とっくに依存してる系原作主人公VSオレはあいつの人生に不必要だと言い張るオリ主
執事
第1話
「さて、オマエは『愛されないのは魔女だからですか?』ってノベルゲームを知ってるか?』
周囲をコンクリートに囲まれた密室で、一人の少女がビデオを撮っていた。
撮るのは自分、残すのは呪いと情報。
「知らなくても無理はねぇ、そもそもこの世界には存在しないゲームだからな」
少女の名前は荒牧楓、彼女を一言で表現するとしたら『転生者』という言葉が妥当だろうか。
俗に言う原作知識というものを持ち、現代社会では到底役に立ちそうもない能力を兼ね備え、それでも彼女は追い詰められていた。
だから、これを撮っているのだ。
「内容自体は単純だ。トンデモ魅了パワーを持った魔女が主人公を好きになっちゃってあたふたする話、ただしグロシーン多めのためR17。ちっとは名の知れてる鬱ゲーだ。有名って言っても未だにノベルゲームやってるオタクの中でって枕言葉は付くけどな」
くつくつと笑いを堪えながら荒牧は銃を握りしめる。
そう、銃だ。
誇張でもなんでもなく、安易な比喩などではなく、正しく拳銃。
人を殺傷できる武器を、彼女は手に持っているのだ。
「話を戻そう。その魔女ってやつがとんでもないクソ女でさ、最初に恋敵である主人公の幼馴染を殺しちまうんだよ。そんでもってその方法が凄惨で……これは言わなくてもいいか。やったの、オマエだもんな」
少女の目が細まり、怨嗟の感情が目に見えて湧き出してくる。
このビデオをいずれ視聴するである相手に向けた殺意と恐れが、ごちゃごちゃになって荒牧を支配する。
「あぁそうだ、付属のノートに書いといてやったよ。魔女がヒロインの破滅的共依存ルートの詳細。原作の人外価値観魔女ならともかく、今のオマエがこれを正気で読めるか?愛しの■■■を×しちまったってのに」
よく見ると、荒牧の服には血が付着している事がわかる。
荒牧が流した血ではない、人を殺めた結果着いてしまった返り血だ。
襲われたから銃で殺した、ただそれだけの話。
正当防衛、過剰防衛、もはやそんな言葉の羅列がが意味を成す社会ではない。
いや、それには少し語弊があるだろうか。
只人は法の下に守られて裁かれ安寧を享受することが出来る。
法にも守られず、傲慢にも人に裁かれ、誰にも愛されず助けられもしなかったのは荒牧楓だけなのだ。
それでも生きていたのが荒牧楓なのだ。
「ま、オレがオマエに伝える事はこれで終わりだよ。超越者気取りの魔女さん」
脂汗が浮き出た額を拭い、精一杯の虚勢と心からの嘲笑でカメラに向かってアピールする。
「オマエなんて何処ぞのライターが生み出した単なる創作物、好意も嫌悪もぜーんぶな。薄っぺらいキャラクターは一人寂しく終わりの世界で泣いてろよ。とまぁ、そんな負け惜しみと哀れみを残して、オレは消えさせてもらうとするよ」
少女は拳銃の安全装置を外す、こめかみに銃口を当てる、
そして震える指をトリガーに掛ける。
「じゃ、またな。悪いがこれを見た後オマエが抱くだろう疑問にゃ答えられねぇ」
これが最後、この世界での彼女はこれで終わる。
気づいてしまった真実、失った仲間、全てが彼女を追い詰めた。
それでも、それでも彼女は荒牧楓なのだから、最後に叫ぶのだ。
嘲笑うのだ。
「───これがオレの復讐だ」
乾いた音が響き、少女の世界は幕を閉じる。
BADEND ルート15 託された希望
『知らない天井だ』というお決まりの文句がある、色んな二次創作やノベルゲームで見るものの未だに元ネタを知らないのがこのオレ荒牧楓だ。
お手元の板で調べろというもっともな意見はオレに限っては通用しない、何故ならこの世界にその定型句は存在しないからだ。
そんなくだらない事を考えながら登校していると、後ろから声を掛けられた。
「おはようございます楓さん」
「ん?あぁ財前か……あれ?お前家向こうだよな?」
財前の家とオレの家は学校を挟んで正反対の位置に存在する。
そのため意図しない限り登下校時に鉢合わせる事など有りはしないはずなのだが、どういう事か今日のあいつは後ろから歩いてきたようだ。
「昨日は園絵さんの家に泊まったんです。それで今日は此方から」
「ふーん泊まりねぇ……泊まり⁉︎」
一瞬、いや数瞬遅れて俺は反応する。
まて、待てよ財前。
今お前泊まったと言ったんだよな、幻のサブヒロインである練馬園絵の家に泊まったと言ったんだよな。
これは困った、事の次第によっては原作開始前から物語がぐちゃぐちゃになってしまったなんてオチも考えられる。
そうなればオレの目的はパー。
魔女を殺して平和な世界を作るって目論見は水の泡になってしまう。
友人が幼馴染とくっついた際にお祝いではなくこんな思考がよぎるのはどうかと思うが、世界の危機に関する話なのだから仕方がないだろう。
