306 城塞都市ザロメニア 1

ロマリア王国軍の誇る五人の将軍が西に向かっていた。


槍王ヘヴンズ、盾王ビッグベン、弓聖リンメイ、剣王バットウ、騎神キングナバロ。

五竜大将軍、ロマリア王国の誇る最強の五人だ。


それぞれが2万の兵を率いて王国存亡を賭けた戦いに向かったのだ。

目標は滅ぼされたザンブク王国内にいる獣人軍だ。彼らはザンブク王国内で略奪と人間達の抹殺を続けていたのだ。彼らにとって人間は最終的には食用の肉でしかない。そもそも同種族ではないのだ。


ザンブク王国内では獣人達に刃向かう軍隊はもう存在しなかった。次々に町や村が襲われ、財は没収され刃向かうものは殺され、歯向かわないものは奴隷として引っ立てられて鞭打たれ強制労働をさせられていた。そして消耗品のように倒れるまで働かされ続け倒れたものは死んでいくのだった。

ザンブク王国内の人間の数は驚くほどの勢いで減り続けていた。彼らの通った後に人族がいなくなるのは当たり前だった。そして捕まえる人間がいなくなると、彼らは次の国を攻撃するのだ。まるでイナゴが草原を食い尽くして次に移動するように、彼らの通った後には廃墟が残されるだけだった。


ザンブク王国のロマリア王国との国境に接する城砦都市ザロメニアは王都陥落の報を受けるとロマリア王国に救援と難民の受け入れを依頼していた。

五竜大将軍はこの城塞都市ザロメニアを防衛拠点に選んだのである。彼らの軍は此処に集結しつつあった。

そしてザンブク王国内の敗残兵も此処に集まって来ていた。

ザロメニア侯爵ぺロロバンはそれらの兵を糾合しつつ軍備を整えようとしたがその兵力は5000程度であった。それでもこの街の兵士としては過去最大数にのぼっていた。これが最後に残されたザンブク王国の抵抗戦力である。


銀髪青眼、身長は180cmの細マッチョの上級魔術師であるザロメニア侯爵ペロロバンは、ザンブク王国の東の守りを任された武闘派の貴族である。ロマリア王国とは何度も戦ってその侵攻を跳ね返して来た名将だ。そのペロロバン侯爵が今はロマリア王国に膝を屈して助けを求めていた。



ザロメニア騎士団長キョクアは新しく集まって来た戦力の整備に奔走していた。キョクアは金髪青眼、身長180cmのゴリマッチョだ。ザロメニア一の武人、特級騎士であり、事務処理能力も高くペロロバン侯爵の右腕である。


「よし、なんとか軍として使えそうだな。ペロロバン様に報告だ」


キョクアがペロロバン侯爵の元に報告に向かおうと思っていると、ちょうどロマリア王国軍の接近を伝える伝令が到着した。

キョクアは二つの報告を持ってペロロバン侯爵の部屋に入った。


「ペロロバン様。もうすぐロマリア王国軍の第一陣が到着する模様です」


「報告ご苦労。キョクア自ら報告とは、要件はそれだけではなさそうだな」


「は! 難民の中から戦えるものを集めて一軍を整備いたしました。これで我が軍は総勢5000となります」


「よくやってくれた。これで我々も獣人達に一矢報いることができそうだな」

「は! 反撃の一翼を担うに十分な兵数を揃えられたかと思います」

ペロロバンもキョクアもロマリア軍に対してそれなりの存在感を示せる兵数を揃えたぞと自負するのだった。


「ではロマリア王国軍の出迎えに行こうか」

ペロロバンとキョクアは部屋を出た。

そして騎士団員の選り抜き30人を従えて城塞都市の城門から外に出て城門前でロマリア王国軍を待つ。


程なくロマリア王国軍がやって来た。二万人のヘヴンズ軍の列が遥か向こうまで延々と続いていた。

ヘヴンズ軍の先頭が巨大な城塞都市ザロメニアの正門前に到着し、ヘヴンズが姿を見せる。

まずキョクアが前に出てヘヴンズに話しかけた。


「ザロメニア騎士団長キョクアであります。お見知り置きを。こちらが我が主、ザロメニア侯爵ペロロバン様です」


「わたしがこの地の領主ペロロバンです。援軍要請に応えていただいてありがとうございます」

ペロロバンがヘヴンズに挨拶をした。


「わざわざ城門前まで領主様に出迎えていただけるとはありがたい。わたしはヘヴンズと申す者。協力して獣人どもを追い払おうではありませんか」


「おお!あの名高い五竜大将軍のヘヴンズ殿でございますか。これでもう、我々は勝ったも同然でございますな。ささ、城内にお入り下さい」

ペロロバン侯爵はそういうとキョクアを先頭に城内に入って行った。


ロマリア王国軍の第一陣、槍王ヘヴンズの軍2万が入城して、その威容を見る城内の民は安心とも不安ともつかない微妙な表情で彼らを迎えた。確かにヘヴンズ軍は強そうに見えた。だがザンブク王国の将軍達だって同じように強そうに見えたものだった。だがそのザンブク王国の将軍達の軍は敗れて今はもう壊滅しているのを民は知っていたのだ。そのことが民達に万全の安心を与えられなかった原因だったのだ。それはつまり、獣人軍の方が強いという判断を獣人軍から逃げ延びて来た誰もがしていたということでもあるのだった。


槍王ヘヴンズの軍はその奇妙な空気の中を進んでいくのだった。

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