380 ライガー狩り3
突然キルが立ち止まった。
「どうしたのじゃ? キルさん」
「置いて来た荷馬車の馬を狙ってライガーの群れが近づいているようです。ちょと行って来ます」
キルがフライを唱えて空を飛ぶ。
「わしらは先に言ってるぞーい!」
ゼペック爺さんがそう言った時にはキルの姿は消えていた。ゼペック爺さんは再び歩き始める。
荷馬車に向かったキルはあっという間に眼下にライガーの群れを捉える。荷馬車までは空を飛べば十秒程度の距離しかない。
(あれだな。急がないと馬が食われる)
キルは急降下しながらストーンショットを唱える。一撃必殺の弾丸が命中し、五匹の雌ライガーが撃ち抜かれて倒れ込んだ。地上に降りたキルは遅れてくるであろう雄ライガーを抜刀して待つ。
雌より一回り大きい雄ライガーが怒りの形相で突っ走って来た。
キルも雄ライガーに向かってはしりだす。
ガシーーン!
強烈な衝突音と共にすれ違った二つの影は十数歩離れたところで立ち止まる。
キルが後ろを振り返ると雄ライガーが血飛沫をあげてたおれるところだった。
キルは倒した六匹のライガーを収納して荷馬車を運転しゼペック爺さんの元を目指す。
ゼペック爺さん達は五匹の群れと戦っていた。すでに軽く五匹のライガーを倒してドロン達の戦いを観戦するゼペック爺さんが、荷馬車の到着に手を振って歓迎する。
三人はそれどころではない。必死の攻防が続いている。
「ゼペックさん! 三人はどうですか?」
「良い勝負をしているが、なんとか勝つじゃろう」
キルはゼペック爺さんが倒したライガーを収納しながら戦いの行方を見守った。
程なくして戦いは三人の勝利で終わる。危なくなれば手を出していただろうが、そういうこともなく狩りは終了した。
キルがライガーを収納し怪我をしたシキにヒールをかける。
「ありがとうございます」
みるみる傷が治り喜ぶシキは、尊敬の眼差しでキルを見る。
「キルさんて俺と同じ歳ですよね? 凄いな!」
キルは照れくさそうに頭を掻いた。
「シキ君てパーティーの仲間とは上手くいってるの? 確か四人パーティーって言ってたよね」
「はい。上手くいってます。同じ村の仲間なんで!」
「これからも一緒にパーティーを続けるんでしょ?」
「そのつもりです!」
「じゃあ、仲間は大事にしないとね」
「はい!」
きっと今日はパーティーでの狩りが休みなのだろう。どのくらいのペースで狩りをしているか分からないが、休みの時にも働こうとするのは立派である。
ゼペック爺さんに弟子入りしようとする行為がパーティーとの関係に問題を起こさないか心配になる。
とはいえクランのメンバーに入れるには弱すぎてバランスがとれないし、ゼペック爺さんにようにチート的手法でレベル上げしてやる義理はない。
「そろそろ昼飯にしないか?」
キルケが座り込んだまま腹が減ってことをアピールする。
「そうじゃのう。わしもそう思っとったところじゃ」
確かにもう一時はとっくに過ぎている。昼食にも遅い時間だ。
「ストレージからクッキーちゃんの作った料理を出しましょうか? 時短にもなりますし」
キルの提案にドロンとキルケが大喜びをする。二人は以前に食べさせてもらったことがあるのだろう。美味しさを知っているのだ。
キルはストレージから料理の入った鍋を取り出しそれぞれに取り分ける。
「モーモウ肉のシチューです。どうぞ」
「熱々じゃねーか。ありがてー!」
キルケが大喜びで食べ出す。
「うんめー!」
「美味しー」
「キルさんの魔法って、凄い便利ですね」
「マジックバッグを持っているようなものだからな」
シキに褒められ、キルは照れ笑いしながら答える。
「マジックバッグって、幻って言われてるーーあれですよね!」
「まあね」
キルケがモーモウ肉を口いっぱいに頬張りながら話に加わる。
「もぐ……あれだ! マジックバッグって何億もするんだってな」
「そうね。売ってることが、まず無いから幻って言われてるんだけどね。持っているのがバレると襲われかねないから大ぴらに公表できないし」
ドロンが相槌を打ちシチューを口に運ぶ。
「そういう意味じゃ、魔法なら奪えないから見られても問題ないんだー」
シキは考え込みながらポロリと呟いた。
「そういうことじゃ」
「ストレージの魔法はかなり高位の魔術師じゃないと、ステータス的に使えないよ」
魔術師でない三人にはスクロールがあっても身につけることはできない。
「だよなー」
キルケが諦め顔でシチューをすくう。
「マジックバッグなら買えることもなくはないから、お金を貯めて注文して待つことをすすめるよ」
「数億貯めるって、それ自体無理だから」
シキも諦めたように天を仰ぐ。
「数億あったら遊んで暮らすぜ」
キルケが暗い雰囲気を笑い飛ばした。
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