第93話 来年の夏にキルベト・クムラン二滞在するときの栽培に備えてソルガムやミレットの種を探してみるか
さて、冬の農作業やローズヒップの確保などもおおよそ終わって、割と時間に余裕ができてきた。
そもそもこの時代では時間に追われるような生活はしていないけどな。
俺達家族は風邪やら下痢やらの症状で困ったこともないし、エリコ全体でも高い熱を出す子供はほとんどいなくなっている。
これも飲水のろ過や食べ物を作る前や食べる前の手洗いを推し進めてきたからだろう。
原虫や回虫などの寄生虫、細菌やウイルスなどの経口感染の感染源は手についたものを食べ物や飲み物を通して口から取り込むことで感染してしまうことが多いからな。
それはともかく来年の春から夏にかけてのヨルダン川の増水期に、エリコの周辺が水没している時はキルベト・クムランでなるべく過ごそうと思うが、その際の炭水化物の確保は課題だよな。
今まではパンを持っていったができれば穀物も現地調達したい。
クムラン教団は灌漑農業によって小麦を栽培していたようだが、現状では大勢動員して農業用水確保のための用水路を作れるほど人手は多くない。
そうなると乾燥に強く春先に種を巻いて、夏頃に収穫できる穀物が必要だが、そういう条件でまず思い浮かぶのは蕎麦なんだが、蕎麦の原産地は、中国南部の四川省から雲南省にかけたあたりの山岳地帯でこの時代のエリコ周辺には伝わっていない。
それに蕎麦は暑さには弱いしな。
なのでこのあたりでも手に入り、春に種を蒔いて、夏あたりに収穫できるという条件に合う穀物はないかスマホで検索して見る。
そして見つかったのがソルガムとミレットだ。
両方ともイネ科の穀物でソルガムは日本では”モロコシ””タカキビ””コーリャン”などと呼ばれている雑穀。
ミレットは日本ではシコクビエやカモアシビエと呼ばれている雑穀だな。
日本ではあまり有名ではないが両方とも熱帯、亜熱帯の作物で乾燥に強く、イネやムギ、蕎麦などが育たない地域でも成長するためアフリカでは長い間主食用に栽培され、10万年以上前の中石器時代のにもすりつぶしたものをひで炙って食べられていたらしい。
また家畜の飼料や牧草、醸造、精糖、デンプンやアルコールなどの工業用など非常に用途が広く、穀物としての生産量では現代でもコムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次いで世界第5位とかなりの量が栽培されていたりする。
ミレットはソルガムほどではないが主穀としてヒマラヤ地域のインドやネパール。チベットに東アフリカなどでは多く栽培されている。
日本においては四国や紀伊半島、中部地方の地方南部のなどの降雨量が少なく稲や麦の栽培に適しない場所で栽培されていたが、粥にして食べてもうまくないこともあって日本ではあまり栽培や品種改良は進まなかった。
そういう点では江戸時代に麺としてそばきりが発明されて、庶民の食べ物として大いに普及した蕎麦と大きく違うな。
しかし、穀物などを粉にしてから焼いて食べるという習慣があまりない日本と違いエリコでは、小麦などを粉にして窯で焼いて食べるのは普通なのでそのあたりはあまり問題ないだろう。
粉にして焼いて食べるとなかなか美味しいらしいしな。
このあたりでもどんぐりや麦が発見されて、それらが多く食べられるようになる前はアフリカから持ってきたソルガムやミレットは食べていたようなので、今の時代でも探せばあるはずだな。
アワの祖先種であるエノコログサなんかも冬には茶色く枯れているが完全に姿が見えなくなるわけでもない。
「そういえばアイシャ。
前に猫をじゃらしていた草ってどこらへんに生えてたんだ」
俺がアイシャにそう聞くとアイシャは二パット笑っていう。
「いえのそばにはえてたのー」
「おおそれは助かるな、
場所を教えてくれるか?」
「わあったー」
俺はリーリスと息子へ向かってう。
「ちょっとアイシャと一緒に出かけてくるな」
リーリスは微笑みながら「ええ、行ってらっしゃい」と言った。
というわけで俺はアイシャとともに石鎌を持って家の外に出て、エリコの町中を暫く歩く。
「ここだよー」
そういうアイシャの指さされた先には、冬の風に吹かれて倒れてしまったらしいソルガムやミレットがあった。
ミレットの背丈は1.5メートルくらいだが、ソルガムは2メートル近くあるものもあるが、おそらく両方とも野生種であることもあって穂先に種はまだついているな。
「ん、たしかにこれだな。
アイシャ教えてくれてありがとな」
「あいしゃえらーい」
「ああ、偉いぞ」
俺はアイシャの頭をなでてやったあとソルガムやミレットの穂先を石鎌で刈り取って種を手に入れた。
これで来園の春から夏にかけてのヨルダン川の増水期にエリコの周辺が水没している時はキルベト・クムランで過ごす際に蒔くための穀物の種が手に入ったな。
なんともありがたいことだ。
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