ところ変われば

第1話

「それは、邪道だ」

「邪道は、そっちよ」

「いいや、お前が邪道だ」

「邪道なのは、あなた」

眼の前で、喧嘩をしている男女のふたり。

俺にとっても、身近な存在。

このふたりが、夫婦喧嘩をするのはいつものことなので気にしない。

夫婦といっても、本当の夫婦ではない。

冷やかしでそう呼んでいる。

「今度はどうしたんですか？おふたりさん」

仕方なく声をかける。

「あつ、聞いてくれ、この女なんだが」

「女とは何よ、名前で呼びなさいよ。はらぐろ」

「あだ名で呼ぶな、名前で呼べ」

男の名は、泰道。女は椎菜。

どこかで聞いたコンビだ。

「で、今度は何が理由だ？」

「この女、椎菜なんだが・・・」

「うん。

「お餅は、角餅だっていうんだ。丸餅に決まってる」

「丸餅なんて邪道よ、持ちは角餅でしょ？」

椎菜も僕に訊いてくる。

平和だな。

こんなことで、喧嘩なんて・・・

しかし、僕もこの件については、黙っていられない。

お餅と言えば、決まっているのだ。

そう、ここは譲れない。

関西人として・・・

「椎菜さん」

「あっ、わかってくれた？」

『悪いが、お餅は丸餅だ。これは譲れない。泰道くんが正しい』