第8話 夢告

「ウサギよ…… ロトのウサギよ……」

「……あなたは、おじいさんのロトのウサギ?」

「そうじゃ、かつて命をかけて竜王を倒し、ロンダルキアの地に平和をもたらしたウサギじゃ……」

「実は僕もいま、一つの事件に命をかけるかどうか、悩んでいるんです……」

「思うがままにするがよい…… おぬしの人生じゃ……」

「ローラ姫のウサギは助けたいけど…… 自分が死んだら……」

「小さいころと一緒で、怖がりなんじゃなぁ。わしといっしょじゃ」

「伝説の勇者だったおじいさんが怖がり?」

「そうよ、冒険に出て、初めてドラキーに襲われて、小便を漏らすくらい怖がりじゃった。怖いのは、何も恥ずかしい事ではないぞ」

 「伝説の勇者がドラキーでおしっこ漏らしてたなんて…… そんな勇者が、なんで竜王を倒せたの?」

「最終的に、『誰かがやらなければならないなら、わしがやろう』そう思ったからじゃ」

「他の人でもいいのに……」

「そこは、自分の心とよく相談することじゃな……」


 目を覚ますと、午前2時半を回っていた。作戦開始準備ギリギリの時間だった。先に目を覚ましていたクロイさんが、神妙な顔で僕に問いかけた。


「ロトのウサちゃん、本当に行くかい?」


 僕は少しだけ、自分の心に問いかけ、そして、きっぱりと言い切った。


「行くよ、誰かがやらなきゃいけないなら、僕がやる!」


 クロイさんは何も言わず、僕の右手をしっかりと握りしめると、防弾ベストを手渡してくれた。横を見ると、泥でカムフラージュしてすっかり真っ黒くなったクマイさんがほほ笑んでいた。


「じゃあ、みんなで頑張りましょうねぇ!」


 とても決死の作戦に行くとは思えないようなのん気な声で、そんな風にクマイさんが言った。時刻午前2時55分、いよいよ作戦がスタートする。


「竜王がシャブの切れ目で寝てることを期待したんだけどなぁ、残念ながら30分前に一本ぶちこんで、ギンギンに利いてるそうだ。計画通り進めていこう」


 クロイ氏の計画では、東側の林の中から畑に入り、匍匐前進で畑の作業通路を前進。畑の境界にそってキャベツと大根の中を通り抜けて、窓のない南東側から建物にアプローチして接近。その後は内部偵察の後で南西側のドアを破って侵入することになっていた。


 ※近況ノート どうぶつクエスト:現場地形及び配置図 を参照ください。

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