219 王都ローリエ  2

「お礼と言っても大したことはできませんが、お茶でも飲んで行って下さい。」


奥の警備員待機室と思われる少し汚れた部屋で茶と茶菓子を出されるキル達。

彼らにしてみればこれができる最上のもてなしなのだろう。


倒された強盗団を縛り上げる者と仲間を介抱する者、警備員達はセカセカと働いている。


警備主任がちょっとした小物を3つほどテーブルの上に置きユミカの顔を見た。

「これは此処で売っている小物ですがお礼の気持ちです。俺たちではこの程度のお礼しかできませんが受け取って下さい」


「ありがとうございます。いい記念になります。嬉しいな!」

ユミカが嬉しそうに小物を取り上げた。

銀のスプーンセットと星型のピンズ2つだった。


「此処のお土産として売っている物なんですけどね。結構人気があるんですよ。」


「素敵ですもの。いい記念になります。ありがとうございます」

嬉しそうに笑うユミカ。


「すみませんが報告書に記載しなければならないのでお名前と身分証を見せていただけませんか?」


「あ、はい。」


ユミカが提示した冒険者証を確認し報告書に記載する警備主任。

「C級冒険者ユミカ、『15の光』がパーティー名ですね」


冒険者証を返して、もう一度感謝する警備主任だった。


キル達はお礼を言って退出した。あまり身分を調べられたりするのはいい気持ちではないのだ。


まだロマリア王国ではスクロール職人としての追跡は受けていないもののこう言う扱いにキルは少しモヤモヤする。


博物館の見学を続けて見学が終わる早々此処から離れた。


「ちょっとモヤモヤしますね」


「仕方がないさ、彼らも仕事でしている訳だし、決まり事だからね」とグラ。

常識的な意見だ。


「博物館の次は闘モウ場に行ってみましょうよ!」

サキが気分転換を提案した。


「気分転換に闘モウを見るのも良いかもしれないな。酒でも飲みながら闘モウをみるかい?」酒が飲めるのは大人達だけだ。


それでも一行は闘モウ場に向かった。

酒が飲めなくても闘モウ観戦は面白いに違いない。


闘モウ場は円形のコロシアムになっていて、闘技場の周りは観客席だ。

観客席では飲み食いをしながら闘モウを見て楽しむ。


酒とそのつまみはコロシアム内で買わなければならない。

つまり持ち込み禁止ということだ。


コロシアムでは時として闘モウ以外に冒険者パーティー対魔物の戦いを見世物にしたり、時には拳闘士同士の戦いを催したり剣士同士の模擬戦を催したりする事もあるらしい。


たっぷりと酒、飲み物、料理を買い込んで席につき闘技場を眺める。

小型のモーモウが闘技場内に放されて1人の男がモーモウに立ち向かった。


男はマントをヒラヒラさせながらモーモウの突進を交わし剣で突き刺してモーモウにダメージを与え続けていた。


男がモーモウの突進を躱すたびに声援が飛んだ。

キル達も男がモーモウを躱わすたびに声援をあげる。


実際キル達がモーモウを相手にすれば余裕で躱し剣を突き立てられるだろうが、ショーとして見ている分には盛り上がるものだ。


男は何度もモーモウに剣を突き刺してモーモウが弱っていく。

そして遂に弱ったモーモウに男がトドメの一撃を突き刺した。


倒れたモーモウを後ろに男が観客に手をあげてアピールする。

会場からは大きな拍手が湧き上がった。


続いて次の闘モウの準備が進められていく。

今度はさっきより大きなモーモウを相手に戦うらしい。


モーモウが柵から放たれ闘技場内を走り回っている。

こいつが次に戦うモーモウだ。


大歓声と共に派手な衣裳に身を包んだ男が入場して来て観客達の歓声が一際大きくなった。


本日のメインイベントだ。


男は大きなモーモウを恐れる事もなくマントを振り出した。


グラとロムが酒を酌み交わして歓声を上げる。

「イケー!」

「イケー!モーモウ!」


モーモウの方を応援ですか?……と思うキル。


「君がキル君だね」


突然声をかけられて振り返るとそこには剣を腰に下げた男達がいた。

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