第13話  九条 彩芽

 どうして、私の前に九条彩芽がいるのだろう。九条彩芽のルームメイトは唯香であって、私ではない。


「ごきげんよう、私は九条彩芽と申します。これからよろしくお願いしますね」


「あの、九条さんは1624号室ですよね?」


「ええ、そうですよ」


 そんなはずない!だって、私が九条彩芽のルームメイトになってしまったら、九条彩芽は唯香との接点がなくなってしまう!そしたら、九条彩芽が唯香に恋をする可能性が低くなって、もしも唯香を好きにならなかったら香澄が唯香への恋心を自覚する機会がなくなることになる。


 そんなのいや〜!この状況をなんとかしないと!!


「九条さん!私、ロビーに行ってくるので失礼します!!」


「えっ、ええ。えっと、お気おつけて行ってきてくださいね」


 ロビー到着


「あの!部屋割りはどうやって決めているんですか?」


「部屋割りはくじ引きで決めています」


「そう、なんですか。ちなみに、変えることってできたりしますかね?」


「それはできません」


「そう、ですよね。教えてくれてありがとうございました」


 はぁ〜、どうしよう。このままだと小説と同じように話が進まなくなっちゃう。でももう、部屋のことはどうにもできないよね。


 はぁ〜、どうやって唯香のことを九条彩芽に好きになってもらおう。接点がないのに好きになるなんてことはないよね?たぶん。


 よし!もう私がやるしかない!!


 ガチャ


「あっ、お帰りなさい」


「ただいま。さっきは急に飛び出していってごめんなさい。私は白鳥美波っていいます。これからよろしくね、彩芽ちゃん!」


 作戦1、まずは仲良くなる!


「はい、よろしくお願いします美波さん」


「ねぇ彩芽ちゃん」


「なんですか?」


「さっきから思ってたんだけど、すっごく髪の毛綺麗だね!」


「えっ、ほ、本当ですか?私、髪の毛のお手入れ頑張っているのでそう言って頂けて嬉しいです」


「私、髪の毛の手入れなんてしたことなかった。良かったら、どういうことしてるのか教えてくれない?」


「いいですよ!髪の毛意外のことも良かったらですけど、教えられますしどうですか?」


「本当!教えてほしいな!」


 彩芽ちゃんは美容について詳しいのだ。本人もそういうことが大好きだと、小説の中で言っていた。大抵の人は自分の好きなことに興味を持ってもらえたら嬉しいはず!


 そんなこんなで、私と彩芽ちゃんはすぐに打ち解けてすっかり仲良くなることができた。ちなみに、部屋の整理が意外と早く終わって彩芽ちゃんに美容のことを教えてもらっていたら、うっかり素顔を見られてしまったけど、正体はバレなかった。よかった~一瞬心臓止まったかと思った。


 そして今私は迷子になっている。無事に入学式が終わり彩芽ちゃんと一緒に部屋に戻ろうとしたら、急にトイレに行きたくなってしまったのだ。彩芽ちゃんには先に部屋に帰ってもらったけど待っててもらえば良かった。


 どこだろう、ここ。あれ、この階段何処かで見たような…あっここ香澄と唯香が会うところだ!香澄が足を滑らせて、落ちてきた香澄を唯香が受け止めるシーンの場所だ!えっまって、あのシーンって入学式の後だったよね。もしかして今から起こるかも!!


 うわ〜!来た!


 廊下の先に唯香が見えて、私は興奮しながらも物陰に隠れながら香澄が落ちてくるのを待っていた。しばらくすると香澄も階段の上に見えた。でも香澄が階段から落ちることはなく、2人はお互いの存在に気づかずに別の方向に行ってしまった。


 えっ、なんで?なんで落ちないの?いや、落ちないほうが安全でいいんだけど、でもこのシーンは結構大事なシーンだったよね。


 私の知っている小説の内容とは違うことが多すぎる。一体何が起きてるの?


 


 




 


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