第49話 はじめてのむぎのしゅうかく
さて、そろそろコムギの収穫の季節だ。
ちなみに急激な寒冷化を迎えたヤンガードリアスの始まりの13000年前にはライムギの耕作・栽培は始まっているが、オオムギやコムギはライ麦ほど耐寒性などが高くないためそれらの栽培が始まったのはヤンガードリアスが終わった11500年前よりは早くないだろう。
エリコでオオムギやコムギの栽培が始まったのは1万300年前頃らしいが、その頃は麦のオオムギ、ライムギ、オーツムギ、ヒトツブコムギあるいはやエンマーコムギあるいはフタツブコムギ、豆のエンドウマメ、レンズマメ、ヒヨコマメと一緒に亜麻の栽培も始まったらしい。
ちなみ現代で一般的に栽培されている普通コムギあるいはパンコムギと呼ばれている品種が出現したのは約8000年前、デュラムコムギあるいはマカロニコムギと呼ばれる品種が出現したのは約9000前でこの時代にはまだない。
またコムギの中でもヒトツブコムギやエンマーコムギの野生種と栽培種は混ざって栽培されていたりもする。
野生種と栽培種の違いだが野生種では穂や種子が熟すと植物体から容易に脱落するが,栽培種では収穫しやすいように熟しても脱落しないという差だ。
そういう事もあって定住生活を始めたばかりの頃は、ドングリやナッツと同様に麦の実も地面へ落ちたものを一粒一粒を拾っていたらしい。
しかしそれでは大変なので、実が落ちる前にやや未熟なまま穂を刈り取るという方法に変わっていったらしい。
その代わりに刈り取った穂を乾燥させて穂から種を脱穀させる作業が増えてしまうことには成ったんだが。
「じゃあ、そろそろ麦の収穫に行ってくるな」
俺はリーリスと身重のリーリスの世話をしに来てくれているリーリム、そして娘のアイシャへ言う。
「はい、行ってらっしゃい」
とリーリスが言うとリーリムも言う。
「いってらっしゃーい。
また美味しいもの食べさせてよね」
その言葉に俺は苦笑して返す。
そして、アイシャだが。
「あちしもいくー」
「ん、お前さんも麦の収穫をやりたいのか?」
「やりたーい」
「ん、わかった。
じゃあ手伝ってもらおうか」
「わーい。
あしちがんばゆー」
「んじゃあ、アイシャ。
おまえさんはカゴを持ってくれ」
「わあったー」
と言うわけでで今日はアイシャに大きめのカゴを持たせ、俺は適当な長さの木の棒を用意する。
「あら?
鎌は持っていかないの」
とリーリスが言ってくるので俺はうなずく。
「ちょっと試したいことがあってな」
それを聞いたリーリムが言う。
「またなんか変わったことをするつもりなんだね」
俺は苦笑しつつリーリムの言葉に答える
「そんなに変わったことでは、ないつもりだけどな」
そうして、俺とアイシャは家を出て麦畑に向かった。
「んじゃ、アイシャ。
お前さんは俺が麦の穂を横に倒すからその下にカゴをなるべく近づけて持っていてくれ」
「わあったー」
アイシャが持ち上げてるカゴの上に麦の穂を被せて軽く棒で叩くとパラパラとコムギの実がカゴへ落ちていく。
「むぎしゃんおちてきたー」
「ああ、うまく行ったな」
この時代のコムギはまだ栽培種はわずかしか含まれていなかったりするので、完全に熟する前でも軽く衝撃を与えれば種は簡単に落ちたりする。
栽培歴が長いオオムギやライ麦はそれなりに栽培種が増えてるらしいけどな。
同じようなことを何度か続けると木の棒で叩いても実が落ちてこない株があった。
「むぎしゃんおちてこなー?」
「ああ、中にはなかなか種が落ちないように頑張るやつも居るんだよ」
「すごー」
「ああ、そうだな」
おそらくまだ数少ない栽培種コムギなんだろうな。
同じようなことを続けて野生種の株の種は木で叩いてカゴで受けて採取し、こちらは優先的に食べるようにして、それが終わったら栽培種の穂は鎌で刈り取って干して優先的に種籾にするようにする。
まあ、野生種のほうが殻を外すのが大変だったりもするのだが、少し長い目で見れば栽培種のほうが脱穀も楽で種子が大きい事もあって段々と処理なども楽になっては行くはずだしな。
種子が大きいということはそれだけ栄養が必要になるから、連作障害などが起きる可能性も高くなるんだけど、ヨルダン川の増水で浸水する環境が続く限りはその心配もないだろう。
ちなみにリーリムのリクエストには丸い無発酵パンの上にチーズとスライスしたにんにく、ガゼルの肉などを乗せて焼いたものを出してみた。
「これは美味しいわねー」
リーリムが嬉しそうにかぶりつくと、リーリスもうなずいた。
「パンにバターを塗るもいいけど、チーズを載せて焼いて食べるのも美味しいのね」
「だろ」
「おいしーでし」
アイシャもご満悦だな。
イタリアで現在のピザに近いものが作られたのは16世紀のことらしいから、だいぶ早めてしまったがまあ問題ないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます