家にある二つの死体

ソコニ

第1話

二つの姿が辺りを支配していた。


この悪夢のような光景は、殺人課刑事の俺には耐えがたい連想を引き起こさせる。


首を捻じ曲げ、不自然な角度で体をくねらせている。人間の理解を超える次元の存在からの警告なのだろうか。


ひどく歪んだ姿は、理解を超えた異様な存在の証であるかのようだった。空気中に漂う不穏な沈黙が、不気味な光景を更に引き立てている。


それはもはや生命の営みではない。存在そのものが歪んだこの姿は、永遠の苦悩と闇を内包しているかのようだ。理解を遥かに超えた領域で、この恐ろしい光景は続いていくのだろうか。


俺はいつも温厚で冷静なはずだ。こんな風景を見たとしても、イライラしたり不安になるはずもない。


この近くは大きな音や大声なども全く聞くことがなく静かな住宅街である。この状況を見ても大声など出す必要もないだろう。



もう一つの姿も、俺にはあの陰惨な殺人事件を扱った映画を思い起こさせる。


足を上にまっすぐ伸ばしており、まるで冥界から生じた悪霊のようだった。


鋭い爪は天井を掻こうとしているかのようだ。姿勢は堅苦しく保たれている。


その姿勢は不自然で、まるで生物の枠を逸脱した存在のようだった。足はまっすぐに上を向き、伸びきったまま固定されている。見る者には理解不能な姿勢で、恐怖心を植え付けることしかない。


生命の秩序を捻じ曲げる魔力によって生まれたものとしか思えなかった。その姿勢からは絶望的な永遠を感じさせた。



「そろそろ食事にしなきゃね。」


そういって、娘が、食べ物の準備を始めると二つの影は素早く動き出した。


「エサには素早い反応だな。」


「友達も預けるとき私に言ってたわ。二匹の猫は寝るときに独特のポーズをとるけど、エサにはすぐに反応するんだって。首の曲げ方がスゴイ。柔らかいね。それにもう一匹は寝るときに足を上に伸ばして寝るなんて不思議。」


刑事の俺は、苦笑する。俺の連想はまるで職業病である。


「人間のエサの方もそろそろね。」


俺はそういった。


そのとき、黒焦げにされた肉が異様な光沢を放ちながら俺の目に入ってきた。

赤みを帯びた肉には、その黒い表面から滴り落ちる血。煙と共に忌まわしい匂いを放っている。


しかし、沈着冷静なオレは、決して焦ることなく観察した。


その時だ。重大事件が起こった。


目にあるはずのその証拠が一瞬のうちに消え去った。


「猫が・・・」


と娘が言った。


「焼き鳥が・・・」

と俺は言った。


焼き鳥は消え、猫が素早くぺろりと食べてしまったのだ。


「この野郎。俺の大好物の焼き鳥、くいやがって。」


冷静なはずの俺は、腰に手をあてた。勤務が終わっていて本当に良かった。腰に拳銃があったら、ぶっぱなしていただろう。


「ぶっ殺してやる!」

俺の大声は、周囲の静寂を切り裂いた。

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