この狂った世界で俺は最弱と認定された
つむ
家事以外はなんでも出来る天才美少女
〇完璧(?)な美少女と不良品な俺
「今日はお弁当きたの!食べてみて!」
…そうして俺の目の前の少女が差し出してきたのは…暗黒物質(ダークマター)だった。
「本当にお前って家事出来ないんだな…」
そう言って俺が目の前のダークマターを食すか否か、身体と相談していると…
「頑張って作ったのよ!?食べてくれるよね?」
…と、そんなこの世で1番悪魔的な声が俺の耳に入ってきた…
この後、俺は原因不明(?)の腹痛と一日戦うことになるのだった…
見た目も運動神経も頭も申し分ないんだけどな…後は家事だけだな…
さぁ、俺が一体どうしてこの少女とこんな訳の分からない非日常を送っているのか、それを振り返るために俺とこの少女、一ノ瀬渚の出会いから振り返ることにしよう。
…そのために、まずはこの狂った世界の仕組みから説明しようか。
〇ようこそ、狂った世界へ
学校生活を送る上で個人差や日による違いはあれど、常に学校生活が不快であるという人間は居ないだろう。
…俺みたいな人間を除いては。
俺の名前は一(にのまえ)一(はじめ)
世界一簡単な名前だ。
なぜ俺にとって学校が不快かというと…
「おい不良品w今日はちゃんと学校来れたのかよw」
こいつは木崎、俺のクラスメイト(いじめっ子)だ。
「ああ、お陰様で。お見舞いありがとな」
先週は学校を休んだ俺に対して家にまで押しかけて窓から石を投げ込むというお見舞いをしてくれた。
「ってことはまたお前を可愛がってもいいってことだよな?」
出席足りなくなると困るし是非ともやめて欲しいものである。
…と、僕がそんなことを考えていると、
「やめておけ、木崎。すぐ潰れたら困るのは俺たちだろう?」
この男の名前は王 優希、このクラスの長みたいなことをしている奴だ。
まぁ理由はともあれ助かった…
なんで僕がこの学校でこんな目にあっているのか、それは、10数年前、この国に制定された新たな法律『人材育成制度』のせいだ。
この世界では個人の能力によってランク付けが行われる。
ランクの分布はA+、A、A-、B+…D-の12段階のはずなんだが…
俺に告げられたランクは「E」だった。
今までにこの学園に通った生徒の中で評価Eを受けた生徒なんてのは存在しないらしい。
いや、というよりこの世界で見ても俺以外に未だ前例を見た事は無い。
だが俺は能力的には普通ぐらいだと思うしCランクやDランクの生徒たちとは何も変わりないのだが…
ランク付けっていうのは厄介だな。表面化されている評価で自分より下だとどうやら立場がなくなってしまうらしい。
―まぁ気にする程のことではない。
おっと、気づいたらホームルームが始まっていたらしい。
担任が出席確認のためにランク順に全員の名前を読み上げていく。
このクラスはC~D-までの生徒が在籍する最低ランクのクラスだ。(僕はさらに下な訳だが)
「今日は落ちこぼれいるか?」
「せんせー、ちゃんと来てますよw」
「あぁ、すまんすまん、視界に入らなかったもんでなw」
…と、何故か担任まで生徒と同じように僕を扱う。そんなので何が満たされるんだ?
正直にDクラスの担任なんて任せられてる時点で一緒だと思うのだが…
こっちの反応を確認するな、不愉快だ。
そうして朝のホームルームは終わりを告げた。
そうして俺が次の時間の準備を始めようとしていると…
「おい、不良品、ちょっとツラ貸せよ」
やれやれ、どうやら俺に息をつく時間なんてものは無いらしい。
そうして俺は傷だらけの体で1日、学校生活を送るのだった。
下校の時間。
部活動などには所属していないため僕は真っ直ぐ家に帰るわけなのだが…
この世界は危険だ。
優秀な人間は何をしても許される、そんな世界であるため、交通事故なんてのは日常茶飯事だ。
現に今も、青信号を横断しようとしている僕は高そうな車に轢かれかけている訳だしな。
その世界は優秀な人間の割合によって地域区分がティアA(ランクB以上の人間が75%以上)、ティアB(50%以上)、ティアC(25%以上)、スラム街(25%以下)に分けられている。
今俺がいる地域はティアB。優秀な人間がそれなりに多く住む区域だ。
高ティアの地域であるからこそ、ランクが上の人間には従わなくてはならない。
そんな暗黙の了解が広まりつつある。
そのため、ランクEである俺にはどこであろうと安息なんてものは与えられないということだ。
やれやれ、一体全体、いつになったらこの世界は元に戻るんだろうな…
だが、こんな僕の非日常はある日、終わりを告げることになる。
数ヶ月前のある日、俺はいつものように怠惰な日々を過ごしていた。
早くこんなシステム無くなればいいのにな…
そう思わず呟きながら帰路を辿っていると…
「おい、そこのお前、ランクはいくつだ?」
…と、そんな声が背後から聞こえてきた。
まずいな、強盗?引ったくり?まぁそんな所の人間か?
