304 キル、話を聞いて考えを変える。1

オーキルで1泊して『15の光』は緑山泊に引き返し始めた。ユフリンを経由してアルバスへと、来たルートを引き返す。オーキルでもユフリンでも住民達の噂話は、獣人軍との戦争の話が中心だ。少し耳をすませばたくさん情報を得ることができた。


ユフリンで聞いた噂ではまだ戦争は始まっていなかったが、アルバスに着いた時にはロマリア王国軍が西に向けて出発したという噂が広まっていた。もしかすると今頃は戦端が開かれているかもしれない。アルバスの宿屋で一泊しながらキルの部屋で全員が集まり話し合う。


「早めに緑山泊に戻らないと……」

「そうっすね」


キルの呟きにクリスとケーナが反応して心配そうな顔をしてキルを見る。


「大丈夫だよ。そんなにすぐにロマリア王国が滅んでしまうはずがないんだから」

「そうじゃな、流石に緑山泊まで行く間に占領されてしまうほど、ロマリア王国は弱くはないじゃろう。」


グラとロムは二人の心配そうな顔を見て諭すように焦る必要はないと言った。


「クリスは早くルビーノガルツ侯爵に伝えたいんでしょ?」


キルの言葉にクリスはコクンと頷いた。

ロマリアが破れるようなことにならば、次はベルゲン王国との戦争になる。そうすると当然ルビーノガルツ侯爵にも出兵の要請は来るはずなのだ。

ロマリアと獣人軍の戦争が、どうなってしまうのか? クリスが気にならない訳がない。


「獣人軍とロマリア王国の戦争ってどのくらい続くんでしょうね。グラさんとロムさんはどう思います?」


キルはグラとロムに彼らの予想を聞いた。

グラとロムが顔を見合わせる。


「そうじゃな、仮に獣人軍が圧倒的に強かったとしてもロマリア全土を征服するには数ヶ月はかかるじゃろうな」

「そうだね、一度や二度の戦いでロマリア王国全域を収める事にはならないだろうからね」

「だとすれば、最低でもベルゲン王国との戦争は二、三ヶ月先という事ですね」

「じゃから、ルビーノガルツ侯爵の元に焦って戻らずとも十分に時間はあるじゃろう」


グラとホドが頷いた。大人達の見解は大体一致しているようだ。

それでもクリスは心配そうに顔色を曇らせていた。

まあ、自分の父達が参戦するともなれば心配にはなるだろうな……。

どちらかといえば、自分が戦っていた方がクリスは安心できるのだろうから……とキルは思った。


緑山泊に寄って、ジルベルトさんのシミュレーションを聞いてからルビーノガルツに戻れば良いかな……キルは頭を掻きながらグラ達を見つめた。


グラもクリスが沈んでいるのを見て考えを巡らせている。

「とにかく緑山泊に寄ってみよう。『知恵の泉』ジルベルトさんの意見を聞くのが一番良いだろうからね」

「そうね。こういう時はジルベルトさんのシミュレーションが一番頼りになりそうよね」

サキもグラの意見に賛成なようだ。みんな考えは同じだろう。シミュレーションが万能という訳ではないが…完全な未来予知とは程遠い事は理解しているが…それでも一番頼りになる。


「とりあえずは緑山泊によるとして、ロマリア王国と獣人軍の戦いはどちらが勝つと思う?」

グラがロムの目を見つめて意見を求めた。


「ロマリア王国には五竜大将軍がおるじゃろう。最終的には獣人軍と五竜大将軍のどちらが強いかということに尽きるな」


「五竜大将軍! 槍王ヘヴンズ、盾王ビッグベン、弓聖リンメイ、剣王バットウ、騎神キングナバロの五人よね」

サキがロマリア王国五竜大将軍の名を挙げた。眉根を寄せながら唇を噛む。


「中でもロマリア最強の神級、騎神キングナバロが獣人軍を打ち破れるかが鍵じゃろうな」

ロムは胸で両腕を組みグラの事を睨み返した。ロムの言葉にグラは大きく頷いた。


「神級一人、王級三人、聖級一人が、ロマリア王国の最高戦力という事ですね?その人達が敵わなければロマリア王国が負けるということか……」

キルはある程度の状況を理解できたような気になった。


クリスとケーナは互いを見つめあった。

モレノがお気に入りの槍を触りながらボソリと言った。

「神級が一人だなんて、ロマリアって弱そうだからきっと負けちゃうと思う」

ルキアがモレノの事を睨む。

「御免なさい〜」

モレノがルキアの一睨みに怯えて防御態勢を取りながら謝った。


「確かにそうかもしれんな……」

意外にもロムがモレノの呟きを肯定した。


「そうなんですか?」「うん、うん」

エリスとユリアがロムを見つめた。マリカとユミカも驚いたようにロムを見る。


「俺の見るところ、獣人軍は強いじゃろう。神級一人では厳しいな」

「私もそう思うわ」

「……」

サキもホドも獣人軍は強いと思っているようだ。


「獣人軍の戦力が分からないからロマリアが負けると決まった訳ではないけれど……ザンブク王国を征服した獣人軍は、侮れないよな」

グラも本音は同じ意見のようだ。


大人達の意見を聞きながらキルは考えた。獣人軍は、ロマリア王国が負けると次はベルゲン王国に攻めてくるに違いない。ベルゲン王国が戦争に巻き込まれないようにするにはロマリア王国に勝って貰えば良いのだが、大人達の予想では負けそうだという。やはりロマリア王国を助けるために援軍として参戦した方が良いように思う。


「俺、ロマリア王国の援護の為に獣人軍に攻撃を加えようかと思うんですけど?どう思いますか?」

キルはグラに意見を求めた。


グラは驚いた顔で黙り込んだ。

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