390 指名依頼 7

「あれだ! いくよ! 爆撃に集中するから俺を守ってくれ!」


 キルが爆撃の準備にかかる。


 キル達に気づいた騎兵達が弓矢で応戦してきた。さっきと違い空中に注意を払っていたようだが、高高度で飛行するキル達にはほとんどの矢が届かない。時々届くものも混じっているがそれはおそらく高レベルの騎兵の射かけたものだろう。


 そんなやを躱わすのは、簡単なことだった。そしてキルのアトミックインパクトが炸裂する。閃光が走りキノコ雲が上がる。大地に響き渡る轟音と捲れ上がる大地。消滅する馬と兵士。キルの攻撃は一発では終わらない。


「アトミックインパクト! アトミックインパクト!」


 連続して究極の魔法を唱える。地上は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


 キラリ!


 キルの視界に一瞬何かが光った。


 反射的に避けたキルの右頬をその光がかすめていく。


 キノコ雲を突き破り、空を駆け上がる一騎の影。バトルホースにまたがった騎兵が弓を片手に突っ込んでくる。それは弓をしまい、剣を抜いた。


 たった一騎ではあるが、想定していた敵の攻撃だった。彼の目は怒りに燃えている。


「ユミカ! モレノ! ルキア! 頼むぞ!」


 キルはそう叫ぶと魔法を発動し続ける。三人の少女はキルの前に立って攻めてきたバトルホースの騎兵に攻撃を開始する。


「アトミックインパクト!」


「ヘイトテイカー!」


 ルキアが銀髪をなびかせて、敵の剣撃を盾で受け止める。キルが魔法攻撃をする間、キルを守るのが三人の第一の役割だ。


「無限突き!」


 金髪のモレノが茶色の目を輝かせて横から槍を突く。連続で繰り出される無数の突きを敵の騎兵は見事な体捌きで躱してみせる。


「見事であるな! 名のある武将と見た。いざ勝負!」


 ユミカが身体強化のスキルをフルに働かせてステータスをグググと上げる。


「ほう! なかなかの剛の者。その勝負受けてやる。お前の名はなんという?」


「我が名はユミカ! そういうお前は何者だ?」


「俺はテムジ五王騎の一人、ソルカだ!」


 ソルカは赤味を帯びた巨体のバトルホースに乗る屈強な赤眼の大男だ。反りの大きな両手剣を片手で軽々と振り回して見せる。


 ユミカは、先日の話にソルカという名があったことを思い出し、闘志を燃やして緑の瞳を嬉しそうに輝かせる。


「いくぞ! 飛竜拳!」


 ユミカの拳が唸りを上げて飛んでいく。ソルカはその拳を体を振ってギリギリで躱わし、そして剣を振り反撃に転じる。


 ユミカとソルカの空中戦が始まった。モレノとルキアがキルを守りながら二人の戦いを見守る。キルは空爆を続けている。


 二人の息も止まらぬ攻防が続き武器がぶつかる度に大きな衝撃音と衝撃波が辺りを震えさせる。


 ソルカの剣がユミカのドラゴンナックルで打ち砕かれて刃先が回転して飛んでいった。ドラゴンナックルはエンシェントドラゴンの素材から作った自己再生能力を持つ伝説級の逸品だ。武器のレベルに差があったのだろうが武器を破壊されたソルカは壊れた剣をユミカに向かって投げ捨てると不敵に笑って逃げ出した。


 キルは相変わらず爆撃を続けていたがもう眼下の敵はほぼほぼ逃げ終わっている。


 逃げたソルカの背をモレノがロケットランスで狙い撃ち、見事にその肩を貫いた。ぐらりとよろけるソルカに追いかけていたユミカが必殺技を放つ。


「千手真拳豪衝連撃!」


 ソルカの体が無数の拳で打ち砕かれボロボロになって落下していく。


 キルは爆撃を終了して落ちたソルカに視線を落とす。


「止めを刺そう!」


 ソルカの側に降り立つ四人。とどめを刺すまでもなくソルカは息をしていなかった。バトルホースは遠くに逃げ去っている。


 モレノが自慢の槍を突き上げて大声で叫ぶ。


「やったー! 敵の五王騎の一人ソルカを討ち取ったー!」


キル達は互いに顔を見合わせてくすりと笑う。


「もう一隊潰せれば潰しておきたいね! 敵の数は多い。探そう!」


 ソルカの死を確認し、キル達は再び北方向に飛び始める。敵が分裂しているのは、各個撃破のチャンスである。


 集合時間があるのでそれまでにもう一隊潰せればと思いながら索敵を続ける。そしてまた水場に集まった一隊を感知した。


 見つけた敵の方向に飛行し、近づくにつれて敵の様子が分かってくる。


「これは、さっき感じた敵の最強の気配だ! 神級騎兵のテムジの隊に違いない」


 キルの真剣さが伝わり、やる気十分のユリアが武者震いをし、モレノとルキアが緊張に身を固める。


「よし! 俺はテムジと戦うために追ってきたんだ。ここで奴を倒すぞ!」


 遠くに敵軍が見えてくる。さっきのより大きな集団に見えるので三万近い兵が集まっているかもしれない。キル達は戦闘体制に入るのだった。

 

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