65 調査任務 2
そろりと魔物の方に近づいて行くキル。
キルの目が魔物の姿をとらえた。それは大きな熊型の魔物であった。
身の丈4mはあろうかと言う巨体。ブラットホーンベアの変異種か?通常個体より大きすぎるその体から多くの硬そうな角が8本生えている。背中の中央に2本その両脇を3本の角がたてにならんでいた。
全身は真っ黒な毛で覆われている。ブラットホーンベアはキルの気配に気が付いたのか鼻をクンクンさせてキルの居場所を探っている様だ。
キルはそっと2人の元に引き返そうと後ずさる。ブラットホーンベアはキルの姿は見えないはずだが匂い気配は感じているらしい。緊張しながら気づかれない様に少しずつ後退してその場を離れるキル。ジンとメナスの元に戻ってきた。
「見てきましたが、4mは有りそうなブラットホーンベアの変異種かと思います。」
キルは、小声で報告する。
荷馬車に帰ろうとするキルをジンとメナスは引き留めた。
「キル、相手は空にいるお前に反撃の手段は持っていないんじゃないのか?お前この前みたいに空から魔法で狩っちまったらどうだ。」
成程、上空からステルス爆撃をすれば一方的に攻撃出来る。攻撃して倒せなければ飛んで逃げることにすればいかに強そうなブラットホーンベア相手でも危険は少ないはずだ。
ジンとメナスは待機しつつもキルがブラットホーンベアを倒せず危険となったら急いで逃げることにした。
キルはフライで森の木の上からブラットホーンベアを攻撃する。問題は森の木によって射線が遮られる事だ。木ごと撃ち倒して攻撃するしかないだろう。
まずはアイスサイランダーで先制攻撃。アイスサイランダーは地面から多数の氷の円錐で、槍のような攻撃を加えるものだ。
ブラットホーンベアは突然の攻撃で傷を負うも防御力の高さで瞬殺と言うわけにはいかない様だ。
ブラットホーンベアは、氷の円錐をたたき折り攻撃者のキルを探すが上空のキルはステルス状態で見つけられない。
キルは続け様にアイスサイランダーで攻撃をする。動いて逃げながら攻撃を避けようとするブラットホーンベアだが完全には避けられず攻撃を受け続けた。
射線の通る所に出たブラットホーンベアにアイスマシンガンで集中攻撃を喰らわせる。
大きなダメージを受けなが射線を遮る様に木の影に隠れるブラットホーンベア。今度はまたアイスサイランダーで攻撃を続ける。
敵で有るキルを見つけることもできずに攻撃を受け続け消耗し続けるブラットホーンベア。とうとう倒れて動きが止まる。キルはトドメをさすために倒れたブラットホーンベアに近づく。
ブラットホーンベアはキルを見つけて再び立ち上がり攻撃を仕掛けようとする。飛び退くキル。ブラットホーンベアの爪を危なくかわし、アイスマシンガンで反撃するキル。
ブラットホーンベアは再び倒れ込んだ。キルは倒れたブラットホーンベアに馬乗りになって剣を首筋に突き立てた。
ブラットホーンベアはもう動くことは無かった。
ジンとメナスがよって来て運ぶのを手伝った。
「キル、お前スゲ〜よ。このブラットホーンベアを単独で倒してしまうんだからな。」
「そうよ。凄いわ。また一緒に仕事しましょうよ。」
「ええ、機会があったらお願いします。」
荷馬車に積み込みギルドに引き返す。
「あの、魔石は俺が貰っても良いですか?」
「何言ってるの。1人で倒したんだから、全部君のものだよ。」とジン。
「私たちは依頼の達成報酬だけで充分よ。」とメナス。
確かに報告報酬と討伐報酬では1人1万カーネルほどの違いがある。運んだだけで1万カーネル増えれば御の字という訳である。
「キル先輩、コレ1人で倒したっすか?凄いっすね。」感心しながらもキルの強さを疑わないケーナにそれほど驚いた様子は無い。
「何か私たち待ってただけなのに、報酬を頂いて良いのかしら。」とクリス。
「イヤ、君らに経験を積ませてあげられなくて逆にすまないと思っているよ。」
「イヤイヤ!そんな経験はいらないっすよ。」ケーナが焦って否定した。
「素材の買取分はキル様が全て収めてくださいませ。そこまではいただけませんもの。いつも頂きすぎで申し訳ございません。」とクリス。
「それじゃあ、そうさせてもらうよ。」とキル。ブラットホーンベアの魔石は変異種だけにかなりの魔力量を持っている様だ。もしかすると上位のスクロールの材料にできるかもしれないと思うキルだった。
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