○○ゴルディロックス【フリー台本】
江山菰
○○ゴルディロックス
*登場人物
(A~Dは30~40代女性または男性、またはトランス、ただし全員同性にすること。A~Dには適当な名前を任意でつけること。全員の方言は同一地域で)
A・・・きつい○○弁。にぎやか
B・・・ きつい○○弁。にぎやか
C・・・きつい○○弁。にぎやか
D・・・ほどほどな○○弁。遠慮しつつもずけずけ言うタイプ。
*演技・編集上の注意
・タイトルの○○には方言に合わせた地方名を入れてください
・便宜上、女性風の言葉遣いの標準語をデフォルトに表記していますが、性別らしい言い回しで、お好きな方言に変更して演じてください。また、男性が演じるときは、作品中の「旦那さん」も「奥さん」など、言い回しを変更してください。
・配役が決まったら、各自お手数ですが自分の台詞をこってこての方言に書き換えてください。
・演技はお任せ。
・指定していない箇所のSE・BGMは任意で。
*以下、本文
SE:のこぎりや釘打ちの音を適当に流す中、ドアが開く音。
C「(SEに負けないよう怒鳴って)はい、みなさーん ! 今日はお客様をお連れしましたー!」
SE:木工の音がやむ
A「えっ、お客様?」
B「お客様が来るなんてありえなくない?」
C「こちら、Dさん。さっき買い出しの帰りに会ったの。道に迷ったんですって。もう暗くなってきたし、泊めてあげましょうよ。Dさん、こっちがAちゃん、そっちがBちゃん」
D「あ、あの……こんにちは、初めまして……」
A「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
B「あらあ、随分くたびれてるわね。座って座って!」
D「(おそるおそる)お邪魔します。(間をおいておそるおそる)あのー、ゲストハウスだって聞いて、連れてきていただいたんですけど」
A「(Dの台詞に被せて)ねえBちゃん、もう日も落ちたし、お客様もいらしたんだから、今日はそろそろおしまいにしない?」
B「そうね、キリもいいし」
D「ここ、ほんとにゲストハウスなんですか? なんか、ぼろぼろのトレーラーハウスみたいなんですけど」
C「ええ、中古のトレーラーハウス5台をEの字型に組んでて、ここは真ん中の横棒の部分よ。素敵でしょ? あっちの端はゲストルーム、こっちの端は私たちの部屋。まだ営業許可をもらってないから、Dさんはあくまでも私たちの知り合いとして泊まっていってね」
D「(警戒しつつ)……ありがとうございます」
A「とりあえずカフェとしてやっていって、ゆくゆくは宿泊施設の営業許可もとってゲストハウスにしたいの。現在鋭意改装中なのよ」
B「私たち、三人とも幼馴染なの。仲良し三人の手作りでお店開けるなんて素敵でしょ?」
D「……このあたりって、お客さん来るんですか?」
B「採算は度外視よ。今のところお金には困ってないし、気心の知れた仲間で集まって、みんなでおままごとみたいに商売できたらいいの」
C「のんびり好きなようにやれるっていうのが私たちにとっての価値なの」
A「(笑って)そうじゃなきゃこんな人が通らないところでお店なんか開かないわよねえ。楽しければそれでいいし、もしお客さんが来てくれるならさらに良しってとこ」
D「(納得していない雰囲気で)なるほど」
A「お金がないわけじゃないけど、今もこうやってモノづくりの過程を楽しんでるの。私はねえ、木工系技能士とか電工系の資格持ってるからうわもの担当よ」
B「私配管系の資格は一通り持ってるから、井戸水をポンプで汲んで除菌浄水器もつけて、蛇口捻ると出るようにして使ってるの。ちゃんと保健所の水質検査も受けてるわ。あとインテリアプランナー資格もあるのよ」
C「私は税理士と……あと昔パブとかでピアノ弾いてたしテーブルマジックも得意なの。客あしらいなら任せて!」
D「皆さん、めちゃくちゃすごいんですね」
C「そうなの。私たちめちゃめちゃすごいのよ」
D「じゃあ、インテリアとエクステリアの
A「(少し口ごもって)まあ、そのつもりなんだけどね……」
B「あ、みんな夜ご飯どうする? ××でいい?」※××はご当地っぽい安めの市販食品ならなんにでも変更可能
D「(呟いて)××……」
A「(Dの台詞に少し重ねて賑やかに)やったあ! ご馳走ね!」
D「(呟いて)ご馳走?」
C「(Aの台詞と重ねて賑やかに)すごい! こんな贅沢して、大丈夫なの?」
D「(呟いて)贅沢?」
B「(得意げに)お客さんが来てるんだからこれくらいは贅沢しないとね。Dさんも××でいいでしょ?」
D「(おどおどと)あ……あの、本当に失礼で申し訳ないんですけど、他のものは何かありますか……」
B「えっと……ポテトチップスとチョコレートなら……」
A「お醤油とお砂糖はあったような気がするわね」
C「さっき買い出しに行ったから卵と牛乳と、えーと、もやしと食パンならあるけど」
