作りかけのハンバーグ

@mohoumono

好物

意を決してドアロブに手をかける。

回さずとも結果はわかりきっている。

臭いと苦情とコバエそして、音信不通

それらが揃っていたから。

結果はある程度予想できた。

警察に頼ればいい。初めはそう思ったが、あまりにも無責任な考えだと思い直した。今までもそうだったのに、手助けできる瞬間はいくらでもあったのに、余裕がなかった。だからこそ、向き合わずに逃げた結果と向き合わなければならない。逃げているばかりでは、同じことを繰り返してしまいそうだから。ドアロブを回し、ドアを引いて開ける。

思わず顔を覆いたくなるほどの異臭がする。ドブ川の匂いだとか生卵が腐った匂いだとかそんなことすら生温いと感じる程の臭いが体全体を覆うように流れてくる。やっぱりそうなってしまったのか。後悔と罪悪感が込み上げて、胃の中をかき混ぜられているような嫌悪感が口から溢れ出そうとする。それを口を覆って飲み込む。苦しくてしょうがない。でもあいつがつけた苦しみは、この程度じゃなかったはずだ。それは、ドアを開けて見えた目を疑うような光景が証明していた。ゴミが聳え立っていた。足の踏み場がないとかそう言う次元の話ではなかった。腰くらいの高さのあるゴミが奥まで続いている。異様としか言い表しようがなかった。ゴミをよじ登り、奥へと進もうとする。けれど、そこにいる誰かが近づくのを拒んでいるかのように、奥に進むほど臭いが強くなる。そして、顔を顰めながらそこに辿り着いた。ようやく会えたとは思えなかった。そこにいる誰かは、僕が知らない他人だと思うほど、変貌していた。シワが増え、白髪が増え、実年齢の2倍くらいの見た目をしていた。写真を見せられただけでは、僕は特定できなかっただろう。もう直ぐ警察が来る。管理人が通報したからだ。そして、警察が来て話を聞かれた。あなたは誰か?、職業は?、この人との関係は?、何故今日はここに?そんな当たり前のことを聞かれた。僕は正直に答えた。突然目から涙が溢れた。その次の瞬間から、涙が止まらなかった。遺体を見た時は、申し訳ないとしか思わなかったのに。急に、悲しくなった。虚しくなった。きっと現実に心が追いついてきたんだ。何も食べてないのに。何も飲んでもないのに。口の中が苦くなる。「あいつが死んだのは、僕のせいかもしれないんです。あの時、電話に出なかったんです。疲れていて、余裕もなくって、寝てしまったんです。それから、何度電話をかけても連絡がつかなくなって、どうしようもなくって、そこでまた誰かに相談したらあいつは生きていたんですよ。きっと、そうなんですよ。」僕の口から言葉が溢れる。そうですか。ただそう返ってくる。「あいつは、何で死んだんですか?」

「今は申し上げることはできません。」「なら、直ぐ連絡をください。お願いします。」僕は、ただ頭を下げた。そこから、暫くの間、頭を上げることはできなかった。そして、少しして連絡が来た。予想の通りではなかった。見た通りだった。話では、シンクに作りかけの腐ったハンバーグがあり、そして、あの聳え立つゴミの中にスマホが埋もれていたという話だった。

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