237 対緑山泊討伐軍 7
キルを前に疲れを隠せないボルタークだ。
キルは休息十分だ。
そこにクリス、ケーナ、マリカ、サキが離陸して来た。
4人がただものでないことはボルタークには一目でわかった。
ケーナが弓を、クリス、マリカ、サキが魔法の杖をボルタークに向ける。
キルは剣を構えている。
緑山泊にはどれだけ人材が集まっているんだ。
誰をとっても四天王クラスじゃないか……
「まいった!降伏しよう」
ボルタークは負けを認めて剣を捨て、座り込んだ。
「悪いが縄を打たせてもらうよ」
キルはそういうとボルタークを縄で後ろ手に縛った。
「さて、一緒に来てもらいますよ。ボルターク将軍」
緑光山軍は王国直轄軍を粉砕して突き抜けると紅月山を取り囲むルクスブルグ公爵ベルクレスト達の軍の後方に陣取った。
王国直轄軍の兵は散り散りになって四散し消滅した。
召集された民兵や冒険者は王国にそれほどの忠誠度を持ち合わせてはいない。
現国王ベルゲンダインの悪行を思えばそうなるのも当たり前のことだった。
緑光山軍が陣取った位置は紅月山を取り囲むルクスブルグ公爵ベルクレスト達の軍を紅月山軍と共に前後から挟み込む位置にあたる。
ルクスブルグ公爵ベルクレスト達の軍は紅月山の囲みをといて移動しなければ殲滅されるのは目に見えている。
よほどの無能な指揮官でない限り紅月山の囲みをといて移動を開始するに違いない。
キル達は捕虜のボルタークを幕舎に連行した。
「ボルターク将軍をお連れしました。」
キルがゾルタンに報告する。
幕舎には緑山泊の首脳陣が集まっていた。
ゾルタンはキルの報告を受けてボルタークと向き合った。
「ボルターク将軍、初めてお目にかかる。私は緑山泊棟梁ゾルタンと申します」
ゾルタンと聞いてボルタークの顔に驚愕の色が浮かぶ。
不死身のゾルタンの話は御伽話のように世間に広まっている。
架空の人物を目にしたかのような驚きを持つのは当たり前の反応かもしれない。
「ベルゲン王国軍四天王剣神のボルターク将軍とお会いできてとても光栄です。今回は敵同士になってしまい心の痛い事です。」
ボルタークはゾルタンを見つめている。
「できる事なら将軍には緑山泊の一員になって頂ければと考えておりますが、いかがなものでしょうか?将軍は現国王ベルゲンダインの行状をどう見ておいでなのでしょう?
決して賛同できるものではないと思いますが?」
「フン!罪人の言うことに耳を貸せるか!」
ボルタークがそっぽを向いた。
「私はこの際ベルゲンダインを討とうかと考えています。彼は王としては不適切だ。」
ボルタークがまさかという表情でゾルタンのことを見直した。
「ボルターク将軍、私はあなたにこのかたの助けとなって欲しいのです」
ゾルタンの目が謎の大剣使いガングルを見つめる」
ボルタークの表情がゾルタンの視線の先を見て凍りついた。
「まさか……」
ボルタークがガングルを見て呟く。
「ベルゲンシャイン様……生きていらしたのか………」
ガングルがボルタークを見つめていた。
心なしかガングルの目頭が熱くなっているように見える。
「懐かしいな………ボルターク」
「ベルゲンシャイン様……お懐かしゅう御座います」
「また、剣を教えてはくれぬか?」
「はい。これからは貴方様のお供をさせてください」
ボルタークは縛られたままガングルに臣下の礼をとった。
ドラゴンロードのペケが訳がわからないという表情をしている。
キルにもよくはわからないが、ガングルさんの本当の名前がベルゲンシャインという事。
それと昔ボルタークがガングルの剣の師匠として使えていたらしい事は想像できた。
ベルゲンシャイン……ベルゲン?
ベルゲン…てことは王族?
キルは想像を巡らす。
答えはすぐにゾルタンによってあかされた。
「ベルゲンダイン国王を討ち、兄であるベルゲンシャイン様に王位について頂く。この際そうしようと私は考えているのです。緑山泊はそのためにうごきます。皆さんよろしいですね!」
「「「はい」」」緑山泊の首脳陣の返事が揃った。
「ガングルことベルゲンシャイン陛下、よろしいですね?」
「はい。ご助力ありがとうございます」
なんと謎の大剣使いガングルは現王ベルゲンダインの兄ベルゲンシャインだったのだ。
そして緑山泊は現王を討ちガングルを王位につけるために戦いを始める事にしたのだった。
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