「数秒を詰める。」
「君は……すごく物腰が低いんだね……」
「そ、そうですか……? すみません……」
「いや、怒っているわけじゃないんだ、気になっただけでね――ほら、今みたいに、君はすぐに『すいません』と言う。同じくらい、『ありがとうございます』とも言ってくれるけどね。言葉に宿る意味は、どういうつもりでその言葉を放ったかで、多少のニュアンスが変わってくるものだ。君は一体、どういうつもりで、『すいません』と『ありがとうございます』を多用しているのかな?」
「…………、それは……」
「言いにくいことかい? 大丈夫だよ、怒ったりしないさ。言葉の使い方は人それぞれだ。ただね、その言葉を多用する君は、場合によっては損をしている可能性だってあるんだ。なんだかそれは勿体ないと思うのだよ……だから、できれば直した方がいい、とも言える」
「はあ……それは、そうですね……すみません」
「気にしないでいいさ」
「ありがとうございます」
「それで? 君にとっての『すみません』と『ありがとうございます』には、どういう意味があるんだい? 本来の意味では、きっと使っていないんだろう……?」
「……ですね。どういうつもりで使っているのかと言われたら……間を埋めるため、ですかね……、一瞬でも、数秒でも、沈黙が生まれるのが嫌なんです。だから……『すいません』と『ありがとうございます』を間に挟んで、会話の歩幅を合わせていると言うか……、その効果が充分に発揮されているかは分かりませんけど、その言葉でタイミングを計っているんです。なので、その言葉でなくともいいんですけど……、少なくとも、その言葉を言われて不快に思う人は少数派なんじゃないでしょうか。間の微調整のために、『はいっ』とか、『えーっと』、なんて言葉で会話の歩幅を詰めるよりかは、『すいません』と『ありがとうございます』は、かなり便利だと思うんです……。だって、そういうつもりがなくとも、言葉だけを聞いた人は言葉通りに解釈してくれますから」
「な、なるほど……想定外の答えだったので少し戸惑ってしまったな……そうか、間を埋めるため……微調整、歩幅を合わせる……」
「はい。なのでまあ、気持ちが乗っていないことは多々あります。でも大概の人は、気持ちなんて乗っていなくとも、言葉さえ聞いていれば感情も一緒に補完してくれますよね? 誠意なんてなくとも、意外と乗り切れてしまうものなんですよ」
「……物腰が低い、だなんて……君には失礼だったね……――君は見た目に似合わず、胸の内では喧嘩腰じゃないか。良いのか悪いのか……」
「良くも悪くも、長い人生を歩めそうだと自負していますよ」
…了
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