201 ユミカ躍動する。

ドグリの街を出て、西に馬車を走らせるキル達一向。


西に行けばアルバスというそこそこ大きな都市があるはずだ。


草原を抜けて林の中の道を行く。

この辺りは魔物に襲われそうなポイントに見える。

実際索敵で大型の魔物が前方で待ち構えているようだ。


「前方に魔物がいるようです」

後ろに注意を呼びかけるとユミカが顔を出した。


「私が出てもよろしいであるか?」


「じゃあ、頼もうかな」

キルがユミカと魔物の強さを鑑みてユミカ単独でも余裕で倒せると判断する。


キルの答えを聞いてユミカがキルの隣に移動してきた。

魔物を見つけ次第飛び出していく構えだ。


ユミカの緑の髪が風に揺れ緑の瞳が前方を睨む。


「いた!」

そう叫ぶや否やユミカが御者台から飛び出して行った。

キルは馬車を止める。


魔物に向かって走るユミカ。

3m近い熊型の魔獣、ビッグブラックベアー、通称BBBだ。

ビッグブラックベアーは『森の恐怖』と恐れられ、よく通行人を襲うことで知られている。


向かってくるユミカを見つけビッグブラックベアーは立ち上がって両腕を上げる。

ユミカは勢いそのままに飛び蹴りをお見舞いした。


みぞおちにユミカの飛び蹴りを受けたビッグブラックベアーがくの字になって後方に吹っ飛ばされた。


轟音と共に土煙が舞い上がる。

土煙の中からビッグブラックベアーがのっそりと立ち上がるがかなりのダメージが残っているようだ。


ユミカはサササと距離を詰め正拳突きをビッグブラックベアーの心臓目掛けて打ち込んだ。


ビッグブラックベアーが口から血反吐を吐き後ろにそのまま倒れ込んだ。

心臓破裂で即死だった。


「フン。つまらん相手だったであるな。まあ良いか!」


キルはゆっくりと馬車を近づける。

みんなが馬車から出てきてユミカの戦果を確認した。


「大きい割に弱かったのね」

金髪のモレノがずけずけと言った。


ルキアがモレノの頭を殴る。

「最近モレノ、一言多い」


頭を抱えてうずくまるモレノ。


ルキアがジト目でモレノを見た。


ケーナがマジックバッグにビッグブラックベアーを収納する。


「ユミカはとても強くなったんだね」

キルが褒めるとユミカは頬を赤らめた。


「い、いや…そんな、そんな事はないぞ。つ、つ、強いだなんて。

クリスやケーナには敵わないであるからな」


「ユーミーカー、顔が、あーかーいーよお?」

マリカがユミカをいじる。


真っ赤になって顔を手のひらで隠すユミカ。

マリカはそんなユミカを見ながら微笑んだ。


サキもニコニコしている。


「さあ、乗って乗って!先を急ごう」

グラが皆んなに馬車に乗るように言った。


馬車は再び走りだす。




  *  *  *


緑山泊  


クリープの連絡鳥がもたらした手紙がゾルタンの元に届いた。


「黒蜘蛛党を返り討ちにしたか…………アルバスに向かっている………と」


ゾルタンの隣にはジルベルトとソンタクが控えていた。


その近くに緑山泊の首脳陣がいる。


「アルバスの領主アルバス公爵ハーメルンは評判の悪い男ですね。彼らにとっては困った事になりそうだ」とジルベルト。


「助けが必要になりそうかね?」


「いや、クリープとゼットがいますし、もともと彼らは強いですから問題はないでしょう」


ジルベルトはゾルタンの問いに即答した。


「キル君は強いといえどもまだ14歳、まだまだ人生経験も少ないし、賢い判断を期待するのは酷というものでしょう」

ゾルタンは少し不安そうだ。


「大人が、4人も横にいますから彼らが助けてくれるでしょう」


「それはシミュレーションの出した答えですか?」


「そういう事です」


「なら安心ですね」


「ちょっとよろしいですか?」ソンタクが発言を求める。

「ハーメルンのような悪党はこの際退治してしまってはいかが?」


ゾルタンがジルベルトを見る。


「それも良いでしょうが………誰にやってもらいましょうか?」

ジルベルトが考え込んだ。


「俺にいかせてくれよ。」

そう言ったのはドラゴンロードだった。


ジルベルトは頭を傾げてからゾルタンに言った。

「ゼットを罪人にはできませんのでドラゴンロードに頼みましょう」


「やった、良いんだな。俺が行っても」

ドラゴンロードが小躍りをして喜ぶ。


「無用な騒ぎは起こすなよ。」

ジルベルトがドラゴンロードに釘をさした。


「わかってるって事よ。それじゃあ、行ってくらあ!」

ドラゴンロードが喜んで出かけた。


ドラゴンロードを見送った後でゾルタンがジルベルトを見つめる。

その顔には(大丈夫か?あいつだけで。)と書いてあった。


「ピンチュン殿にあとを追ってもらいましょう」

とジルベルト。


ゾルタンがピンチュンにお願いした。

「ピンチュン殿、ドラゴンロードのめんどうを見てもらえないか?」


「わかりました。私にお任せ下さい。」

ピンチュンは苦笑しながらドラゴンロードの後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る