175 久しぶりのホーム
キルはおもむろにクリスやケーナの方に悲しそうな表情で問いただした。
「俺が坊主でグラサンになるってどう思う〜?」
クリス達はキルの表情でその気持ちを察した。
「いやですわ!」
「嫌っす!」
「やだよね〜」「うん、うん。」
「嫌であるな。」
「いや〜かな〜。」
「いやです。」
「や!」
8人のメンバーが反対してくれた。
サキが頷く。
「冗談よ。ハゲメガネなんてイヤよね〜。」
よし!これでもっとましな変装になりそうだ。最低でも髪を剃るのは避けたい。
思わず拳を握るキル。
「うーむ。じゃあ、髪を染めて仮面でもつけるか?そして喋らない。これでいこう。」
グラが新しい案を出した。
まあ、そこら辺が手のうちどころか?厨二病っぽいが、良しとしよう。
「仕方ありません。顔に傷?火傷の傷があるということにして仮面をつけましょう。」
キルもその案で了承した。
「それじゃあ明日はキル君の仮面とそれに似合う防具一式を買い揃えましょう。パリスでは面が割れているからリオンで買うっていうのはどうかしら。」
リオンは『天剣のキラメキ』のホームタウンである。
サキはキルとリオンで買い物をするつもりで上機嫌だ。
「私がリオンを案内してあげるから一緒に飛んでいきましょうね。」
「私もリオンの街に行ってみたいわ、ご一緒してもよろしくて?」
「自分もリオンに行ってみたいっすね。たまにはパリス以外の所に行きたいっすから。」
あくまでキルと一緒に行きたいのではなくてたまにはリオンに行きたいのだ。
「私も行きたい!」「うん、うん。」
「いーきたーいなー。」
「行きたい!」
「それじゃあ明日は全員でリオンに行くとしよう。」
グラが仕切る。
「あとな、話は変わるんだが俺たち『天剣のキラメキ』なんだけれど『レスキューハンズ』に入れてくれないか?」
4人がそうしたいと視線で訴える。
「リーダーはケーナのままでいいんですか?」
キルが確認する。
「勿論だとも。」
キルは『レスキューハンズ』のメンバーを見渡して反対者がいない事を確かめる。
「わかりました。良いよね、みんな。」
「「「はい。」」」
『天剣のキラメキ』と『レスキューハンズ』の合併が突然決まった。
なんとなく予感はあったけれどもね。
俺が帰って来るのを待っていたのかもしれないな。
これで『レスキューハンズ』は実質13人のクランになった訳である。
おそらくパリス、リオン2つの街でも最強のクランだと思う。
明日、俺と『天剣』のメンバーの『レスキュー』加入の手続きをギルドでする事になるだろう。
キルは久しぶりに家のベッドで眠るのだった。
翌朝1ヵ月ぶりの朝日で目覚めるキル。
窓から差し込む光がこれほど暖かく眩しく感じたことはないように思えた。
窓を開けまだ冷ややかさの残る早朝の空気を吸って帰ってきた事を実感した。
オット、外から見られないようにしなくては。
急いで窓を閉める。
キルは階段を降りてホールに移動した。
ホールではユミカが朝の武術訓練を行っている。
ゆっくりとした踊りのような動きの中に足腰を鍛える様々な型が織り交ぜられている。
時折鋭い突きや蹴りを放つユミカ。
静と動が混然一体となって1つの世界を作り上げていた。
キルはしばらくユミカの流れるような動きに魅入っていた。
「キルさん、よく眠れましたか?」
突然後ろから声をかけられて油断していた自分に気づいた。
クッキーの気配に気づかないとは、これが敵だったら命がなかったなと思い気を引き締めた。
「よく眠れたよ。こんなによく眠れたのは久しぶりさ。」
「皆さんもうそろそろ食堂に集まって来ますよ。どうぞ食堂へ。」
クッキーはそう言うと調理場に戻っていった。
今日はリオンに皆んなで買い物に行く予定。
クリスもケーナも皆んな私服でお出かけである。
冒険者スタイルとはかなり違う装いで8人の少女は見違えてしまう。
キャッキャ、コロコロ話し笑いながら朝食を済ます少女達。
ダンジョンの中とは比べ物にならない明るさだ。
やはり冒険者姿では色が無い。その点私服は防具よりはきらびやかだ。
こんなに可愛い子達だったのかと認識を新たにするキル。
いやいや、だからってなんだよ。綺麗なものを綺麗と思っているだけのこと。
特別な感情は無い。自分で納得するキル。
さて、リオンに出かけようとしようかな。
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