2章。学園のナンバー1を目指す

9話。ゲーム知識でコモンスキル【ステータス隠蔽】を獲得する

「……あれ、ここは?」

「あっ、ヴァイス様! お目覚になられたのですね!?」


 気がつくと、俺は自分の部屋のベットに寝かされていた。

 メイドのティアが、俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。


「魔族と戦って気絶されたそうではありませんか!? ずっと目を醒まされないから、私、もう心配で心配でぇえええッ!」


 部屋はランプの淡い光で、照らされている。もう夜のようだ。

 どうやら予想以上に、俺は消耗してしまったらしい。


「もしかしてティアが付きっきりで、介抱してくれのか?」

「はい! エレナお嬢様も、ご心配されていましたよ! そ、それから、ヴァイス様は急激に体型が変わられたので、お召し物はすべて新調させていただくべく、手配中です!」


 心なしか、ティアは顔を赤くしてモジモジしているように見えた。


「なにから、なにまですごく助かる。ありがとう」

「あ、ありがとう?」


 ティアが驚いて、目を瞬く。


 あっ、しまった。ついお礼を述べてしまったけど、貴族がメイドにお礼を言うのは、この世界では有り得ないことだった。


 とはいえ、以前のヴァイスのように傲慢に振る舞うなんて、前世の記憶を取り出した俺には到底できない。


 ……っていうか、デュフデュフ笑いながら、セクハラやパワハラを繰り返すなんて痛すぎるだろう!?


