疑うマトリョーシカ


「あの現場で、あなたのことを目撃したという人がいます……、では、彼女に証言をしていただきましょう」

「ちょっと待ってください。……その人が本当のことを言うとは限らないですよね?」


 証言台に立って発言しているからと言って、その人物の口から出ることが全て本当であるとは言い切れない。

 堂々と嘘を言うかもしれないのだ……、「――彼女の言葉は嘘だ!」と否定しても、証言台に立った彼女の方が、なぜか立場が上になってしまう……。

 否定する側が笑われる。

 言葉一つで有罪か無罪かを決められてしまう立場である以上は、その証言が確実なものであることを証明してもらわなければ納得ができない。


 ……なので、


「証言者の言葉の真偽を確かめる――ウソ発見器でも準備してください」



 男の要望通り、ウソ発見器が準備された。

 これがもう嘘みたいな機械だが、実績がある機械だ。

 何度も何度も、言葉の真偽を見抜いてきた――なので信用がある。


「果たしてそうだろうか」

「……なに? 今度はなんだね……まだ納得がいかないのか?」


「はい。実績があるということは、何度も使っているということですよね? でなければ実績も出ませんし、信用に値する性能があるとも確かめられませんから。……つまりその機械は現時点で、多少は劣化しているわけです……、壊れていなくとも、真偽の判断を、誤答してしまう不具合を出してしまう可能性だってあるわけです――。かと言って、新品を用意するのは不安ですね。その機械には実績がありません……同じ機械だとしても、まったく同じに動作するとは限りませんよね? 同じ人間でも、優等生と劣等生が混在するように。……なのでその機械が正常に作動していることを確認できる専門家を呼んできてください。開発者、もしくはメンテナンス業者……、まあ、確認ができる者なら誰でもいいですけど……。でなければ、そのウソ発見器がウソを出力しているという疑いはなくなりませんよ?」


 その後、要望通り、メンテナンスの業者がやってきた。

 機械の誤答が出れば、すぐに指摘できる専門家だ。


「では、その専門家がウソをついているか、いないか……確認する人はいますか?」


「貴様……ッ、これではきりがないだろう。そろそろ信用してくれないか!!」


 人間が言うことも、機械が出力することも、全てを完全に信用するのは難しいが……、疑い出したら天井がない。

 永遠に続いてしまう……。

 だからどこかで妥協しなければならないのだが……、それも難しい。


 立場がある。

 証言一つで罪の重さが変わってくるとなれば、他人を信用することはできない。


「人も機械もウソをつく……、いいや、ウソと呼ぶのは乱暴だな。本当のことを言わなかった――言わなかっただけで、ウソを言ったわけではない」


「そんな言い分で貴様の罪が軽くなるわけではないぞ――、しかし、貴様はどうしたって、他人を信じることはできないだろう? 疑い続ける……永遠に。家族だろうと恋人だろうと我が子だろうとも……、なぜなら貴様は、自分自身さえも、信用ができないのではないか?」


「当然だろ、真実は自身を追い詰めるだけだ」

「…………、哀れな詐欺師だ」


「そうだ、俺様は詐欺師だ――なのに信じるんだな、俺様のことを」

「――なんだと?」


「詐欺師の自供を信じて俺様を捕まえて……さて、それで得をしたのは誰だと思う?」




 …了

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