D「緑黄色野菜とか、肉や魚とかは?」
C「調理の手間がかかるものはあまり買わないのよ」
D「私、さっきから皆さんの爪の色とか表面の凸凹が気になってて……貧血気味じゃないですか?」
C「あら、ばれちゃった?」
D「そういえば、どなたか調理師とかパティシエとか、お料理系の資格は持っていらっしゃる方は?」
C「(てへぺろ風に)あー、そこが弱いのよー」
A「(笑って)私たち三人とも、お料理は苦手なのよ。ねー?」
B・C「ねー?」
D「(控えめに呆れて)カフェメニューとかどうするつもりだったんですか?」
B「コーヒーとかはインスタントでいいし、食事の方は冷凍の宅配弁当をチンして出そうかなって」
D「本気ですか」
B「(笑って)そりゃあ、××が最高のご馳走な私たちだもん、宅配弁当なんて豪華フルコースよ」
C「こんな山の中に来る人なんて、何食べてもご馳走でしょ」
間。
D「(溜め息をついて)すみません、キッチンと食材を貸していただいてもいいですか。皆さんの分まで食事を作りますので」
B「え、いいの」
C「願ったり叶ったりだわ」
A「楽しみ!」
SE:調理音、チンする音を数回。炒める音などは絶対に使わないこと。皿を並べる音。
C「もやしの洋風ナムルに、外に生えてたホスタ入りの××、あら潰しのポテトポタージュ、生チョコプリンです」
気まずい間
C「(気まずそうに)すみません、偉そうに『作る』って言った手前お恥ずかしいんですが、まず鍋がないので……ここまでどまりです」
SE:料理に手を付ける音
A・B・C「(多少バラバラでも問題なしで同時に)おいし~~~い!!」
A「(がつがつ食べつつ)天才! 天才が現れたわ!」
C「(がつがつ食べつつ)すごい! 有名なお店のシェフなの?!」
B「(がつがつ食べつつ)鍋もないのに、どういうことなの?! 魔法みたい!このスープのじゃがいも、どこから出てきたのよ」
D「ポテトチップスを温めた牛乳でふやかして潰しただけです。普通の主婦ならこれくらいはできますって」
C「いいえ、できないわ! 私たちだって普通の主婦だったもの」
C「このホスタってやつ? 確かにこの辺によく生えてる! 食べられるのね」
D「日本ではあまり食べないみたいですけどヨーロッパでは食べるそうですよ」
C「じゃあ、あなたヨーロッパでシェフの修業したの?」
D「いえ、野草料理のことを本で読んだだけで、いつもは普通の野菜使います」
B「まあ! 勉強家だわ!」
A「才能よ、これは! 才能のなせる業よ!」
D「(照れて)……ま、まあ、料理とかお菓子作りとかは好きで、今まで定食屋さんで働いてました」
A「じゃあ、調理師免許持ちなのね」
D「はい、まあ……この間取ったばっかりです」
C「あら!」
B「まあ!」
A「最高の人材だわ!」
B「このチャンスを逃す手はないわ!」
C「……ねえ、Dさん、ここで働かない?」
D「え」
A「現状、施設的な面はいいとして、私たち三人だけじゃ飲食店営業許可とかの申請ができないの」
C「知り合いに料理できる人がいなくて詰んでたのよ」
B「最後の手段としては誰か攫ってくるしかないなーって、三人で話してたとこよ。まあ、攫うってのは冗談だけど」
A「ねえ、Dさん、ここで私たちと一緒にゲストハウスやっていかない?」
D「あっ、あの、店で働いてたって言ったって、ほんとに下働きでしたし……」
B「大丈夫よ、私たちの料理ときたら黒焦げか生か、なんかケミカルな臭いがするかの三択だもの」
D「せっかく幼馴染三人で気兼ねなくお店を出そうとしてらっしゃるのに、私がいたら気を使わせてしまいそうですし、」
C「ううん、それなら大丈夫。私たち、あなたとは仲良くやっていけそうな気がするの。私が言うんだから確かよ」
A「Cちゃんの言うことってすごく当たるのよ」
D「でも、急すぎて……一度帰って、二三日考えてからお返事してもいいですか」
C「帰るってどこへ?」
D「(戸惑うように)え……」
B「Dさん、……あ、Dちゃんって呼んでいい?」
D「あっ、はい」
B「Dちゃん、この辺の人じゃないよね? なんでこんな山奥を一人でうろうろしてたの」
D「それは……あの、ちょっと一人になりたくて」
A「一人になりたい程度で来るような場所じゃないでしょ。ここら辺は観光地じゃないし、お店も民家もほとんどないのに」
C「そうなのよー。だから声かけて連れてきたのよ。この辺、なーんもない山奥でしょ。暗くなったらクマも出るのよ?」※クマがいない地域の場合、イノシシ・野犬などでもOK
A「帰るところなんてあるの? 訳ありなんじゃない?」
B「Dちゃんがそこの椅子に座ったとき、ポケットからホムセンのレシートが落ちたの。ごめんね、Dちゃんが料理してる間、何買ったか三人で見ちゃった」
D「(声を震わせて)それは……」
C「(遮るように)ロープとカッター持ってる人を、夜、こんな山の中に一人で放り出すわけにはいかないのよ」
