301 オーキルへ

ユフリン冒険者ギルドを訪れた『15の光』はまず掲示板の依頼をチェックした。

ドラゴンの討伐依頼が無いかを確かめるためだ。

ドラゴンの目撃例があればそれに対応した依頼が出ていたりするはずである。


だが残念ながらドラゴンに関係しそうな依頼はなかった。

しかし西のザンブク王国が獣人の軍に占領されたという噂が冒険者の間で広まっていた。


「思っていたより早くザンブク王国は負けてしまったのじゃな」ロムが驚いたような顔をした。


「ロマリアに獣人達が攻め込んで来るのかしら?」サキが眉根を寄せる。


「そういう心配をしている人は多いようだね」グラが落ち着いて言った。


「どうします?ダンジョン攻略している間にロマリアで戦争が始まったりするかもしれませんし、ベルゲン王国に帰った方が良いでしょうか?」キルがグラ達に言った。


「まだ開戦したわけではないし、するとは限らないのだからもう少し粘っても良いんじゃないか?ただ3班に分かれるのはやめておこう。合流できなくなったりすると困るからね」


「そうじゃな、あわてて攻略する必要もないじゃろうから今回は全員一緒に潜れば問題なかろう」


「ならできるだけ東側にあるダンジョンを攻略しておけばすぐベルゲン王国に帰れるんじゃなくて?」サラが言った。


「ならここから北の方にあるBランクダンジョンのオークイルダンジョンに向かうとするかい?」

グラはロムの方を見た。


「そうじゃな、あそこなら問題なかろう、今から飛んでいけば夕方までには近くの街オーキルに着けそうじゃ。そこで宿を取れば良い」


『15の光』はギルドを出ると街外れから空に上った。北に向かって飛行する。

オーキルの街はいわゆるダンジョン街でオークイルダンジョンに訪れる冒険者を相手にした宿屋や食事処、道具屋、武器防具屋などが立ち並ぶ中規模の街だ。Bランクダンジョンというのは比較的利用する人間も多くそれなりに稼げるので町に落とされるお金も多いのだ。


オーキルに着くと宿屋を決めた。そしてオーキルの街に繰り出した。また3班に分かれて行動する。

此処の食事処でも人々の噂はザンブク王国が獣人に征服されたという話だった。

ザンブクの人間は奴隷にされたという事も聞こえて来た。獣人達は略奪が経済活動だと思っているようで征服した国の富を全て奪い尽くすのだと言われていた。物は奪い人は殺すか奴隷にするかだ。奴隷にされた者は使い潰される。職人など一部の生産者は奴隷としては比較的大事に扱われるらしいがそれでも過酷な労働環境に置かれる事には変わりはない。


聞こえてくる人々の話に耳を傾けていたキルだったが少し気分が悪くなっってきた。


「獣人というのも酷い奴らだな」キルは言った。


「そうっすね、許せないっす」とケーナ。


「人間も昔、獣人を奴隷にしていた時期があったそうですわ。彼らは強いので魔道具で縛って命令を聞かせていたそうです」クリスが言った。


「へ〜、そんな時代もあったっすか」


「ですから獣人にしてみれば人間を奴隷にするのも勝者の権利として当然だと考えているのも仕方のないことかもしれませんわ」


「そういう歴史があったんだね。俺は歴史なんて全然知らないからなんとも言えないけれど、でも奴隷なんてシステムは良い気がしないね」とキルが言った。


「自分もそう思うっす。そんなシステムは無くなった方が良いっす」


「そうですわね」クリスも頷いた。


「まったくもってその通りであるな」とユミカが言った。


その晩は宿屋に泊まり翌日はオークイルダンジョンに潜るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る