募る不安。

 不意の夕立に見舞われながら一人とぼとぼと家に帰った俺は、病院に電話をかけていた。

 無論、彼女の様子を聞くためだ。


 あんな別れ方をしたのだから、様子は気になって当然だ。かといって直接電話をかけるわけにもいかない。

 そんな感じで恐る恐る彼女の様子を尋ねると、全く予想もしない言葉が返ってきた。


 彼女は病院には帰っていなかった。

 外は雨。強さは徐々に増し、日も沈みかけていた。


 猛烈な焦燥感に駆られて俺は家を飛び出した。

 もしまた彼女の容体が悪化していたら、そんなことを脳裏によぎらせながら不安を募らせていく。



 


「……ばか」


 あいつのことを考えていると、無意識にそんな言葉が漏れていた。

 ずっと一緒だった。これからも、そうだと思っていた。そうありたかった。

 残り少ない時間を、最後まで、一緒に。それなのに……。


 無意識にあふれかえる涙。


「あたし、なんであんなこと言っちゃったんだろう……」


 心は後悔でいっぱいだった。


「もう時間がないのに……」


 桜ももって後一週間くらいだろう。

 最後を待つには長すぎるけど、あいつに気持ちを伝えるには短すぎる。

 長いようで、とても短い時間だ。


 だけど、今まで過ごしてきた時間に比べればほんの一瞬。

 でもだからこそ、この一瞬を大事にしたい。

 もしもこのまま時が過ぎてしまったら、きっとまた後悔する。


 それ以上に、もうこれから先、あいつと一緒にいれない方が辛いんだ。

 最後の一瞬まで側にいてほしい。ずっとあたしと一緒にいてほしい。

 もうこの気持ちは止まれない。


「いやだよ……、これで最後なんて、いやだよぅ……」


 次々に瞳から滴がこぼれていく。

 それと同時に、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。

 気づけば外はほんのり暗く、空には雨雲が漂っている。

 桜の枝、葉、花を伝って滴が上から落ちる。


「あ、雨……」


 桜を見上げながら、あたしは花に問いかける。


「あたし、どうしたらいいんだろうね……」


 そうして涙の流れに比例するように、雨の勢いも、次第に強まっていく。

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