135 ギルバートの依頼

冒険者を辞めてスクロール職人一本でやって行くと言う考えが頭から離れない。

安全ということでは冒険者はやめた方が良いには違いない。

収入という面でもスクロールを作っていた方が良い。

というかもうお金はいらないくらい持っている。



とすると冒険者をしている意味は?魔石の確保か、、、あとは経験値を稼ぐため。

要するに強くなるため???


俺は強くなりたいのか???

今でも十分に強いと言っても良いが、、、とは言え俺よりもっと強い魔物が現れないとも限らない。そういう時に俺は戦わずに逃げる様な事をしてなんとも思わないのだろうか?


その時は、仕方がないと思うしかないさ。どこまで強くなってもそういう事はあるだろうし。キルはぶつぶつ言いながらホームに歩いて帰った。


ホームには見た事のある顔が待っていた。クリスの執事ギルバートである。

嫌な予感がするキルである。またクリスを連れ戻しにきたのだろうか?


クッキーがキルを出迎えてくれる。

「晩御飯の用意はできてますが、お客様がお見えです。どうしますか?」


ギルバートはホールの椅子に腰掛けて待っている。

隣にはクリスとケーナが座っていた。


「客ってのはギルバートさんのことかい?」


「はい。ギルバート様の事です。」


「なら先に一声かけて来よう。」

キルはそう言うとギルバート達の方に近づいていった。



「お久しぶりですね。ギルバートさん。何かありましたか?」


キルのその声にギルバートが答える。

「クリスお嬢様がお世話になっております。実は折りいってキルさんにお願いがあって参りました。」


「さて、どの様な事でしょう?」

面倒ごとに巻き込まれたくはないなと思いながらキルは問いただす。


ギルバートは一瞬黙った後に語り始めた。

「この前のサイクロプスの大量発生、御協力感謝します。実はサイクロプスの発生元の特定をして頂きたく調査を依頼したいのですが、ギルドマスターと協議した結果何処かにダンジョンができている疑いがあるということになりまして、森の奥地でそのダンジョンを見つけて調査して欲しいのです。」


キル:「それって我々でなくてもできるのではないですか?我々9人と人数も多いですし、4人くらいのパーティーの方が良いのではないでしょうか?」


ギルバート:「サイクロプスと遭遇する可能性もありますし、それ以上の魔物と遭遇するかもしれない案件です。実力のあるパーティーに頼まないと危険ですし、全員が上級冒険者のパーティーというのは調査依頼の様な安価な依頼を受けてくれるパーティーは・・・・なかなかない訳で。」


俺達だって稼ぎが少なくて、通常の稼ぎよりも稼ぎが減ってしまうのは避けたいものである。

それに仕事に見合った報酬を出すのが当たり前で、危険な仕事には危険に見合った報酬を、実力の有る冒険者には実力に見合った報酬を払うのが正しい雇用関係というものだ。


例えばメジャーリーグのトップ選手の報酬が驚くほど高額なのはその実力を評価してのものなのだ。マイナーリーグの選手ほどの報酬でメジャーのトップ選手を雇いたいというのは無理がある。

数千万稼ぐ事をやめて、数万で働けというのには無理があるのだ。


キルが実態を露わにする発言をする。

「我々は明日から6日間フクラダンジョンに潜ってきますが、その稼ぎは1人当たり1,400万カーネル以上になりますよ。昨日とかはワイバーンを狩りに行って1日で1人当たり1200万カーネルでした。我々はストレージを持ちで、索敵を持ち飛行能力を持つ並の上級冒険者の稼ぎとは比べものにならないほどの高級取りなのですよ。お雇いになるだけの費用を提示していただけるのですか?」


ギルバートが黙り込む。

そんな事ははなから無理な話なのだ。

キルはわかっていて聞いたのだ。

いや、わかって欲しいから言ったのだ。


「無理なのがわかっていて言ってしまいました。意地悪でしたね。すみません。良いですよ。引き受けましょう。ですがその依頼は僕個人で受けさせて頂きます。残りの8人は予定通りダンジョンに潜って来てもらいますので。それで良いですよね。」


クリスとケーナが驚いてキルを見つめる。

「私達だけでダンジョンに潜るのですか?」


キルは穏やかな顔でゆっくりした口調でさとすように話す、

「もうそろそろ俺がいない状態での経験も積んでおきたい頃だからね。君たちがリーダーとして皆んなを引っ張ってくれ。」


ギルバートが再び口を開く。

「では明日ギルドで指名依頼を受けてください。クランに対する指名依頼になっていますが1人でやっていただいて構いませんから。9人分の依頼料をきちんと支払います。それでも全然足りない事はわかっていますから。」


「わかった。そうしよう。倒した魔物の素材は俺のものとさせてもらうよ。」

キルが返事をした。


クリスとケーナが少し不安そうにしていた。

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