少年少女大戦
セイセイ
第1章:カラフル編 - 色彩の侵食者
第1話「始まりはいつもカオス!我らグレーケルベロス」
グレーケル「はぁ……………」
静かな事務所に、若い社長のため息だけが響く。
ここは弱小芸能事務所「カラフルプロダクション」。その社長である私、グレーケルの机の上には、今日も請求書の山、山、山。
グレーケル「どうしてうちの事務所は、こうも備品の破損率が高いのかしら……。今月の赤字、どう補填すれば……うっ、胃が……」
ごそごそと引き出しから胃薬を取り出し、水で流し込む。これもすっかり日常の一部になってしまった。個性的なメンバーを揃える、という方針は間違っていなかったはず。……はずなのだけれど。
ベロス「お姉ちゃーーーん!こんにちわんだふる!」
バンッ!と勢いよくドアが開き、犬の耳のような髪型を揺らしながら、元気いっぱいの声が飛び込んできた。私の秘書であり、妹のような存在のベロスだ。
グレーケル「ベロス……。おはよう。あなただけが私の癒しよ……」
ベロス「えへへー!お姉ちゃん、今日も眉間にシワが寄ってるよ?ぷっぷくぷー!」
そう言って、私の眉間をむにーっと指で伸ばしてくる。その屈託のなさには、いつも救われる。
グレーケル「……ありがとう。それで、今日のスケジュールは?」
ベロス「えーっとね!今日は特に大きな予定はないよ!だから、ヌシPさんが『美の探求に出る』って言ってた!」
グレーケル「あの変態のスケジュールは聞かなくていいわ。ろくなことにならないもの」
ヌシP(セイン)。 うちのプロデューサーだが、彼の行動原理は誰にも理解できない。美の探求と称して全裸で散歩に出かける奇行は、もはや名物……というより、ただの公然わいせつだ。
ドッッッッッガーーーーーーン!!!!
グレーケル「きゃあああっ!?」
ベロス「わわっ!?」
突如、地響きと共に事務所の床が大きく揺れた。天井からはパラパラとホコリが落ちてくる。発生源は……言わずもがな。
グレーケル「……また地下ね」
ベロス「うん!きっとレトリバー金さんだよ!今日の実験はなんだろうね、お姉ちゃん!」
キラキラと目を輝かせるベロスとは対照的に、私の胃はキリキリと悲鳴を上げる。
地下の扉がゆっくりと開き、紫色の、いかにも体に悪そうな煙がもくもくと流れ出してきた。
レトリバー金「ゲホッ、ゲホッ……!くっそー!また失敗か!理論上は完璧だったはずなのに!素粒子のエンタングルメントが計算値と0.0001%ズレただけでこのザマか!」
煙の中から、白衣を煤で真っ黒にした女……グレーケルベロスの頭脳にして、私の親友、そして最大の問題児である科学者、レトリバー金(こがね)が姿を現した。
グレーケル「レトリバー!あなた、また何をやってたの!?事務所を吹き飛ばす気!?」
レトリバー金「おお、グレーケルか。いやなに、ちょっと時空の連続性を歪める実験をね。成功すれば過去の自分に宝くじの当選番号を教えられたんだが」
グレーケル「そんなことのために事務所を破壊しないでちょうだい!」
シルBOW「このポンコツマッドサイエンティストがァッ!!」
レトリバー金の後ろから、機械的な合成音声が響く。彼女が作ったというAIロボット、シルBOWだ。
シルBOW「貴様のせいで私のピカピカのボディに傷がついただろうが!責任とって四肢切断の上、ミジンコのエサにしてくれるわ!爆発しろ!」
ボカンッ!
シルBOW自身の頭部が小さな爆発を起こし、黒い煙を噴き出した。
レトリバー金「おっと、シルBOW。お前、自分のことを棚に上げて爆発する癖、直した方がいいぜ?まあ、その予測不能な感情の爆発こそ、最高のデータなんだがな!ひゃっはー!」
グレーケル「あなたたち、いい加減に……」
私が怒鳴ろうとした、その時だった。
ベロス「あ!見て見てお姉ちゃん!ヌシPさんだよー!」
ベロスが指さす窓の外。そこには、事務所の前の道を、一糸まとわぬ姿で、奇妙な回転をしながら練り歩くプロデューサーの姿があった。
ヌシP「まわれ、まわれまわれまわれ!アタクシはまわる!森羅万象、宇宙の真理と一体化するために!これぞ究極の美の形ィィィッ!」
グレーケル「あの変態プロデューサーーーーーーッ!!!!今すぐ服を着なさい!!!!通報されるでしょうが!!!!」
ヌシP「(窓越しにウィンクしながら)おや、社長。アタクシのありのままの姿に見惚れているのかしら?いいわ、特別にあなたのためだけに回ってあげるわ!スピン!スピン!レボリューション!」
ベロス「わー!ヌシPさん、キレッキレだねー!」
レトリバー金「ふむ、あの回転……遠心力と角運動量の関係性……。いや、それよりも人体の限界を超えた露出度……。実に興味深い研究対象だ」
シルBOW「網膜が腐るわこの変態!さっさと分子レベルまで分解されろ!」
ボカンッ!ボカカカカーン!
グレーケル「もういやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!まともな人間が、この事務所には一人もいないのぉぉぉぉっ!?」
私の絶叫が、カオスな事務所に木霊した。
科学者の実験、AIの暴走、プロデューサーの奇行……。これが、私たち「グレーケルベロス」の、ごくありふれた日常。
グレーケル「(机に突っ伏して)……もう……帰りたい……。実家に帰って、可愛い小物に囲まれて暮らしたい……」
ヌシP「ふふん、今日もアタクシの美しさは天下一品ね。……さて、そろそろ“お仕事”の時間かしら」
窓の外で回転を終えたヌシPが、誰にも聞こえない声でそう呟いたのを、この時の私はまだ知らなかった。
平和(?)な日常が、少しずつおかしな色に侵食され始めていることにも、まだ……。
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