ボンゴ!

姫路 りしゅう

入場

「もし俺が死んだら、とびきり笑える葬式の喪主を頼めねぇか?」

 そう言い残して死にやがった野郎のため、手始めにボンゴを買った。


「じゃあ、お願いします」

 趣味でボンゴを叩く坊さんを手配できたのは奇跡だった。

 彼は覚悟を決めた顔で頷いて、すぅと息を吸う。

 ボンゴは坊さんが叩きやすいよう、少し大きめの台に乗っている。


 ボンタッタ ボンタッタ


 式場には、野郎の死を惜しむ馬鹿どもが三十人ほど。野郎に家族はいないので、集まったのは真性の馬鹿どもだけだった。


 ボンタッタ ボンタッタ


 葬儀場にボンゴの音だけが響く。

 異様な空間。

 俺はマイクを掴んだ。通常、喪主の挨拶は読経が一通り済んだ後だと聞くが、今宵は別だ。野郎の望む通り、好きなようにやらせてもらう。


「本日は、故人・新藤純しんどうじゅんの通夜式に参列いただきまして、心よりお礼申し上げます。事前に連絡があったと思いますが、本日は故人きっての願いで、とびきり笑える葬式を行わせていただきます」


 ボンタッタ ボンタッタ


 俺はボンゴの一拍目に合わせて足を踏み鳴らした。


 ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ


 それは参列者の馬鹿どもにも伝わり、大きなうねりとなってフロアを揺らす。


 ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ ド゙ンタッタ


 まだ通夜をはじめることはできない。なぜなら、からだ。

 野郎の入った棺は、まだこの会場に配置されていない。

 では棺はどこにあるのか?


 ――――ドゥン!

 坊さんが大きく叩いた瞬間、会場の電気がふっと消えた。


 真っ暗。

 会場に静寂が広がる。参列者が息を呑む。俺がマイクを掴む。電源を入れる。ハウリングの音が響く。再びの静寂。


「……故人入場」


 ダン! ダン! ズダダダダダダダダ!

 俺が囁いた瞬間、激しいボンゴのリズムに合わせて、会場に赤・緑・青。様々なカラーのレーザーライトが揺れる!

 プシュー、と大きな音を立ててスモークが噴き出てくる!

 同時に、天井が開いた。


 ゴンドラだ――――!


 棺を乗せたゴンドラが天井からゆっくりと降りてきた。

 歓声が上がる。ボンゴのリズムが激しくなる。式場のボルテージが一気に上がる。

 新藤コールが鳴り響く。ララパルーザ。


 棺が所定の位置にたどり着き、一同スタンディングオベーション。



 ――――読経がはじまる。

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