5、ソロ冒険者の生活 1

ゼペック工房を追われるように追い出されたキル。

日銭を稼ぐためにまた冒険者ギルドに向かった。


「フーーー」

ゼペック工房での出来事を思い出しながらこれからのことを考えるキルである。


スクロールが売れないとゼペックさんはスクロールを作らない。

スクロールを作らなければ作り方を見ることが出来ない。

つまりはスクロールを仕入れて売らなければスクロールを作れるようにはならないということか。

生活費も稼がなくてはならないしとにかく依頼を探そう。


キルは冒険者ギルドに着くと掲示板を覗いてみる。

少し出遅れたためにめぼしい依頼は取られているがキルのできる依頼とかぶっているわけではない。

キルができる依頼は人気のない物なのだから。


人気のない街の掃除の依頼を掲示板から剥がし受付のケイトさんに手続きをお願いする。


「キルさん、今はソロになられたんですね。

清掃の仕事受け付けましたので此処に行ってください」

ケイトは地図を渡しながら続けた。

「キルさんどこかのパーティーに加入なさらないのですか?

ソロだと討伐依頼は危険でしょう?

Eランクのキルさんなら新人パーティーは喜んで入れ多いと思いますよ」


「そうですか………もし良いパーティーがいたら紹介して下さい。

それと明日の仕事で1人でできる金になりそうな依頼があったら、きつい仕事でもいいのでおねがいできませんか?」

神妙な顔で頼むキル。


ケイトは

「そうですね〜、力仕事だと開墾現場の木の根の掘り起こしの仕事ですかね〜。

これは疲れるので人気が無い分手取りは良いですよ。

1日10000カーネルです」

と答える。


「それでお願いします」

とにかくお金を貯める必要がある。

キルはまず仕事をゲットしておく事にする。


春先は冬場よりも雑多な仕事も多く余っている。

魔物が動き出すため討伐に向かう冒険者が多いからだ。

新人もこういう仕事から始めるが薬草摘みとかの討伐に近いもののほうが街中の掃除の仕事や開墾の現場労働より人気がある。

かと言って新人の多いこの時期は仕事をキープしておくことは大切なのだ。


キルは、ケイトに感謝を伝えて街の清掃現場に向かった。

現場責任者にチェックをもらい清掃範囲を指示された。

その範囲のゴミを拾ったり汚れを落としたりして現場責任者にチェックを貰えば仕事は完了だ。


綺麗になっていなければチェックが入ったところを再度綺麗に掃除する。


汚れの酷いところは数カ所で、そういうところを集中的に綺麗にしておくことが合格のポイントだ。

チェックさえ通れば時間が早くても仕事は終わりにできたりもする。


キルは掃除をしながらさっきのスキルスクロール、クリーンのことを思い浮かべた。

直径2m(半径1m)」の球場の範囲をクリーンで綺麗に出来たらこの仕事がえらく楽になるんじゃ無いだろうか?


清掃の仕事はおおよそ8時間ほどかかり8000カーネルの賃金がもらえる。

けれどもはやければ5時間くらいでもチェックが通ることもある。

早く終わせれば他の仕事もやる時間ができそうだ。


クリーンのスキルスクロールは卸値で40000カーネル。

5回分の清掃業務の代金で賄える。


うーーーん。

ゼペックさんに話をして前借りすることはできないだろうか?

清掃業務は人気が無い仕事なのでいつでも最後まで掲示板に残ってしまっている仕事だ。

クリーンを使えば労力が半減しそうな気がする。

虫のいいお願いだけれど聞くだけ聞いてみようか?と思うキルであった。


夕方までかかって小銀貨8枚を手にしたキル。

服も汚れがちなのがこの仕事の人気の無い理由でもある。

それに決して高い報酬がもらえているとも言えない。


その足で晩飯の調達にパン屋と惣菜屋と肉屋を巡り、パン3個450カーネル、惣菜200カーネル分、味付き焼肉1切れ400カーネルを買って宿屋に戻った。


宿屋ではケラとバンが引っ越しの荷造りをして待っていた。


「キル、戻ってきたのか。

俺達はこれからホームに引っ越す事になるからこの部屋を出ていくぜ。

お前も3人部屋を借りてるわけにはいかないだろうから準備をしたほうが良いんじゃないか」とケラ。


気が付かなかったが1人で3人部屋の部屋代を払い続けるのは辛い。

1人部屋に移らなくてはいけないだろう。


「確か3日後までの部屋代を前払いしてあったと思うからそれまでにどうにかしたほうがいいんじゃないか?」バンが心配そうに言った。


「ところでスクロール職人には成れそうなのか?」

「生産者ギルドには行ってみたのか?その様子だと清掃業務をしてきたようだな?」

2人は矢継ぎ早に聞いてきた。

キルの将来が気にはなっているらしい。


「そうだね」キルは今日あったことを2人に話すのだった。

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