普通の日常。
「今日も出かけるから」
第一声がそれだった。
時刻はまだ昼過ぎ。
すでに準備を済ませていた彼女が、腰かけていたベッドから立ち上がってそんなことを言う。
「……はい?」
無論、俺のこの反応はおかしくないだろう。
というか何だこのデジャブ。
「しばらく外出許可がでたから。だからその間はとことん遊ぶの」
堂々とそう言い放つ。そしてすごい笑顔だった。それはもう不気味なくらいに。
「あ……、えっと、そうか」
この時点で俺はもう、考えるのをやめることにした。
◆
どうやら今日は遊園地らしい。
地元にある、休日でも賑わうかどうかの場所。
それでも春休みだけあってそれなりに客は入っているみたいだ。
「よし、じゃあ最初はあれね」
「ん? あれって……もしかしてあれか?」
彼女の視線の先にあるのは、
「そう、ジェットコースター」
すごく楽しそうなのは伝わってくるんだが、最初にそのチョイスなのはどうなんだ。
「最初なんだからもっと緩めのやつでもいいんじゃないか? ていうか大丈夫なのかお前」
「もう、うるさいなぁ。いいから行くよ」
彼女は自然に俺の手を握ると、そのまま半ば強引に俺を引っ張っていった。
その後もいろんなアトラクションに乗って、それから休憩して、また乗ってを繰り返した。
終始引っ張りまわされてかなり疲れてはいたが、ずっと楽しそうにはしゃぐ彼女を見ていると、なんだかこんなのも悪くないと感じてしまう。まぁ、当然といえば当然か……。
それから時間が経つのは割とあっという間だった。
そうしてそろそろ日も暮れ始めてきたころ、
「最後はこれね」
そうして連れてこられたのは、観覧車。
ど定番もいいとこだ。
その後すぐに、俺たちは順番を待つことなく観覧車に乗り込んだ。
「高いね。もうこんなとこまで登ってる」
夕日の差し込む窓の外を見つめた彼女がそういう。
「だな。そういや、気分悪くないか? 体は大丈夫か?」
「もう、それ何回目?」
「ああ、いや、ごめん」
「平気。ありがとう、心配かけてごめん」
「いや、こっちこそごめん。大丈夫ならいいんだ」
久しぶりに遊ぶことができて嬉しいのだろうが、やっぱり元の彼女のことを考えると心配ばかりしてしまう。
だけどそれで彼女が楽しめなくなってしまうのはなんか嫌だ。
「ねぇ」
考え込んでいた俺に、彼女がぽつりと呟いた。
「なんかこうしてると、デートみたいだね」
「……はい?」
視線を戻すと、そこに彼女の笑顔があった。
夕日のせいか若干頬が赤い気はするが、それ以外は普通だ。
かくいう俺は、内心ドキドキし始めている。
「あ……、えっと、急にどうした?」
「いや、なんかね。もしあたしが普通に生活して、恋人とか作ってさ、そしたらこんな感じなのかなぁって」
普通、か……。
「あ、ああ……。そうだな。なんか、相手が俺でごめんな」
冗談っぽくそう言って笑って見せる。
「まぁ、しかたないからあんたで我慢してあげる。光栄に思いなさい」
そう言っていたずらな笑みを浮かべる。
「はいはい、そうですか」
そんな彼女の様子を見て、俺は呆れたようなため息を一つ。
「なんてね……、むしろ嬉しかったり……」
「ん、なんだって?」
何かをぽつりとつぶやいたかと思うと、急にあたふたし始める彼女。
「あ、いや、えっと、何でもないからっ……」
最後に顔を背けた彼女の頬は、やっぱり少し、赤いような気がした。
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