382 ショッピング
「キルさん! 今日はショッピングに付き合ってくれませんか?」
ライガー狩りの翌日、キルはクリスに誘われる。
恥ずかしそうに顔を赤らめるクリスの横でケーナがニコニコとわらっていた。
「い、嫌なら……良いんですけど……」
「別に嫌じゃないよ」
キルはクリスは何が買いたいのかなと考えていた。
繁華街までは二ブロック先で歩けば十分、荷馬車を使えば五分くらいで行ける。飛べばもっと早い。
昨日キルたちが荷馬車を使ったので繁華街にいくにをよしたとすれば、飛んだり歩いたりはしたくないのかもしれない。つまり荷馬車で繁華街に連れて行って欲しいということだろう。
「荷馬車で行きたい? それとも飛ぶ? 歩く?」
「せっかくですし、歩いて行きましょう」
クリスが答える。
「ケーナも一緒に行くんだよね?」
「はい。自分も行くっすよ」
「マジックバッグ持っていくんだろう?」
「持って行くっすよ。先輩に服とか持ってもらうのなんですし」
ケーナはニッコリ笑いながら小首をかしげる。
「服とか買いに行く予定なんだね?」
「そうっす。先輩も服買った方が良いっすよ」
「はは! そうかな」
キルは、頭を掻きながら苦笑いをする。
「準備ができたら行きましょう」
「もう行けるぜ」
三人はホームを出ると繁華街に向かって歩き始める。
ホームの周りの木立に囲まれた小道を抜け、歩道のある大きな通りに出る。繁華街に向かう道は馬車が対面通行できる太い道だ。
キル達三人は歩道をゆっくり歩いて繁華街に向かう。右手に住宅が並び、左手を時々馬車が追い抜いていく。
「キルさん、先日は父のために国境近くで戦っていただいて、ありがとうございました」
「あんなのなんでもないよ。ロムさんもホドさんもいたしね。軽い軽い」
急に感謝されて戸惑うキルである。
「クリスもお父様が偉いから心配が絶えないね」
「小さい頃は、そんなことも知らずに過ごしていましたが、最近は少しそういうこともわかるようになりましたから……どうして戦争なんて起きるんでしょう」
クリスは憂いに沈んだ瞳で俯いたがすぐ気を取り直して明るく笑う。
「でもキルさんのおかげで父は援軍に向かわずに済みそうですし、良かったです」
憂いに沈んだクリスも明るく笑うクリスも綺麗だと改めて感じる。
「昨日ゼペックさんと狩りに行ってきたのでしょう」
「うん。ゼペックさん、狩り楽しそうだったよ。特級冒険者だからね。多分俺たちを除けばこの街最強かもしれない。昨日はライガーを狩ったけど、この辺りの魔物なら瞬殺だね」
ゼペック爺さんの話になったので、キルは昨日の様子を嬉しそうに語る。
「ゼペックさんに弟子入りしたいって言われててさ、『わしはスクロール職人じゃからのう』とか言って断ってた」
「恐そうな笑い顔が目に浮かびますね」
クリスは口に手を当てて微笑む。
ケーナも笑いを堪えていた。
前方に繁華街の中心的交差点が見えてくる。大通りに面しているのは比較的大きな店が多い。キル達は立ち並ぶ商店のうちで商業ギルドの直営店に入ることにする。
この店はさまざまな商品が取り揃えてあるので店舗のスペースはルビーノガルツ一であり、ここで揃わない商品はないが個性的な一点物は少ない。ギルドが仕入れる時に変わった物や新商品は弾かれてしまうことが多いからだ。
服を買いに来たキル達は、広い店舗の中で服を売る一画に移動する。店の中にも通路が縦横に走っていて、たくさんの客が並んでいる商品をチェックしているので、気をつけないとはぐれてしまいそうだ。
キルは服をチェックしているクリスとケーナに置いていかれないように気をつけた。服に気を取られていると二人を見失ってしまうからだ。
クリスとケーナは気になる服を手に取りながら何やら相談をしてはその服を元の場所にもどしたりしている。なかなか気にいる服はなさそうだ。
「せんぱーい! 次のお店にいっても良いっすか?」
「別に良いぞ」
キル的にはもう少し小さな店の方が落ち着けそうだと思い、喜んで了承する。それから服屋巡りがはじまる。そしてフィーリングの合う服を扱う店を見つけた。
クリスは、気に入った服を見つけるとケーナと相談し、そしてキルの方を振り返ってニッコリ微笑む。
「どうかな?」
服を体に当てて、キルの意見を聞いた。
「う、うん。良いと思うよ」
キルにはファッションなんてよく分からない。だがクリスならばなんでも似合いそうな気がしている。
キルの表情を見てケーナが口を開く。
「クリス、着てみないと分からないみたいっすよ?」
「そ、そうかな?」
「着心地も確かめた方が良いし、試着して見せて欲しいっす!」
「そうね。着心地も大切よね」
クリスは頷いて試着室に入った。ケーナとキルは試着室の前でクリスを待つ。
「この中で、クリスが着替えてるっすよ! 覗きたくなるっすね」
ケーナがキルの顔を覗き込みむ。
「な、ならないよ」
キルは顔を背けて赤くなる。
「変なこと、言わないでよ!」
試着室の中からクリスの声が響いた。
「冗談、冗談! 冗談っすよ!」
「まったくー」
プンプンしながら着替えたクリスがカーテンを開けた。キルはその姿に見惚れる。
「ど、どうかな……」
「き、綺麗だよ……」
頬を赤らめ俯く二人。ケーナがやったねという笑顔をクリスに向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます