368 マルス・フランシス 2
「まったく、あの領主も信じられんな!」
ロムが憤慨しながら愚痴をこぼす。
「俺達に丸投げして自分は何もしないつもりでしたね! 貴族なんてあんなもんだな! 困った奴だ」
「じゃが、キル君、上手くやり返しておったな。結局奴も出陣しないわけにはいくまい。状況分析もできてはいなかったようじゃし、大した男ではないのかもしれん。単なる小利口者と言ったところじゃな」
「はい。ではそろそろ飛びますか?」
三人がフライを唱えて宙に舞う。
「まさか、もう戦争になるとは思いませんでしたよ。でも、辺りの村が襲われないようにきっちり掃討しておかなくちゃね」
キルは、後顧の憂いを絶つためにもスジタイ族だけでなく最後まで見届けるつもりである。
「三部族を倒しておけばしばらく時間が稼げるじゃろう」
「三部族を倒しても戦争は、終わらないんですか?」
キルは困惑気味にロムを見る。
「テムジを倒すか、話をつけるかしないと戦いは続くじゃろうな」
「話をつける……ですか」
だいぶ先の長い話になりそうだとキルは思った。
(一週間で戻ると言って出てきたのにな……もう三日目か)
「マルスの奴、噂ほどできる奴ではなさそうだな。今まで攻め込まれていなかったのは、ただ運が良かっただけか?」
ロムがまたマルス・フランシスの悪口を言う。
「そうですね。情報収集はおろそかでしたね。でもまあ、普通ってとこですか」
走行するうちのスジタイ族八千が見えてくる。
キルは空中で静止すると広域大魔法『流星雨』を唱える。
上空に千を超える無数の巨大な魔法陣が現れると、その中央に大きな球形の真赤に燃えた鉄の塊が形ち作られる。そしてそれは雨のようにスジタイ族軍に降りそそいだ。
ドカーン! ドカーン! ドカーン!
隕石の衝突した場所で大爆発が起こり全てが飛び散り一面炎に包まれる。地面には大穴があいている。馬も人も逃げることもできず爆発と業火に飲まれていった。
キルの魔法攻撃は30分の長きにわたり続いた。
そしてその爆撃が終わった後には命のかけら一つも残っていなかった。そこには何もなく煙と残火と大きな無数のクレーターが一面を埋め尽くしていた。
「すごいものじゃな!」
「…………」
「あまり気分の良いものじゃないですね」
キルは悲しそうにクレーター群を眺めている。
「依頼完了じゃな! 報酬をもらってホームに帰ろう!」
「まだ敵は残っています。マルスがちゃんと勝てるか見届けてから帰りましょう」
「クムタイ族六千、ガムタイ族一万か」
キルは黙って頷く。
二部族合わせて一万六千。しかも全員中級騎兵レベルとなればチューリンの兵士、冒険者を全て集めても確実に勝てるかは疑問である。
「チューリンには強い兵士とか冒険者はいないのですか?」
「マルス・フランシスは上級剣士と聞いているな。あとは騎士団に上級騎士のホーエンと特級剣士のリオ。冒険者は、特級槍使いのツッキー、上級剣士のノエル、上級魔術師のリサ……有名どころはそのくらいじゃ」
キルは、解説するロムを驚きの顔で見直す。
「いつの間にそんな情報を……」
「ギルマスのコンノに聞いておいたんじゃ」
さすがはロムさんだと感心する。
「チューリン軍が出てくるのにはまだ時間がかかるじゃろう。今日はとりあえずチューリンに戻ろう」
「ではギルドに戻って依頼の完了を報告して、チューリンの情勢でも見極めましょうか? 冒険者の参加具合とか」
「確かに見極める必要はあるな」
三人はチューリン冒険者ギルドに引き返し依頼完了の報告を済ませる。
コンノが三人を迎えもう八千騎を殲滅したのかと驚く。
「Sランク冒険者とはここまで強いのですね! 信じられません」
「ここからでも広域大魔法の光は見えたじゃろう!」
ロムが自慢げにドヤ顔をした。
「あの光は……、そうだったのですね。確かにすごい爆発音と輝きでした。あれほどの隕石の集中落下は、やはり自然現象ではないのですね」
コンノは驚いて目をまんまるにしてキルを見た。
「ドラゴンを倒すよりは楽だった。魔法で攻撃しただけで、まったく攻撃は受けなかったからね」
「明日、ギルドで集めた冒険者は、戦争に参加する予定ですが、あなた達も参加してくれませんか?」
「それは遠慮しておきます」
「さて、それじゃあ酒でも飲みに行こう」
三人はギルドを出ていつもの居酒屋に足を運ぶ。
「とりあえず、ピール三人前じゃ! 」
居酒屋で注文をするロムは、つまみに何を頼むか検討中だ。
キルはその時離れたテーブルに見覚えのある顔を見つける。それはマウスボーイである。マウスボーイは、義賊と噂される大泥棒だ
(なぜこんなところに?)
まさかマルスの財産が目標かと思ったが、別にマルスを助ける義理はない。
ここでマウスボーイを捕えるのは何か違うと感じる。なのでここではスルーすることにきめた。
昨日マウスボーイを発見していたら確実に捕まえようとしていただろう。そのくらいかマルス・フランシスに対する印象は変わっていた。
だが今となっては、マルスのために何かしてやろうとは思わなかったのだ。
キル達は食事を済ませて宿屋に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます