただし運動面はちょっと苦手らしいぞ?」
「……詳しいんだな」
「ばぁ~か!! 有名人だからな!! 学年のマドンナって言われてるし」
「そうか、まぁそうだろうな」
「すでに何人も撃沈されている。何しろ好きな人が居るらしいからな」
「あぁ……なる程」
俺たちの話題に上った彼女の視線が、俺達に向いている事に気が付くこともなく俺と和弘は自分のクラスへと入って行った。
「…………」
学校生活とは、時間だけは平等に過ぎていくもので、『こんなことが有りました』なんて言えるほどのイベントが無いまま季節は過ぎ、新たな新入生を迎える桜が咲き始めて、俺達は学年を一つ上げた。
昨年と同じヤツもいれば全く知らない人もいたりして、教室の中では会話の花が咲き乱れる。
「ねぇねぇ!!」
「ちょっとやめなよ!!」
「ん?」
俺とまた同じクラスになった和弘が席に座って話をしているところに、二人組の女子生徒が近づいて来た。
「ちょっと聞いても良い?」
「いいけど……何? 俺に? それとも颯太?」
「えっと……片桐君?」
「俺?」
こくんとうなづく女子生徒。
「片桐君ってさ……どうして髪を伸ばしたままなの?」
「え?」
「あぁそれは……」
質問に固まる俺に対して、和弘が俺の代わりに答えようと口を開く。
「ちょっとこうして上げてみたら――」
「触るな!!」
「え!?」
バチンという音を立てて女子生徒の手を振りはらう俺。
「あ、ご、ごめん」
慌てて謝る俺。
「ねぇちょっとひどくなぁ~い? 何もそんなに大きな声で怒鳴らなくてもいいでしょ?」
「はぁ~……」
一緒にいた女子の一人がそんな話を始めた時、俺は「またか」という思いが込み上げてきて大きなため息が出てしまう。
「ちょっとあなた達!!」
「「え!?」」
女子二人に更に大声を出して近づいて来る生徒が一人。
「あ!!」
「?」
それが昨年よく見かけた女子生徒だと気が付いた俺と、その生徒の事を知っている和弘が驚いた。今年は何と同じクラスメイトになっていた。
――どうしてこの人が?
「謝って!!」
「え?」
「誰にも知られたくない……みられたく無いものってあるでしょ? 彼にだって……颯太君にだってあるのよ。だから謝って!!」
どうして彼女が味方をしてくれるのか分からない俺は混乱する。
――あれ? 今、彼女は颯太って……。
「別にいいでしょ!? 髪の毛を上げるくらい!! それとも何? 大きな傷跡とかあるわけ!?」
「っ!?」
女子生徒の一人が大きな声で反撃すると、俺達の見方をした彼女がビクッと身体を揺らす。
「……そうよ」
「え?」
「まじで!?」
彼女が答えると女子二人も驚く。
「颯太君は私のヒーローなの!! 私をかばって怪我をしたのよ!! だから……それを隠すために!!」
――俺がヒーロー? え?
彼女の言っている意味が分からずに、助けを求めて和弘の方に視線を向ける。
「はぁ……。
「は? お前何ってん――」
「今度は私が、す、スススすす好きな人を護るの!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」」」」」」」」」
一瞬の沈黙の後、クラス全体が揺れるような大声が響いた。
――え? なに? ちょっと待て……好きな人? え? それに須藤?
「……もしかして……桜花? 須藤桜花なのか?」
「……うん」
顔を赤くしたまま俺を見つめる須藤。
――あらかわいい……じゃなくって!!
「え? どういう事?」
「あの時も今もこれからも、あなたが好きよ。颯太……」
「え? え? えぇ~~~!!!!!!!!!」
数年前のあの時、俺は彼女の事をかばって階段から落ちた。その時の怪我が元で跡も残り、打ち所が悪かった事で視力も下がった。だからこその髪形と眼鏡なのだ。
「ずっとあなたに謝りたかった!! ずっと好きだって言いたかったの!!」
そう言いながら泣き出しつつ俺に抱き着く須藤。俺と須藤の二人に向けて、暖かな眼を向けてくるクラスメイト。
「返事してあげたら?」
にやけながら和弘が言う。
「…………」
期待を込めたような瞳を俺に向ける須藤。
「えっと……」
「返事……は?」
「俺で良ければ……よろしく?」
「えへへ……」
更に泣きながらもぐりぐりと頭を押しつけてくる須藤。
それまで以上に生暖かい目を向けられるが、須藤が泣きやむまで抱きしめてあげる事しかできなかった。
※後書き※
お読み頂いた皆様に感謝を!!
このお話の続きは今のところありません(笑)
中途半端だな!! というご意見有ると思います。
構想の時点では5000字までにまとまるかな? と思ったのですがね……うぅ~ん(^▽^;)
眼鏡陰キャな俺、隣りのクラスの委員長と何故か不自然なくらいに遭遇する 武 頼庵(藤谷 K介) @bu-laian
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