「えぇ、園絵さんのご両親のご好意で布団を貸して貰えました。それどころか夕ご飯までご馳走になってしまって、本当に感謝の限りです」
いつものように爽やかな笑みを浮かべながら財前は言う。
この語りの雰囲気で性行為に及んだと言う事は考えにくいが、何しろ相手は財前智成。
優秀過ぎる兄に劣等感を抱く向上心の塊の拗ねらせ野郎、それに加えて極度の朴念仁の夢想家なのだ。
教養としての性知識は頭に入っているだろうが、それを現実で実行するなんて考えもしない事だろう。
『兄に劣っている自分がそんな事にうつつを抜かしている暇などない』と原作では考えている男なのだ。
腹黒いのにクソ真面目、それでいて少年漫画の主人公のような勇敢さを兼ね備えている。
なんともまぁ、愛おしい。
「あー、一応聞くがお前昨日何時に寝た?」
「遅めの夕食後の11時ですが……それが何か?」
「いや、それならそれでいいんだよ、お前がオレに嘘付くはずがないしな」
相変わらず、人の策謀には鋭い癖に変なところで鈍感だなといった感想を胸に抱きながらオレは昔の事を思い出す。
まだあいつが小学生の頃、交わした約束。
「もちろんです、そういう約束ですから。僕は貴方に嘘を吐かない」
「代わりにオレは未来永劫ずっとオマエの味方、そうだったよな」
「えぇ、その通りです」
子供同士が交わした単なる約束は、普通ならば一年保つ事なく記憶の彼方へ消えてしまうだろう。
ところは生憎オレも財前も普通じゃない、この約束は二人の根本的なところに深く根を張っている。
人はそれを歪と呼ぶが、オレらにとっちゃ知った事はない。
「つーかなんで昨日は園絵ん家に行ったんだ?お前夜は基本家で勉強かカテキョのバイトだろ?」
「それですよ、バイトです。実は───
財前の話をまとめるとこうだ。
昨日から教え始めた子が園絵と同じマンションに住んでいて、初顔合わせで少し時間が押してしまい、更には自転車が壊れてしまったらしい。
そこでどうしたものかと悩んでいると園絵と遭遇、財前は遠慮したらしいのだが、園絵の説得でお泊まり会が開かれる事になったらしい。
うん、これはあれだな、園絵が勝負を仕掛けに来たな。
園絵が財前に恋愛的好意を抱いているなんて、オレですらわかる程バレバレな事。
気づいてないのは財前だけ、好意を自覚させるためにこれ幸いと物理的距離を縮めにきたわけか。
まあ、親切心もあるだろうけど。
だけど、今日ここで園絵は死ぬ。
魔女に殺されて死ぬ。
財前の目の前で死ぬ事によりトラウマが植え付けられ、物語が始まるというわけだ。
それについてオレが思うことはあまりない、園恵は死ななければストーリーが始まる事はなく最悪世界は滅んでしまうからだ。
そうだ、その筈なのに。
なんで、なんで心の奥底に棘が刺さったような感じになるんだ。
「どうかしましたか?顔色が悪いようですが……」
「いや、なんでもねぇよ。悪いけど先行っててくれ」
駄菓子屋の前でオレは立ち止まり、財前に登校を促す。
その言葉を受け、不審に思いながらも財前は歩いて行った。
「これでいい、これでいいはずだ」
ストーリーの始まり、主人公を好きになってしまった魔女は嫉妬故に幼馴染を拘束する。
そして教室で主人公と魔女と拘束された幼馴染三人になったところで、魅了の力を使うのだ。
そんでもって魔女に忠誠を使う園絵、それでも園絵を嫌いにならなかった財前。
そんな状況に嫌気がさしたのか魔女はスプラッターな描写で園絵を殺してしまう。
プロローグ『嫉妬の魔女』終了というわけだ。
「園絵、園絵、園絵。大丈夫、オレにとって最優先事項は」
そんな言葉を口にしながらも、何故かオレの足は学校へと向かっていた。
魔女本人に戦闘能力はない、オレの異能が有れば十分園恵を助けられる筈だ。
違う、介入するのはまだ早い。
見捨てるのか?友人を。
あぁ、もう。オレは。
「クソッ!なんでオレは今になって!現実味が湧いてきたとでも言う気か⁉︎どんだけクソ野郎なんだよオレは!」
そうなる直前になって急に躊躇ってしまう、そんな自分の情け無さに呆れながらも、オレは。
『カエデちゃんは気持ち悪くないよ』
園絵の声が脳内で木霊する。
まだオレが小さかった頃、転生という事象に心折れかけていた頃。
財前と一緒にオレを救ってくれた言葉。
「あぁもう!やってやるさ」
覚悟も信念も何もないけど、ストーリーを壊してしまうけれど。
「あら」
軍靴の音がした。
違う、奴らがここに来るはずがない。
「一人なのね」
魔女が園絵を攫った理由はただ一つ、園絵が財前にとって一番大切な人間だからだ。
原作同様恋愛的好意はないが、財前の心の寄り処は園絵のはず。
それはこの世界でもそれは同じはず。
なのに、なのに。
災厄が、絶望が、
魔女が、そこにいた。
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