第11話  一ノ瀬 唯香

 引っ越してきて、早くも1ヶ月が過ぎた。


 明日私は香澄たちに内緒で、帰ることにした。それはちょうど、2週間前に思い出したことが理由だ。


 実はハニフラでは香澄と、美波のライバルキャラの一ノ瀬唯香は幼少期に1度会っているのだ。学園で会ったときは香澄も唯香もそのことを忘れていたけど、唯香はそのことを思い出して、香澄を好きになる要因の1つになるのだ。


 その場面をどうしても生で見たいと思った私は急遽みんなに知らせずに、帰ることにしたのだ。


 翌日


 1ヶ月いなかっただけなのに、なんだかすごく久しぶりな感じがするな〜。


 今日は日帰りの予定で、秋を空港において来ている。


 香澄と唯香の初対面の場所に行く前に、まずは変装しないとだよね。う〜ん、どうしよう。とりあえず、前の家に行ってみようかな、今はたぶん誰もいないだろうし。 


 おっ、鍵が開いてる!良かった〜!どういう変装にしようかな〜。あっ、男の子用の服がある。これにしよう!サイズも丁度いいし、髪は帽子で隠せばいいしね!


 お〜、どこから見ても男の子だ。うん!これならバレないね。


 香澄と唯香が会ったのはたしか、市場の噴水のところだったんだよね。このあたりかな?小説だと、出会った時間までは書かれてなかったから、とりあえず朝の8時に来たけど少し、いやだいぶ早かったかな。


 あ〜あ、暇だな。お腹も空いたし。何か買いに行こうかな、でもその間に2人が来るかもだし、は〜どうしよう。


「あのっ」


 えっ、私?


「わた、あっ、僕に話しかけてる?」


「はい!あの、私この街に初めて来てどこに何があるかもわからず迷ってしまって、その、良ければでいいんですけど道案内をしてくれませんか?」


 ど、どうしよう。道案内してあげたいけど、2人がいつ来るかわからないし。


 う〜ん、でも少しだけならいいか。2人もこんな早くから市場に来ないよね!


「いいよ。それでどこに行きたいの?」


「駅に行きたくて」


「わかった、駅ね。駅からは?帰れる?」


「はい。駅からは帰れます」


「よし!それじゃあ行こっか」


 この子、私と同い年ぐらいかな?てか、すっごく可愛いんだけど!


「あの、お兄さんはなんて名前なんですか?」


 えっ、名前。流石に美波は男の子にいないだろうし、どうしよう。


「えっと、僕は、みな、ミナト!そうミナトって言うんだ」


「ミナトさん、ですか。今日はありがとうございます。なかなか周りに、同じ年頃の人がいなくて話しかけにくくて。ミナトさんがいて本当に助かりました」


 すっごい、いい人だな。なんか、育ちの良さがにじみ出てるよ。


「僕こそ、助けになれてよかっ『キャー』え?」


 悲鳴?どこからだろう。


「車が暴走してる!こっちに来るぞ!」


 車?どこに…いた!


「逃げるよ!」


「はい!あっ…痛っ」


「大丈夫!?」


「…大丈夫です」


「よかった、それじゃあ早く…」


 ふと横を見ると、暴走した車が私たち2人に向かってはしってきていた。


「あっ、危ない!」


 とっさに女の子を押し倒し、なんとか車に轢かれずに済んだ。


「ごめん。大丈夫?勢いよく倒しちゃったけど」


「あっ、大丈夫です!えっと、その、ミナトさんのおかげで轢かれずに済みました。あの、それと、ミナトさんは女の子なんですか?」


「へ?なんで…」


「あの、髪の毛が…」


 あっ、帽子がない!まぁでも、香澄にバレないための変装だしいっか!


「ごめんね。隠してて。騙してたわけじゃないんだけどね」


「い、いえ!あの、すごく綺麗ですね」


「へ、えっと、ありがとう?そういえば、まだ名前聞いてなかったけど、なんて名前なの?」


「あっ、そうでしたね。私は、一ノ瀬唯香と言います。改めて、先程は助けていただいてありがとうございます」


 …一ノ瀬唯香。えっ、まさか、いやそんなはずない!でも、よく見ると面影がある気がする。それに、香澄と唯香が会うときも暴走した車が向かってきて、香澄が唯香を守るって内容だったし、うわ〜どうしよう!香澄の役目奪ってるじゃん!えっ、え、どうしよう、どうするべき!?とりあえず、本名は隠そう!それで、可哀想だけど道案内はやめよう!


「唯香ちゃん、その、私急に用事を思い出しちゃって、道案内は他の人にしてもらって!それじゃあ、バイバイ!」


 逃げるが勝ち、逃げるが勝ちだ!早くここから立ち去ろう!タクシー!早くきて!


「空港まで、できれば急ぎめでお願いします」


 空港につくと、秋が大量にお土産を買っていた。


「秋!早く帰ろう!」


「えっ、お嬢様。もう用事は済んだんですか?」


「うん。だから早く帰ろう!」


「えっ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜。もう少しだけお土産買いたいんです」


「もう十分買ってるでしょ!いいから早く帰るよ!」


「え〜そんな〜」


 あの後、帰りたくないという秋を無理やり連れて凄まじい勢いで家まで帰った。そして私は決めたのだ。今度こそ慎重に行動しようと。


 



 


 






 


 

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