適性
「997…998…999」
ブン!と木刀が風を切る音が道場に響く
「1000!!」
ピタリと空中に止まる剣先を見て俺は自分の体の調子をはかる
「よし!本日も好調!」
爪先から指先まで一切の狂いのない素振り、俺は自らの体が本調子であることを確信した
「おわったぁ?剣信」
「ん?あぁ拳(こぶし)か」
道場の入り口に腰をおろした黒髪ポニテの少女、破岩 拳(はがん こぶし)
俺の幼なじみである
俺の両親と拳の両親はダンジョン発現の際、俺と拳をまもって死んでいった
それからは互いに祖父祖母に育てられ、兄妹同然にそだってきた
「もうそんな時間か」
「もうはやくきがえてよ、遅れちゃう」
時計を見れば時刻は8時をさしている、学校まで20分、余裕は10分しかない、おれはさっとシャワーを浴び、制服に着替える
そしてまた道場にもどり、両親の遺影のまえに座り礼をする
「今日もいってくるよ」
手を合わせたちあがろうとしたとき、背後から殺気を感じ木刀をかまえる
「隙あり!!」
カンッと高い音を出し、木刀と木刀がぶつかる
斬りかかってきたのは、俺の祖父風斬剣吉である
「何が隙ありだ、孫が両親の遺影に手をあわせてるときに」
「ふん!いつ何時も戦の気構えであれ、風斬流の基本じゃ!」
「上等だ、今度こそ引導を渡してやるよ」
「鼻たれ小僧に渡される引導などありはせんわい」
両者激突の時、それは残念ながらかなわない
「剣信!!!、おくれるっていってるでしょ!」
拳の喝が飛び、二人は肩をすくめる
「おっおう、わるいわるい」
「おーこわいのぉどんどん戦にてくるわい」
戦(いくさ)とは拳の母親である、とてもパワフルな人でよくおれも怒られた
木刀をしまい道場をでる
家の門をくぐるかというところでじじいから声がかかる
「剣信、拳、学校からかえったらわしの部屋にこい、はなしがある」
「なんだよ改まって」
「今はええ話は帰ってからじゃ」
そういう祖父の背中はどこか寂しそうに感じた
「なんだろうね、剣吉おじいちゃん」
「さぁ?それより急ごう」
学校を何事もなく終えて、拳と二人で祖父の部屋を訪ねる
そこには祖父と拳の祖母闘子さんそれに、スーツに身を包んだいかにも役人の人間が数人
「皆でお茶しようって感じじゃないな」
「まぁ座れ」
促される様に席につかされる俺と拳
話をまとめると、道場敷地内にダンジョンが出現したので、出て行って欲しいダンジョンも小規模なので訓練施設を立てて適合者の養成施設にするらしい
「ふざけんじゃねぇ!、俺にとっても拳にとっても両親の形見だ譲る訳ねぇだろ!!」
そんな勝手な話に俺を机を叩き抗議する
「ふざけてないぜ、坊主真剣な話しさ」
声の主を探すと、ピシッとスーツを着こなした奴らの中にぼさぼさ頭のだらしない男だった
あんな奴いたか?
