募る不安。
不意の夕立に見舞われながら一人とぼとぼと家に帰った俺は、病院に電話をかけていた。
無論、彼女の様子を聞くためだ。
あんな別れ方をしたのだから、様子は気になって当然だ。かといって直接電話をかけるわけにもいかない。
そんな感じで恐る恐る彼女の様子を尋ねると、全く予想もしない言葉が返ってきた。
彼女は病院には帰っていなかった。
外は雨。強さは徐々に増し、日も沈みかけていた。
猛烈な焦燥感に駆られて俺は家を飛び出した。
もしまた彼女の容体が悪化していたら、そんなことを脳裏によぎらせながら不安を募らせていく。
◆
「……ばか」
あいつのことを考えていると、無意識にそんな言葉が漏れていた。
ずっと一緒だった。これからも、そうだと思っていた。そうありたかった。
残り少ない時間を、最後まで、一緒に。それなのに……。
無意識にあふれかえる涙。
「あたし、なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
心は後悔でいっぱいだった。
「もう時間がないのに……」
桜ももって後一週間くらいだろう。
最後を待つには長すぎるけど、あいつに気持ちを伝えるには短すぎる。
長いようで、とても短い時間だ。
だけど、今まで過ごしてきた時間に比べればほんの一瞬。
でもだからこそ、この一瞬を大事にしたい。
もしもこのまま時が過ぎてしまったら、きっとまた後悔する。
それ以上に、もうこれから先、あいつと一緒にいれない方が辛いんだ。
最後の一瞬まで側にいてほしい。ずっとあたしと一緒にいてほしい。
もうこの気持ちは止まれない。
「いやだよ……、これで最後なんて、いやだよぅ……」
次々に瞳から滴がこぼれていく。
それと同時に、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。
気づけば外はほんのり暗く、空には雨雲が漂っている。
桜の枝、葉、花を伝って滴が上から落ちる。
「あ、雨……」
桜を見上げながら、あたしは花に問いかける。
「あたし、どうしたらいいんだろうね……」
そうして涙の流れに比例するように、雨の勢いも、次第に強まっていく。
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