「評価C…ですけど…」
評価Eの人間だとバレて面倒ごとに巻き込まれても面倒だ、僕はそう告げる。
「ハッ、お前のその態度、それを見てれば高ランクの人間じゃないことは分かってんだよ、誤魔化そうとしてんじゃねぇぞ」
さて、どうやってこの場を切り抜けようか…
そんなことを俺が考えていると、背後から女の声がした。
「やめなさい!」
その女は、うちの学校の制服を着ていた。
こんな奴いたか?顔を頼りに記憶を頑張って辿っていくと…心当たりがあった。
「お前は…確か一ノ瀬渚…だったか?」
俺の記憶が確かなら、こいつはうちの学校設立以来の天才と言われている、評価A+の正真正銘の天才だ。
「あら、私の名前知ってるの?」
「まぁ…そりゃあんたは有名人だからな」
「まぁ私みたいに美少女で頭も良くて運動出来ると目立っちゃうわよね〜」
なんだこいつ。案外思ってたのと違う感じなのな。
「自意識過剰…とも言いきれないのがダルいな」
「でしょ?ありがとね」
「ま、無駄話はここまでにして、さっさと帰りましょ」
「あ、そういえば一つ質問なんだが…」
「ん?何?あんまり女の子に変なこと聞くと怒られるわよ」
「ちげぇよ、なんで俺なんか助けてくれたのか、ってことだよ」
しかも学校内で悪名高いであろう評価Eの俺を。なにか狙いでもあるのだろうか。
彼女はそんな俺の思考を見透かしたかのようにこう言った。
「あのねぇ、別に狙いなんて無いから安心しなさい」
彼女はそう言うと、こちらを真っ直ぐな目で見つめてこう言った。
「困っている人がいたら助ける、なんて当たり前のことでしょ?」
そう言って微笑んだ彼女の顔はこの世のどんなものよりも美しく、輝いて見えた。
そんな出会いから数週間が経過したある日、俺はまたもや一ノ瀬の手当を受けることになっていた。
…と言っても俺があまりにも様々な場所で困っているため、2日に1回は一ノ瀬に世話になっているのだが。
「マジで毎日のようにすまねぇな…」
「いいわよ、私が好きでしてる事なんだから」
そう言って彼女は、俺の額に残る傷跡に絆創膏を貼り付けてくれる。
「にしてもあんた、なんで評価Eなんでしょうね、パッと見DやCの人たちと大差ないように見えるのにね」
それは確かに俺も感じていたことだ。
一体この評価がどういう基準でついているのか、その仕組みを知らないことには意義の唱えようもない。
「まぁ、決して能力が高い訳では無いからほんとに正しかったりしてな」
「この能力ってさ、あくまでも学力身体能力の2項目しか反映されてなさそうよね」
「ああ、そうだな」
まぁ、ほかの能力が含まれるようになったとて、俺に得意なことなど無いのだが…
「あんたってさ、家事できる?」
「ああ、一人暮らしだしな」
そういうと、一ノ瀬はどこか恥ずかしそうな様子で目を伏せながら、いつもの3倍増しで弱々しい声でこう言った。
「じゃあさ、私に料理を教えてくれない?」
そんな訳で俺と一ノ瀬の、ウィンウィンと言えるのか怪しい関係が始まったのだった。
さぁ、時間軸を現在に戻そう。
目を覚ました俺の視界に1番に入ってきたのは、見知らぬ天井だった。
「ここは…どこだ…?」
そうして周りを見渡してみると…
一ノ瀬の姿が視界に入る。
俺はそこで、俺の身に何が起きたのかを思い出した。また倒れそうだ…
「ここはどこなんだ?」
そう俺が聞くと、一ノ瀬はなんでもないかのような振る舞いでこう言った。
「学校の保健室よ、あなたが急に倒れたからね」
誰のせいだと思ってんだこいつ。
あれから何ヶ月という月日をそれなりに長い時間共に過ごしてわかったのは一ノ瀬渚という少女は家事以外ならほんとになんでもできるということとどれだけ天才と言われているこの少女でも、打ち解けてしまえば普通に人間だということだ。
あれから一ノ瀬は次第に心を開いてくれたのか口調も崩れてきて今では大体の時間行動を共にしている。
「じゃあ一ノ瀬は看病してくれてた訳か」
「ああ、途中になんとなく看病っぽいことと思ってタオルを持ってきたんだけど…何故かタオルが氷の塊になっちゃって…」
「????」
それに関してはもう家事できないなんて次元じゃなくないか?
って言うか何しようとしたんだよこいつ。
「ほら、よく病人には冷やしたタオルを額に乗せるだろ?あれをしたかったんだが…」
「お前、もしかしなくてもタオル冷やすために冷凍庫使った?」
「ああ、冷やすと言えば冷凍庫だろ?」
こいつ今までどうやって生きてきたんだよ…
「…まぁ、何はともあれ体調は治ったからさ、次からは気をつけような?」
次は俺も一緒に料理を作ることにしよう。俺の身が持たない。
一体こんな狂った世界はいつまで続くんだろうな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます