307 城塞都市ザロメニア 2

槍王ヘヴンズ、身長190cmのガッチリとした体、緑の髪と青い瞳、鼻筋の通った整った顔だちはギリシャ彫刻のようだ。


ヘヴンズは城塞都市ザロメニアの城壁の上に立ち、その守備力のチェックをするとともに周囲の地形の考察にも心を配りながら遠くを見つめる。周囲には一面の大草原に東西に伸びた一本の道が通り、遠くにはいくつかの平地林が見て取れた。

“大軍を動かすには良いところだな”

ヘヴンズの脳裏には平原を埋め尽くす獣人軍に囲まれた城塞都市ザロメニアの情景が浮かんでいた。


獣人軍の総数は10万にも及んでいると聞いていた。戦闘員だけでも4〜5万にのぼるだろう。獣人軍は兵士の家族も付き添って行軍している。獣人の国がそのまま移動しているようなものだ。人族のように定住するという文化がないのだろう。戦闘員、非戦闘員といえどもその区別ははっきりしない。いざとなれば、女もある程度の歳になった子供もたたかうのだ。そもそも女の戦闘員は多い。身重の者や赤児や小児以外は皆戦闘員と言っても間違いとは言い切れない。そんな獣人軍のうちのどれくらいが第一陣として此処に攻めて来るのかはまだ分からない。ただ全軍で攻め寄せても軍の配置に困ることはないだろう。


「ヘヴンズ殿、この城塞都市は主にロマリアからの攻撃を想定して作られております。故に東の壁の防御力が最も高くなっておるのです。ですがそのほかの壁の防御力とて、それほど東壁に劣る物ではありません」

ヘヴンズの横でザロメニアの案内を買って出ていたキョクアが言った。


「おそらくは、獣人軍は西からやって来るとは思いますが西の壁とて十分な強度と防御力を持っております」


城壁の高さは対魔物ように設定されているため、三階建ほどの高さがある。普通の人間では登りことは不可能だ。掘りはないが城内に入るためには東西南北の四つの城門の何処かを通るしかない。


「そのようだな。この城壁の上から矢を射かければ、敵に大きな損害を与えられることだろう。弓矢と投石用の石は多めに用意しておかねばな」


「それは抜かりなく」

キョクアの答えに頷きヘヴンズ。キョクアに対するヘヴンズの評価が一段上がる。


「ですが、獣人の中には空を蹴って空を翔る者もいると聞き及んでおります。そ奴らは悠々と城壁を越えることができましょう」


「なんだと!」

ヘヴンズが、驚きの声を上げた。


「その為城壁を易々と攻略されたと聞いております」

キョクアが過去の戦いの情報を告げた。


「うーむ。それでは籠城戦は上手くいかんな」

ヘヴンズは思わね情報に頭を抱えた。だがこの情報を今知ることができたことが幸運だった。知らなければ城壁の上をすぐに制圧されて逆に上から責められることになったに違いない。


ならば……平地で戦った方がまだマシか?狭い城壁の上では数的優位は簡単に覆られかねない。それでもまだ城壁の上での戦いの方が有利か?それほどたくさんの獣人が空をかけられるわけではあるまい。


「うーむ。城壁を易々と攻略された……か」


「はい。奴らは衝車や井蘭のような攻城兵器も持っておりますし、それらを奴隷に引かせて移動して来ます」

キョクアが顔色を曇らせた。


「ロマリア王国軍の全運が到着するまで、獣人軍が来ないでくれれば良いのだがな」

ヘヴンズは今の現状では戦いは避けた方が良いと考えていた。ロマリア王国軍10万が揃うまで、獣人軍が攻めてこないでくれればと願うのだった。

もうすぐ第二陣が到着するはずだ。


「獣人軍の動向は探っているか?」


「まだこの地まで来るには暫くありそうです。あと数日はかかるかと。最新の情報が入り次第お伝えいたします。」


ヘヴンズはキョクアの答えに安堵する。盾王ビッグベン、弓聖リンメイ、剣王バットウ、騎神キングナバロの軍はすぐ後にづいているはずだ。


「ロマリア王国軍の第二陣がもうすぐ到着致します」

兵士が報告にやって来た。


この様子なら此処に全軍集結してから戦いに臨めそうだと思っていると、続け様に別の兵士が報告にやって来た。


「獣人軍の先鋒が近づいています。現在、西に10キロの所を行軍中です」

「何! 先鋒の部隊の数はわかるか?」

「は! およそ一万と見られるようです」


一万ならば、ヘヴンズの軍の半数である。確固撃破のチャンスかもしれない。それにこれから到着する盾王ビッグベンの軍が城に入る猶予期間を捻出できる。ヘヴンズは間髪を入れず決断した。


「全軍出陣用意、30分で出撃するぞ! それからビッグベンの軍にこの事を伝えろ!」


ヘヴンズはそう言うと歩き出した。


「我々は、ザロメニア城塞の守りを固めればよろしいのでしょうか?」

キョクアが問うと、ヘヴンズが答える。

「ああ!この都市の守りは任せたぞ。俺は敵の先鋒の出鼻を挫いて来る」

「ご武運を!」


急いで去っていくヘヴンズをキョクアは期待を込めて見送った。

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