HR前

 教室についた。昨日、席替えをして、窓側の一番後ろの席になった。見ると僕の席から一番近い窓の前に睦月は立っていた。何か考えているようで、指を顎につけて細かく動かしている。

「あの雪はやわらかい…でもその下はきっと硬い。つまり…」

 つまり、失敗しても成功しても痛い——。

(また、楽でなるべく綺麗にできる自殺法を考えてるな…)

「やっぱりダメだぁ…」

 睦月は残念そうな声で言った。そして僕に気づいたらしく「おはよう、葵」と言った。「おはよう、睦月」と返す。

 そして問う。

「今日も朝から『脳内自殺』かい?」

「まぁね。でも私が求める『楽で綺麗な自殺』は予想できなかったよ」

 そう言って笑う睦月の目は、輝いていながら死んでいた。

「睦月…無理に笑うな。僕に対しては、無理に笑わないでくれ」

「笑っていたか…悪いな、あなたには偽りを見せないつもりだったが…」

 少し目線を逸らし、暗い顔をした彼女に焦って言葉を続けた。

「謝るかとはないよ。睦月は『作った』自分を少しずつ壊していってる途中なんだからさ」

「あぁ、ありがとう」

 目に輝きは無かったが、口もとは緩んでいた。

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