 多少変に思われても、俺の思う通りに行動するとしよう。


「そ、そんな! お礼を申し上げるのは、私の方です! ヴァイス様からいただいた指輪のおかげで、さっそく薬が買えました。これで、お母様を助けることができます!」

「おおっ、そうか! それは良かった」


 俺は安堵する。多少は罪滅ぼしができたようだ。


「……や、やっぱりヴァイス様はお変わりになられたのですね! 今のヴァイス様は、すごく素敵で、まるで物語の王子様のようです!」


 ティアは熱っぽい視線を向けてきた。


「お、王子様って、いくらなんでもソレは言い過ぎだろ」


 これはいわゆる雇い主に対するお世辞というヤツだな。真に受けないようにしよう。


「そんなこと有りません! それではヴァイス様、服のお召し替えを。お着替えを手伝わせていただきます!」

「はぇっ!?」


 美少女のティアからの申し出に思わず面食らってしまった。


 あっ、そうだ。貴族はメイドに着替えを手伝わせるのが、この世界の常識だった。

 興奮気味のティアは、さらにとんでもないことを言い放つ。


「あ、あのヴァイス様! 着替え中に、私の胸やお尻を触らないで欲しいと、再三お願いして参りましたが、不遜な申し出でした。どうか、ご自由に触ってください!」

「ぶべぇ!?」


 いや、そんなセクハラおやじみたいなマネができる訳が無いだろう。


「ご、ごめん、本当に悪かった。もうそんなことは、絶対にしないから安心してくれ……!」

「ふ、ふぇ……? な、なさらない?」


 ティアは心底意外というか、がっかりしたような顔つきになった。


「着替えも俺一人でやるから大丈夫だ。悪いけど部屋の外に出ていてくれないか?」

「えっ!? しかし、それでは……!」

「いや、実は、ちょっと1人で考えたいことがあるからさ」


 とにかく女の子に着替えを手伝ってもらうなんて、有り得ない。

 想像するだけで、鼻血が噴き出してしまいそうになる。


「かしこまりました! それではヴァイス様がお目覚めになられたことを旦那様にご報告して参りますね。ちょうど旦那様が騎士団の長期演習から、お帰りになられたんです!」


 ティアは頭を下げると、パタパタと駆けて行った。


「そうか。やっぱりゲームシナリオが改変されて、父上は生存しているんだな……!」


 俺にはヴァイスとしての記憶と経験もある。

 冷たい親ではあるが、父上が死なずにいてくれたのは、素直にうれしかった。ヴァイスの母親は、病ですでに亡くなっている。


 下手をすれば、こっちの世界でも天涯孤独になりかねないところだった。


 ……よし、せっかくだし、俺のゲーム知識がこの世界で通じるか、【栄光なる騎士グロリアスナイツ】の父上を相手に検証してみるとするか。


 大魔族ジゼルに勝つためには、時間は一日だって無駄に使えないからな。


「一番重要なのは【ステータス隠蔽】のコモンスキルの習得と検証だな」


 父上は他人のステータスを知ることのできる魔法【アナライズ】を使うことができる。


 この魔法は、相手のレベル、能力値、保有スキル名などを知ることができるゲーム攻略には、欠かせないモノだった。


 これから、この世界の強者と戦っていくにあたって、敵から受ける【アナライズ】を無効化できるようにしておく必要があった。

 敵に情報を渡すのは、死活問題だからな。


 俺が念じると、目の前にゲームと同じステータス画面が表示された。


==================


ヴァイス・シルフィード

レベル10

クラス:魔法使い


筋力:3

速度:1

防御:2

魔力:16

幸運:4


ユニークスキル

【超重量】


能力値ポイント:24

スキルポイント:10


==================


「……改めて見ると、俺のステータスは完全に魔法使いタイプだな。あっ、魔力16は、騎士学園の中でも、かなり高い方じゃないか、コレ?」


 学園最下位の落第生の割には、初期ステータスは意外と悪くなかった。かつて神童の名を欲しいままにしたのは、伊達では無いようだ。


 さっそく【能力値ポイント】を割り振るとしよう。


 このゲームではレベルが1上がるごとに、ステータスを上昇させることができる【能力値ポイント】を3ポイント手に入れることができる。


 これを『筋力』、『速度』、『防御』、『魔力』、『幸運』の能力値を選んで割り振ることで、ステータスが上昇して強くなれるのだ。


 レベルが8アップしたので、俺は今、24の【能力値ポイント】を手に入れている。

 【能力値ポイント】は一度、割り振るとやり直しができない仕様だ。


 どんな能力を伸ばすかは、慎重に考える必要があるが……

 俺の腹はすでに決まっていた。


 ユニークスキル【超重量】の力を最大限活かすキャラビルドこそ理想。

 つまり、手に入れた【能力値ポイント】は、すべて『速度』に割り振るのが正解だ。


==================


ヴァイス・シルフィード

レベル10

クラス:魔法使い


筋力:3

速度:1→25(UP!)

防御:2

魔力:16

幸運:4


能力値ポイント:0

スキルポイント:10


==================


『速度が25に達しました! 上位クラス【マスターシーフ】へのクラスチェンジが可能になりました! クラスチェンジしますか?』


 俺の脳裏に、システムボイスが鳴り響く。


「よし。ゲームの仕様通りだな!」


 ゲーム知識が通じることがわかって、思わずガッツポーズを取ってしまう。


 速度が25を超えると、上位クラスである【マスターシーフ】へのクラスチェンジが可能となる。


 上位クラスの解放条件は厳しく、騎士学園で上位クラスを獲得しているのは、ランキング1位の俺の元婚約者だけだ。


 低レベル帯でも俺のような極端なステ振りをすることで解放できる上位クラスもあるが……それでは戦闘で使いものにならなくなると学園では教えていた。


 通常なら、俺のような『速度』全振りは狂気の沙汰だ。バランスが悪過ぎる。


「【マスターシーフ】へのクラスチェンジを行なう!」


『【マスターシーフ】にクラスチェンジしました! ステータスボーナス、【速度】が+10されます』


「続けて、コモンスキル【ステータス隠蔽】を習得する!」


『 スキルポイントを5消費して、【マスターシーフ】のコモンスキル【ステータス隠蔽】を習得しました』


==================


ヴァイス・シルフィード

レベル10

クラス:マスターシーフ(UP!)