B「今も持ってるんでしょ?」
D「……私が死にに来たと思ってるんですか」
B「うん、まあ、そうね」
D「私が、他人に危害を加えるために持ち歩いてるとは思わないんですか」
C「もしそうだったとしたら、かかってらっしゃい。私たちはものすごく強いわよ?」
D「変わってますね」
A「(穏やかに)それは私たちには誉め言葉だわ」
D「(ためらうような間を置いて)……私、何て言ったらいいかわからないんですけど、積極的に死にたいってわけじゃないんです。でも生きていたくないんです」
B「だからこの辺を徘徊してたってわけ?」
D「はい。クマにも出会えなくて」※クマがいない地域ではイノシシや野犬でOK
C「ラッキーだったわね」
D「そうでしょうか」
C「ラッキーよ! だって私たちは調理師免許のあるDちゃんと生きているうちに出会えたんだもの」
B「Cちゃん、調理師じゃなかったらアンラッキーみたい言い方よ、それ」
C「クソリプみたいなこと言わないの」
B「(手を叩いて笑って)クソリプー」
C「(笑って)クソリプー」
B「(笑って)ウケる(笑い声を続けて)」
C「(笑って)沸点低すぎ(笑い声を続けて)」
A「(BとCの笑い声をバックに)ねえ、Dちゃん……余計なお世話だろうけど、昔の私たちはこんな能天気じゃなかったの。さっきCちゃんが私たちも昔は主婦だったって言ってたでしょ」
D「はい」
A「Bちゃんは旦那さんが未成年の子と駆け落ちしちゃった。Cちゃんは、旦那さんより稼ぎがよかったからコンプレックスを刺激しちゃって毎日殴られてた。私はね、親から引き継いだちっちゃい会社でがんばってたんだけど、夫に乗っ取られて叩きだされちゃった。……私たち三人ともね、死にたかったの」
D「そう……なんですか」
A「虫の報せだと思うけど、死ぬ前に会いたいなって思って数年ぶりに女子会してみたらね、三人とも目に光がなくてげっそりしてたわ。心配させたくなくてお互いの状況隠してたのよ。でもどんどん飲んでタガが外れちゃったの。話してるうちになんか泣きながら大笑いしちゃってね。で、なんかすっきりして、三人とも弁護士つけてがっつり闘った後、今に至るってわけ」
D「(小さく唸るように)んん……」
C「何が起こったかは聞かないけど、Dちゃんのつらさもある程度は理解できると思うわ」
B「全て理解されちゃうと気持ち悪いわよ。半分くらいがちょうどいいでしょ」
A「えー、半分でちょうどいいの? 7割は欲しいわ」
C「7割はちょっと高望みだと思うけどな」
D「あの、すみません……疲れたのでもう休ませていただいてもいいですか」
C「あ、じゃあ、お部屋とシャワー、案内するわね」
A「おやすみなさい。使いにくい場所とかあったら明日教えてね」
B「おやすみー」
D「おやすみなさい」
SE:朝の鳥のさえずり
D「おはようございます」
A・B・C「おはよう(アドリブ可)」
B「よく眠れた」
D「はい、おかげさまで。快適でした」
A「よかった!」
C「はい、コーヒーどうぞ」
D「ありがとうございます。(一口飲んで、少し考えてから)あの、ここ、いつ頃完成しますか」
A「そうねえ、あと二、三か月って感じかな」
D「カフェの営業許可証の書式はありますか」
SE:キャビネット/戸棚を開閉する音
C「(SEに重ねて)ええ、書けるところまでは全部埋めて、現時点で揃えられるものは揃えてるわ、ほら」
D「見せていただいていいですか」
C「え、いいけど」
D「……次来るときには、私がちゃんと全部書いて不備なく提出できるようにします。それと、昨晩、厨房の設計でお願いしたいことをこのメモにまとめました。よろしくお願いします」
A「ってことは?」
D「一晩考えたんですけど、私、ここで働かせていただこうと思うんです」
B「……儲かんないけどいいの?」
D「そのときはそのときです」
A・B・C「(やったあ、ありがとう、などの歓声アドリブ)」
C「あ、でも次に来るってことは、一旦帰るの?」
D「はい。片付けなきゃいけないこともあるので」
B「大丈夫?」
D「多分大丈夫です……私、今まで自分の問題と闘おうとしなかったんです。闘ったとしてもその後どうやって生きていけばいいかわからなくて……でも、昨晩皆さんのお話を伺って、道が見えてきた気がするんです。三か月、ひょっとすると……半年くらいかかってしまうかもしれませんけど、待っていていただけますか」
A・B・C「(不揃い・アドリブでもOK)ええ、もちろん!」
D「……皆さん朝ご飯は召し上がりました? 何か作りましょうか」
A・B・C「(お願い!/その言葉を待ってたの/やったあ、などアドリブで)」
――終劇。
○○ゴルディロックス【フリー台本】 江山菰 @ladyfrankincense
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