桜の季節。

 今年もこの季節がやって来た。

 雪が溶け、草や花、木々たちが芽吹く。春、桜の季節だ。

 そんな中、幼馴染の彼女に変化があった。


 なぜか急に病気が治ったのだという。原因はわからない。

 だが、そのんな疑問を抱いていたのも束の間だった。

 すっかり元気になった彼女が、さらっとこう告げたのだ。


「なんかね、桜にお願いしたら、治っちゃったみたい」


 何気ない笑顔で、そう言ったんだ――。





 徐々に桜が花を開き始める今日この頃。

 突然元気になった彼女は、今までの時間を取り戻すかのような勢いではしゃいでいた。病室で。


「ねぇ、遊びに行きたい」


 不意にそんなことを言い出した。


「……はい?」


 言葉の意味は理解できるが、意図が全く分からない。


「だーかーらー、遊びに行きたいの。街に買い物に行ったり、遊園地に行ったりとか」


「いきなり何言ってんだよ」


 そんなのは無理に決まっている。いくら病状が回復したからといっても、今のままでは外には連れ出せない。


「連れてって」


「いやいや、お前自分の今の状況わかってるのか。つい先週まで一人で歩くのだって辛かったくせに」


「そんなの今は関係ないでしょ。現にこうして何ともないんだし」


「そんなこと言われてもだな……」


 実際、今は何ともないみたいだが、もし急に病状が悪化しても困る。

 そんな状態で外に出せるわけがない。


「じゃあ、病院の先生にお願いして大丈夫だったら連れてってくれる?」


「え……、ああ、うん。まぁ、それなら」


 さすがにそんな許可は下りるわけがない。ひとまずおとなしくしてもらおう。


「それじゃあ決まり。行きたいところは色々あるけど、あんたもどこに行くか少しは考えておいてよね」


 期待に胸を躍らせる彼女を見てため息を一つ。


「もう行く気満々なのか……」


 多少の不安を感じつつも、そんな彼女の様子に笑みをこぼさずにはいられなかった。

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