部屋に入ってあんな恰好のやつがいたら一発でわかる
俺が気づけなかったのか、剣士にとって間合いは命、その間合いを支えるのは空間把握能力と野生の感だ、そのどちらも引っかからないって事は相当の強者の証すくなくともじじい以上
俺は警戒心を高め、木刀を傍に寄せる
「ここにいたらいつダンジョンブレイクがおきるかわかんないんだぜ?新しい家も全て国が用意してくれる、なんなら迷惑料の金だってもらえる、おじいさまもおばあさまも納得してくれている」
おれはその話をきいて2人を睨む
風斬流、破岩流家は別だが道場はここを使っていた、つまり2人にとってもここは自分の子供の形見だ、それを捨てるってのか
「うっうそだよね?剣吉おじいちゃん、闘子おばあちゃん」
拳は2人に縋りつく
「つらいのはわしらかて同じだ、しかしお前たちのことを考えればこの提案悪い話ではないとおもってな」
「ダンジョンが出来ればいつ魔物がでできてもおかしくない、もうあの時みたいな事はごめんだよ」
じじいと闘子ばあちゃんの拳は静かに揺れている、つらくない訳がない
しかし、危険なのも事実だ、俺たちの事を考えての判断なんだろう
「なっ、もう二人との高校生なんだろ?もうすこし聞き分けってのを覚えた方がいいぜ?」
俺たちの心情を察したのか、男は諭すように話しかけてくる、しかし、それは慰めではない、威圧を飛ばしてきやがった
全身を襲うプレッシャー、金縛りのように体がうまくうごかない、拳に至っては完全に萎縮してしまう
俺は気合でその金縛りを振り切り、木刀で切りかかる
「はあぁぁ!」
俺の上段降しをやつはいとも簡単に指二つで止めた
「見込みはあるが、やはり弱いな所詮非適合者だ」
男は拳を握り俺の腹に一撃を叩き込む
「ごっ」
その一撃で完全に意識を手放す
「守りたければ力を示せ」
ボソッと耳元で囁かれる言葉を最後に闇におちる
目を覚ましたのは夜、何時間寝ていたのだろうか
時間をみると19時約2時間くらい寝ていたのか
「剣信!!」
物音に気づいたのか拳が部屋に飛び込んでくる
遅れてじじいと闘子ばあちゃんが入ってくる
「全く無茶しよって」
「肝をひやしましたよ」
二人とも俺が目を覚ました事に安堵してくれている
「あいつらはなんなんだ」
「奴らはダンジョン管理員、国の役人じゃよ」
役人って強さじゃなかったけどな
適合者とはなんどかやりやった事はある、しかし、どいつもこいつも扇風機だった
力はあるけど、使い方をしらないって感じ
だが、あいつは違う、今まで戦った奴の中で一番強かった、それは過去俺がまだ弱かった時に戦った父さんやじじいよりも
まさに生き物としての格が違うそう思った
「守りたければ力を示せ…か」
かすれる意識の中で聞いた奴の言葉を思い返していると、庭の方からと物音が聞こえる
全員が武道家なだけあって、全員が物音の方を注視している
おれは木刀をもちゆっくりとと襖を開ける、襖の先は庭になっており、そこには問題のダンジョンと緑色の小人がいた
「マジかよ」
それはゴブリン、ダンジョンからでてくる魔物だ
ダンジョンブレイク、まさにそれがいまおこっている証明だ
「じじい、拳、と闘子さん連れて逃げろ」
「えっ?!だめだよ!剣信も一緒に」
「誰か一人足止めしなきゃにげられない!いいから早く」
奴さんはもうこちらに気づいている、真正面からは逃げられない
「死ぬなよ、剣信」
じじいは拳の首に手刀をあてて、拳をかかえて奥ににげる
一瞬で俺の願いを受け入れてくれる、長年一緒にくらしてないわ
「さぁ人生初の命の取り合い、楽しもうか」
おれはゴブリンに木刀の剣先を向け構える
「ギグゲゲ」
ゴブリンはもっている棍棒で俺を殴り殺そうと襲いかかってくる
「魔物でもやはり獣だな」
あいつらと同じ扇風機だ
おれはノーモーションで後にすこしさがり攻撃をかわす
ゴブリンは思いっきり振り下ろした後頭ががら空きだ
「あっけないな」
俺をゴブリンめがけて木刀を振り下ろした
ごりっとい嫌な感触が俺の手に伝わる
終わったと思った、次の瞬間俺は下からぶち上げられる
「グッギギ」
ゴブリンは頭から血を流しながら反撃してきたのだ
「おいおい噓だろ、完全に頭蓋骨は粉砕したぜ」
とんでもない生命力だ
本気でやらなければ、命は奪えないな
おれはもう一度構えなおし、精神を統一する
「グギャギャ」
それを隙だと判断したのか、ゴブリンはとびかかってくる
しかし、俺がとった構えは居合、断じて隙ではなく、その行動は最悪手だ
「風斬流、居合、時津風」
交戦の後、剣信の手には鍛え上げられた刀が、そしてゴブリンは一刀両断され、声もなくこと切れる
おれはゴブリンの緑の血を払い、また元の木刀に戻す
剣信がいつも使っている木刀は仕込み刀になっており、留めを外すと真剣を抜くことができる
「まさかこいつを使うことになるとはな」
魔物本当に油断できないな
そう思っていた時、頭の中に直接声が響く
「レベルアップ適合者を確認、適合を始めます」
つぎの瞬間、俺は声にならない激痛に襲われ、また意識をうしなう
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