筋力:3

速度:25→35(UP!)

防御:2

魔力:16

幸運:4


ユニークスキル

【超重量】レベル3


コモンスキル

【ステータス隠蔽】(NEW!)


能力値ポイント:0

スキルポイント:5


==================


 上位クラス【マスターシーフ】になると、ステータスボーナスで、【速度】が+10される。


 さらに【マスターシーフ】のクラス専用スキルツリーから、スキルポイントを消費して【ステータス隠蔽】を習得できた。


 この世界ではレベルが上がるごとに、スキルポイントを1ポイント獲得でき、これを消費することで、各クラス固有のコモンスキルを習得できるというシステムだ。


 上位クラスは、優秀なスキルが揃っているので、早めに上位クラスを解放するメリットは大きい。


 特に【マスターシーフ】は、速度を強化したり、ダンジョン攻略に欠かせないコモンスキルを獲得できる優れたクラスだった。


 理想は俺自身が、音速の壁を突破し、弾丸を超えるスピードを手に入れることだ。

 その時こそ【超重量】スキルは、すべてを粉砕する究極の破壊力を生み出す。

 

「ふん。ようやく目覚めおったか。軟弱者め」


 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、父上──アルバン・シルフィードがやって来た。いかにも強者といった風格の男だ。

 

「これは、父上……お帰りなさいませ」

「ヴァイスよ。聞けばお前は、セリカ王女が魔族に襲われているところに出くわし、気絶しおったそうではないか? エレナは見事、手柄を立てたというのに、恥を知れ!」


 うん、あれ?

 もしかして情報が錯綜して、エレナが手柄を立てたことになっているのか?


 ……まあ、俺が気絶して、エレナが健在なら、そう誤解されても仕方がない。


「だ、旦那様、それは違います!」


 ティアが義憤に駆られた様子で、父上に詰め寄った。

 立場の弱い雇われメイドが、父上に逆らうなんて、仰天だった。下手をすればクビになるぞ。


「エレナお嬢様によると魔族を倒し、王女殿下をお守りした立役者は、ヴァイス様だったというお話です!」

「ハハハハハッ! なんだ、その冗談は?」


 父上は豪快に笑った後、俺に【アナライズ】の魔法を使った。

 そして、心底、蔑んだ目を俺に向ける。


「やはりな。しばらく見ぬ間に、身体は痩せたようだが……中身はまるで変わっておらぬではないか?」


 よし。俺は思わず、微笑んでしまう。


 スキル【ステータス隠蔽】を使って、他人が俺のステータスを調べようとすると、魔族ガロンを倒す前の【レベル2】のステータスが表示されるように設定したのだ。


 王国最強の誉れ高き【栄光なる騎士】グロリアスナイツの父上が見破れないなら、大魔族ジゼルにも通用するハズだ。


 うまくすれば、ジゼルが俺の真の力を見抜いて、近づいてくるのを遅らせることができるかも知れない。ガロンを倒したのが俺だとわかれば、詮無いことかも知れないけどな。


「ヴァイスよ。何を笑っておる? ふざけているのか!?」

「失礼しました、父上」


 誤解されては不味いので、俺は慌てて頭を下げる。


「実は、俺は魔族を倒してレベル10になったんです。今、【ステータス隠蔽】を解きます」

「はぁ? お、お前は何を言って……?」 

「ヴァイス君、目を覚ましたんだね!?」


 その時、父上の背後から、騎士学園の制服姿のセリカが顔を出した。

 驚くのもつかの間、セリカはベッドに横たわる俺に抱き着いてくる。


「お、王女殿下、何を!?」


 あまりにも意外な行動だった。父上も仰天している。


「本当に良かったぁあああッ! ねっ、聞いて聞いて! お父様が、私とヴァイス君のお付き合いを認めてくれるって! これで晴れて一緒に暮らす恋人同士だよ!」

「「はぁ!?」」


 俺と父上の困惑した声がハモった。

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