129 グラの驚き
戦いが終わりもう日も暮れだしていた。
冒険者達はパリスの街に帰るために森を後にする。
サイクロンサイクロプスを倒したキルをたくさんの冒険者達が讃えにやって来ては去っていった。
「一躍有名人だな!」
グラがキルの肩に手を置いて言った。
「そうですかね? そんな事もないでしょう。」
恥ずかしそうにキルは答える。
「パーティーに入ってもらえなかったのは残念だが強敵を相手にする時は臨時で応援に入ってくれないかな?」
「予定が合えば勿論ご一緒させて下さい。」
「ありがとう、助かるよ。それにしても君の剣技は素晴らしかったね。どこかで修行でもしたのかい?」
「イエ、スキルスクロールで覚えたスキルですよ。グラさんの目の前で使ったあのスクロールがそれです。まあ、今日初めて使った剣技という事ですね。」
照れ笑いをしながらキルが答える。
眼を瞬かせて驚くグラ。
「スキルスクロールってすごいんだな。」
「そうですねレッドオーガの魔石を使ってますから安くないですよ。でも高いだけの効果があると思いますよ。スキル1つ覚えるだけで世界が変わると言っても良いと俺なんかは感じた事がなん度も有りますからね。」
その言葉を聞いてグラは過去自分がスキルを覚えた時のことを思い出す。
数年に一度しかスキルを覚える事は無いのだが確かにその度に対戦能力が上がったり、戦略的にバリエーションが増えたりして世界が変わると言えない事もなかった。
勝てない魔物に勝てる様になる事はしばしばだったのは間違いない。
そう、世界が変わる、確かに一段階段を登れるのだ。
「それを思うとスクロールって高価な物だけれどそれ以上の価値があると思うんですよね〜。」
キルはテヘペロ顔だ。
グラもキルの言っていることには賛同できた。
だからと言ってスクロールを買おうかというとそれはまた別の話である。
強くなるためにどれだけお金をかけるかは価値観的に個人差があるのだ。
キルも今ではスクロールを売らなくても金銭的に困る事はないのでそれほど売りたいという事でもないのだ。ただスクロールの価値を認めて欲しいだけである。
スクロールの定価というものにそれなりの正当性を認めて欲しい、作っている物に価値を認めて欲しいのだ。高い高いと言われるのが嫌なのである。
「確かにな〜。スクロールってすごい価値が有るんだな。使えなかった技があれだけで使える様になるなんて反則だよな〜。」グラもスクロールの効果は認める。
キルもスクロールの価値を認めてもらって上機嫌で有る。
スクロールには反則と言われても仕方がないほどの効果があるのだ。
特にジョブスクロールやスキルスクロールは凄いのだ。
帰りの道を歩きながらキルとグラは話を続ける。
パーティーメンバーは後ろから続く。
「ウチのクランメンバーはみんな索敵とヒールとフライの魔法は覚えてるんですよ。
これらはとても便利だし使う事も多いから覚えておくと良いですね。」
キルは別にスクロールを売ろうとしているわけではない。
金は腐るほど持っているのだ。
ただスクロールを使う事がもっと一般的になって欲しいとは思っているのは間違いない。
「フライってのは空を飛ぶ魔法か?」
「そうです。普段は俺たちは馬車では無く空を飛んで移動しています。
その方が馬車よりも早く移動出来るんです。
フクラダンジョンまでよく飛んでいってますね。」
グラにとっては空を飛んで移動するとは驚きで有る。
驚いて目を瞬かせるグラで有る。
「明日はフクラダンジョンに行く予定だったんですよ。
この依頼がなければ明日はフクラダンジョンに行く予定だったのですが休み返上で今日この依頼を受けてしまったので明日は休みにしないと。」
キルの後ろにつきしたがていたケーナが喜びの声を上げる。
「やっぱ、休みがなくちゃ体が辛いっすよね〜!」
クリスは冷静な顔つきでケーナの言葉を否定する。
「私は休みがなくても問題なくってよ。むしろもっと戦いたいですわ。」
グラは振り返りケーナとクリスを見ると別の意味で驚くのだった。
キルと同じくらいの少女が8人後ろに続いていたのだ。
「君たちはキル君のクランメンバーかい?」
グラは戦いの中でなんとなく小さな女の子が多いとは思っていたがどうやらみんなキルのクランメンバーだったらしい。
「そうっすよ。驚いたっすか?」
「グラさん、私たちは皆キルさんにスクロールで強くしていただいた1年目の冒険者なのです。」
驚き顔を見て2人は答える。
確かキルのクランメンバーは全員上級冒険者だと聞いていた様に思うのだが、、とグラは思い出しその全員が1年目の冒険者ということにもう一度驚かされる。
「全員上級冒険者というのは本当かい?まだ冒険者になって1年も経っていないのにかい?」
「そうっすよ。」
「キルさんにジョブスクロールやスキルスクロールで強くしていただいたから半年くらいでここまでこれましたわ。」
「ははは半年で上級になった?」
「実際にはもっと短い間に上級にはなれたっすよ。」
「もう少ししたら討伐経験値が貯まりそうなので⭐︎4ジョブスクロールで特級に進化したいですわ。」
「もうすぐ特級! 信じられない!」
「クリスはそういうつもりだったんすね?じゃあ自分もなるっすよ。また借金生活に逆戻りっすね。」
「あら、そんなのすぐに返済できるでしょう。だから休みなんてなくても良いって言ったのよ。それに経験値が貯まる頃にはかなりお金もたまっているはずよ。」
クリスの言う通りかなと思い黙るケーナ、もうグラの驚きなど気にしていない様だ。
クリスもグラの驚きなどいちいちとりあってはいられないと言いたそうだ。
驚きと共にグラはキルを再び見直し、その気まずそうな笑顔で口を封じられるのだった。
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