すれ違う想い。

 今日も彼女に付き合わされ、二人で遊びに出ていた。


「んーっ、楽しかったぁ」


「そうだな」


 内容はいたってシンプル。

 買い物をして、映画を見て、ご飯を食べて、また外をぶらぶらする。


 これじゃあまるで――


「休日に普通にデートしてるカップルみたいだね」


「だなぁ。ま、カップルじゃないけどな」


「なによ、あたしじゃ不満なの?」


「いや、そんなことはないんだけどさ」


「けど何よ?」


「いやさ、お前もすっかり良くなったみたいだし、俺みたいのと一緒にいるよりももっと他にいいやつ探したらどうだ?」


 なんて、冗談交じりに放った言葉は自分の胸を微かにえぐった。

 せっかく元気になったんだ。彼女の好きなように、やりたいことをさせてあげたい。

 またいつ体調が悪くなるかもわからない。本人は桜のおかげなんて言っているが、そんな話をあっさり信じられるわけがない。


 先のことはわからないが、少なくとも今は元気なんだ。

 今のうちにやれることはやっておいた方がいい。

 無理に俺と一緒にいる必要もない。今の彼女なら何でも自由に選択できるんだ。


 だったら俺はそれを――


「なんで……、なんでそんなこと言うの?」


 彼女が不意に立ち止まって顔を俯ける。

 その声音はどこか寂し気で、同時に多少の憤りを感じた。


「え、ああ、いや、ほら、世の中には俺よりいい男なんてたくさんいるだろうからさ。別に俺なんかじゃなくてももっと他に選びようが――」


「そんなこと聞いてないっ!」


 突然声を荒げる彼女。その瞳には滴がたまっていた。


「いや、えっと……だから……」


 彼女の様子を見ているとうまく言葉が出てこない。


「なんなの……? あたしは、あんたの何なのっ……?」


 鋭いまなざしで見つめられる。


「えっ……と……」


 結局俺は何も言わなかった。言えなかった。

 それから彼女は俺に背を向けると、


「もういい……、帰る」


 そう言ってその場を去ってしまった。


 それから俺は、彼女を引き留めることもできずに、その場に一人残されていた。

 俺はいったいどうしたいんだろう。彼女とどうなりたいんだろう。

 答えなんてすでに分かりきっている。だったらさっさと伝えればいいだけだ。


 それでも、どうしてもあと一歩が踏み出せない。

 今までの俺と彼女の関係が崩れてしまうのが怖いんだ。

 どうしようもなく臆病で、傷つくのが怖くて、でもあきらめきれなくて。

 それに、このまま彼女と一緒にいられる自信があるのだろうか。


 もし彼女が突然いなくなったら、俺はそれに耐えられるのだろうか。そんなの無理に決まっている。

 俺の気持ちは決まっている。どうしたいのかもわかりきっている。


「じゃあ俺は、どうすればいいんだろう……」


 そう思わずには――いられない。

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