少女の証明

すおう

序章

 3人の刑事が部屋の中に入る。

 部屋は生活感がないほどにきれいだった。

 「これは、何も上がってこなさそうですね。緒方おがた先輩はどう思いますか。今回の件」

 若い女刑事の瑞樹みずきは、長期戦になりそうだなと思いながら中年の刑事に話しかけた。

 「正直な話、何ともいえん。おい、あんまりスタスタ行くな中村なかむら

 中年の刑事が自分の前をスタスタ行く若い男、中村に言う。

 「すいません。でも、異常なまでに綺麗ですよね」

 頭のよくキレる中村は不気味そうな顔をして言った。その言葉に3人は部屋を見渡す。

 「えぇ、まるでここには何もありませんって主張してるみたいだわ」

 そう言いながら若い2人の警察はどんどん奥へ入っていく。

 “何もありません”そう主張している様だから逆に怪しい。要するに悪目立ちしているのだ。

 玄関から入って左にトイレ、少し先の右にお風呂場、短い廊下を抜けてリビングとカウンターキッチンにリビングの左側には自室、右には寝室、普通の家だった。

 「それにしても良い所に住んでたんですねー流石元売れっ子作家のご自宅だ」

 少し嫌味ぽく中村が言った。

 瑞樹はリビングで腰を下ろしテーブルを見ていた。中村も同じく自室で腰を下ろしてみていた。

 「ねぇ、黒瀬って身長いくつくらいだったっけ」

 黒瀬くろせ まこと。ペンネーム、未燈みとう先生。

 「え? んー俺が183で瑞樹が166だろ? その間くらいじゃなかったか? 170くらい?」

 瑞樹が目を見開いた。

 「そうよね、ねぇこの部屋のものよく見て、それにわたしたちの体制も」

 緒方先輩含む3人とも腰を下ろしていた。オロスと言っても中腰ぐらいの体制で3人とも何かを見ていた。低いちゃぶ台のようなテーブル、自室の低い位置にある鏡、キッチンの棚のところのメモ、全てが低かったのだ。

 「うぉ、まじか。え? 黒瀬って子供いましたっけ」

 顔を引き攣らせながら中村は聞いた。

 「子供どころか結婚歴もなければ黒瀬はまだ25だ。それにこの高さなら小学年生ってところだろう」

 緒方が細かく説明し、3人とも立ち上がって目を合わせ、部屋をゆっくり見渡した。妙な不気味感が取れない。

 「この部屋、子供がいた…?」

 瑞樹の声が3人の顔を強ばらせた。

 緒方は急いでキッチンの食器棚を開けた。

 ほとんどの食器が2人分用意されていた。1番目を引いたのが苺柄のコップと花柄のお皿。

 中村が目線をそちらに向け確認する。そしてすぐ口を開いた。

 「男の一人暮らしでこんな可愛い柄を使うとは考えにくいですよね、それに鏡も低い位置にある事から察するに女の子…?」

 「…うっそ」

 瑞樹は口に手を当て、顔面蒼白にし、動揺を隠しきれていない。

 その時3人が思ったことはきっと同じことだっただろう。

 5年前の幼女誘拐事件。その子の名前は緒方おがたかえで

 緒方の顔は憎しみでも悲しみでもない、うまく読み取れないほど複雑に歪んでいた。

 「緒方先輩、」「緒方さん…」

 2人の声が重なった。

 それから本部に戻り、捜査で浮上した事を説明すると緒方はこの事件から外された。

 もう一個の大きい手柄は彼の日記、いや彼女の手記だった。

 書かれている内容を見て瑞樹も中村も絶句した。まだ小学生の少女が書いたというにはあまりに歪で、でもその文の節々から伝わる“愛情”。それが異常だというのは誰が見ても明らかであった。

 何より、あそこまで“何もありません”を装った部屋に置いていかれた子供家具や食器や、この日記。次はまるで“何かありますよ”と言っているようだった。


 そう、“後付け”で自分の存在を証明するように。

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