二章:過激派ファンと暗殺依頼
暗殺依頼
二章:過激派ファンと暗殺依頼
赤い荒野に夜の帳が降りていた。砂岩を踏みしめ荒野を横断しながら、ホログラムに映し出されるアズレアチャンネルを視聴し続ける。
誰もいないなか、最高の娯楽だった。
“アズレアちゃんの優しさに漬け込んだパラサイト便利屋、グレン・ディオウルフを磔刑に処する。あんな開けた後の缶詰の蓋みたいな奴はすぐにオレが排除してあげるから。アズレアちゃん、待っててね? 45000L”
カタカタと端末に文字を打ち込んで送信。
『ふふん。熱いコメントだな。別に我は構わんぞ? まぁ頑張り給え。なかなかに苦戦すると思うがな?』
響く老獪で幼い言葉。ホログラムの向こうでアズレアはケラケラと、何もかもを嘲るように笑っていた。
ナドゥル・クリシュナーはアズレアの配信に心酔しながら、燃え上がる想いを胸に押さえ込む理由もないのでグレンへの罵倒を書き連ねていく。
「ああクソ。なんであんな実力もない運だけの童貞野郎がアズレア様に気に入られるんだ……!! オレのほうが仕事もできる。«コードウォーカー»の二課だ……! あんな雑魚アメーバ、一秒もかからないってのに」
憎悪が歩みを掻き立てる。グレン・ディオウルフなどという穢らわしい男が画面に映った途端、いてもたってもいられずに休暇を取っていた。
職務用の外骨格も纏ったまま、頭部に装着した六つもの複眼レンズでアズレアチャンネルと、サブチャンネルを同時視聴。アズレア様にスパチャを送り、グレンのカスに罵倒を送る有意義な休暇。
最中、遠方で砂塵が舞い上がった。レンズの倍率をあげると映り込む有棘の触覚。無数の長い脚。荒野に巣食う巨大昆虫、ヒヨセイブキギスだ。
底辺の便利屋が襲われ、脚を噛まれ振り回されていた。
「邪魔なんだよ!! そこはアズレア様のところへ向かう最短経路だ!」
«コードウォーカー»として支給されている武器は全て対怪物用だ。どれもが巨大で、取り回しは効かないが破壊力は保証されている。
引き金を強く押し込むと蓄光する力。収斂し、研ぎ澄まされた砲撃が夜闇を切り裂く一条の光線となって放たれる。
――貫通。虫の甲殻など容易く切り裂けた。荒野に静けさが戻ると襲われていた便利屋が脚を引きずりながら駆け寄ってくる。
「……っ、助かりまし――」
「邪魔だ!」
ドン。と突き飛ばした。倒れる便利屋に解毒薬と抗生物質を投げ捨て、急ぎ足で都市へと向かっていく。
「っと、そうだ……。どうせ即日には付かないし依頼をすればいいのか。オレの手を煩わせるまでもないな。所持金だってオレの力さ」
すぐに暗殺を行える便利屋事務所をリスト化した。«天懴ゲ教会»、«金獅子事務所»、«プニャーレ四点技術工房»……«リード協会»。
「っち、高いな。一番安いプランでいいか」
入金。暗殺対象のデータ入力は笑えるくらい簡単だった。サブチャンネルのURLを添付するだけだ。
「ハハハ……。自業自得だなぁ。グレン・ディオウルフ……!」
高笑い。アズレアファンクラブの最高等級会員として、ナドゥル・クリシュナーとして、穢らわしい男の死に様を見届けるために荒野を歩き続けていく。
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