第8話 やっぱり生活していく上で土器は必要だよな、え、焼き窯があるなら炻器が作れるな

 さて、俺はマリアの家に住むことになったわけだが、生活していく上でやはりどうしても土器がほしいと思うようになった。


 土器があれば水をためたり煮たりするのが楽になるし、やはり革袋だと入る水の量が少ないしな。


 ただ問題なのはこのあたりは燃料になる森林資源が少なく薪は貴重ということだったりする。


 なのでメソポタミアでは土器が作られるのは長江文明などより遅く、少なくとも今の時点では土器は無い。


 厳密に言うとエリコがあるのは死海の西のヨルダン川流域なのでメソポタミアという意味で一般的なチグリス・ユーフラテス流域ではないのだが、麦栽培はエリコなどがあるヨルダン渓谷辺りから始まって、エジプトのナイル川流域やメソポタミアのチグリス・ユーフラテス流域に広がっていったようだ。


「マリア、水などを入れておくのに便利な粘土をこねた後焼いて作る器を作りたいのだが、粘土を焼くために薪を多めに使ってもいいだろうか?」


俺がそういうとマリアは不思議そうに首をひねっていった。


「薪を多めにですか?

 あまり多く使われても困りますけど……。

 でもあなたの作るものは便利ですので、ある程度ならいいですよ」


「ああ、助かるよ。

 なんとか期待に添えるようにするつもりだ」


「はい、よろしくおねがいしますね」


 さて許可も出たし土器を焼こう。


 まあ皮の水袋もそれはそれで便利では在るんだがな、軽いし。


 粘土を焼いて器を作るということ自体は21世紀でもやっていることなのだが、大きな違いは素材と焼成の方法なわけだがな……。


 土器についての焼き方について検索すると、土器と陶器の中間の炻器せっきと言うものがあるのに気がついた。


「あ、なるほど野焼きじゃなくて、焼き窯があれば土器じゃなくて、もう少しいいものが作れそうだな」


 さて、そうなるとまずは粘土の入手だ。


 まあ、ここでは川も多く粘土の入手は容易なはずだ。


「マリアちょっと聞きたいんだが、粘土はどこで皆取ってるんだろう?」 


「ああ、それなら私が案内しましょう」


「そうしてもらえると助かる」


 と、俺はマリアに案内されて粘土を取りに行くことにした。


「ではこれを持ってください」


 と渡されるのは石鍬だ。


「ありがとう助かるよ」


 あとは取った粘土を持ってくるために籠をもって俺はマリアと一緒に街を出た。


 案内されたのは川の近くで赤い地層が露出している場所。


 干しレンガにするために粘土が削り取られているな。


「では、粘土をとっていきましょうか」


「ああ、そうしよう」


 俺達は石鍬で粘土を掘り、丸めてカゴに入れて其れを集落へ持ち帰った。


 まあ土器一つに対して粘土が6㎏もあれば十分だろう。


「じゃあ、始めるとするか」


 採集した粘土に砂を加えて足で踏みつけたりしながらよく捏ねる。


 その後日陰において其れを3日ほど寝かせる。


 その間にまた粘土を取りに行き、其れをコネてと何個かの土器を作れるようにする。


 さて、粘土の準備ができたら土器を作る。


 家の床の良くこねた粘土を団子にして、手のひらで叩きつぶして丸く広げてまず土器の平らな底を作る。


 この時粘土に空気が残ってると空気が残って割れてしまうので良く叩いてのばす。


 ろくろはないので粘土を手で転がすようにして粘土のひもを長く作り、其れをらせん状に巻き上げていきながら、粘土のつなぎ目をしっかりと指でつぶしていき、手のひらでこすったり挟んだりして表面を平にしていく。


 厚くなっている部分は骨を使って粘土を削り落とし、薄い部分に其れを貼り付けて厚みを可能な限り均一にする。


 こうして土器の形ができたら陰干しでゆっくりゆっくり一ヶ月ほど乾燥させると、粘土の中の水が抜けて土器が結構縮むんだ。


「そろそろいいかね?」


 表面を触ってみて十分に乾燥したら焼成に入る。


「マリア、パンを焼く窯を借りるぜ」


「ええ、どうぞ」


 この頃にはパンを焼くためのレンガを用いた窯がちゃんとあったりする。


 土器を慎重に窯の中に入れて、薪を入れて火をつけようとして困った。


「ええと、火はどうやってつけてるんだろう?」


「あ、ええ、これを使いますよ」


 マリアが見せたのは火打ち石と黄鉄鉱だな。


「もう火打ち石が有ったのか」


 俺は火打ち石であるチャートを黄鉄鉱に打ちつけてみた。


「おお、ちゃんと火花が出るな」


 その火花を乾燥させた葦の茎を刻んだ火口ほくちに火を移して火をおこし、其れを薪に移して窯を温める。


「後は焼きあがるまで待つだけか」


 軽くあぶり温めながら1時間半ほどまって、慎重に棒で土器を倒して底にも熱が通るようにして冷めるまで待つ。


「さて、うまく焼けたかな」


 手に取ってみればどうやらうまく行ったようでよかったぜ。


 薪や粘土を無駄にしたら良くは思われないだろうしな。

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