第39話 命と
話をし終わった後、周りに満ちていた魔力を一気に吸収した。思ったより量は少なかった。前をみると、俯いているドールさんの姿があった。
「…これが全部。リドのことは本当にごめんなさい」
「ずっと、勘違いしてた。…ずっと私、騙されてた…?」
そう言いながら、ドラゴン…リュークの方に向き合った。彼女が微笑み、一瞬、和やかな雰囲気が漂った。
「ドール…何回も周りがそう言ってたのにな…」
「…え?みんなが私に…『ティーナが嵌めた』って…」
瞬間、彼女の周りに黒い霧が立ち込める。何あれ、キモ…え、まじで何?魔法じゃないよね?雰囲気的なアレでもないし。
「わかんないわかんない…あれ?どう言うことなの¿」
うずくまったドールさんに近寄ると、まるで滝が逆流してきたかのように、真っ黒な何かが私の周りを覆った。
「!ティーナ、ここは危険だ!早く逃げろ!」
地面が揺れ始める。魔力が暴走してるのか…!彼女の魔力量自体は多くはない。でも、神々の祝福を多く授かっている。その気になれば、半日は大魔法が使えるはずだ。
「…ドラゴン、あんたこそさっさと逃げてくれる?あの日からずっと…死ぬ覚悟なんかできてる。今はこの町を守らないと…」
「…感謝、する。が、ここは俺に任せてくれ。一応こんなのでも、ドールの婚約者なんだ…」
「わかった、私は地上を守るから。」
死ぬな、なんてことは言わないけど。これ以上ドラゴンを死なせてしまってはまずい。ただでさえこんな事態なんだから。
「防御魔法、レベルMAX展開<エリア・プロテクト>!!
風魔法、レベルMAX展開<浮遊>!」
とにかく、地面の揺れはもう防ぎ様がない。なら、せめて被害を出さない様に…建物の形を防御魔法で保ちつつ、風魔法で町ごと浮かせる。
…ごっそりと魔力を持っていかれる。目の前が少しずつ白くなり、その瞬間に、私は地面に落ちて倒れた。
「…ナ、ティーナ!!」
「…ん?あぁ何、ドラゴン生きてたのか…」
「…少なくとも、俺はな。起き上がって大丈夫なのか?」
周りをみると、さすが私。あれ以上の被害はどうやら出ていなかったらしい。魔力切れって本当に危ないんだよね。まぁ神々の祝福も魔力も大量にある私にとってはそこまでヤバいことじゃないんだけど。
「ねぇ、ドールさんは?どこ?」
「ドール…」
ドラゴンの顔が曇る。なんとなく予感はしていたから、これを見たって何も思わない。ドールは、所謂、魔力切れを起こしてしまった。
「…はぁ…ほら、しっかりして。」
「目の前で、見殺しにするなんて、望んでなかった…」
「そんなの望む奴は特殊な人でしょ、さっさと立ってくれる?民衆を安心させられるのは…リュークしかいないんだから」
私がどうにかできるならとっくにそうしてるよね。信頼関係もクソもない私がこの町の混乱を治められるはずがない。
最近、こんなことばかりだ。どうして、私はこう…運が悪いのだろうか。
リュークが民衆を鎮め、私は今回のことの一連の流れを書類にまとめた。…ドラゴンはこの国の貴重な戦力だ。それを殺した私の処分は、どうなるのか。
まぁ普通なら極刑は免れないけど、私はそれでも多分…死なない。
「ティーナ。どうにかはなりそうだ。本当に、助かった」
「感謝されるような結果ではないからいいよ、そういうの。私は帰る、君はあのまま学校に在籍する?」
「俺はまだここを統治できる年齢じゃないから…しばらくは親戚に任せて学園に通うことにする」
「Aクラスで良かったよねー、寮あるからさ」
AクラスとBクラス主席以外は基本的に入寮はできない。だから私も危なかったわけだけど。人数がまた増えていくわけね。
箒に跨り、ゆっくりと加速する。このまま城を目指せば後二日はかかるかなーなんて楽観的に考える。
私の処分は、どうせ軽い。命よりも私の価値の方が高いのかよ、とまた虚しくなるだけだ。
「おーいティナ!何してんだ?こんなとこで」
「コリン…?え待って、何それ??」
目を向けた私が愚かだった。なんか…自転車だよね、あれ元の世界で言う。いや、元の世界じゃ飛ぶわけないんだけど。
「月の都で買った魔導式自転装置」
「やっぱ自転車じゃん…月の都ってあれでしょ、大都会」
「そうそう!アリスとリュカに誘われて行ったんだよ」
「あー…赤と黄色の子ね。」
「今度ティナも行こうぜ、最近任務続きだろ?」
確かにね〜、まともに学校に通わせてほしいよ。今までのツケが回ってきたんだと思うけどさ。コリンの顔見たら安心してきたし、加速するか。
とりあえず明日は休みをもらえるはずだし、言われた通り月の都にでもお邪魔して美味しいスイーツを食べたいところ。
書類とか提出しに城に行かないといけないし、あのクソ王…じゃなかった陛下にまーたご挨拶しないといけないわけね。
また引きこもりしたーい。
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