あれっ、ここって俺が書いたラノベの世界!?
けーすけ
高校・学園入学前
第1話 ラノベの世界
小さい頃から、よく夢を見る。
魔法を使う夢、冒険者になる夢、魔物と戦う夢、
そして、恋をする夢。
俺、
ひたすらラノベを書いては投稿する。
そんな生活を3年間送ってきたせいで、中学校では陰キャ呼ばわり。
そんな俺の人生だが、今日、今、この瞬間、一つのピリオドを打つことになった。
ラノベが完結してしまったのだ。
3年間ラノベだけに没頭していた俺からラノベを取ったら、何が残るのかと思うかも知れないが、もうこれ以上の作品が書けないだろうとも思っている。
「はぁぁ……」
思わずため息が漏れてしまう。
「高校デビューでもするかー?」
1週間後には高校の入学式がある。
正直ダルい。
生きがいのラノベ作成が無くなったことで、今、生きる気力というものが確実に減っている。
高校までの道のりは、この家からでは遠いので、近くのアパートにでも一人暮らしするのかと思っていたのだが、母に告げられた。
「うちに一人暮らしさせられるほどのお金はないの。シェアハウスでもいいかしら?」
シェアハウスというのは一つの家を友人や他人と共有するもので、2人で住めば家賃は半分になるので、あまり裕福ではない家にはありがたい話だ。
「い、いいよ……」
シェアハウスか……
あまり人と関わってこなかった俺が、見ず知らずの他人と共同生活!?
そんなことできるのか……
世界の終わりかと思うほどに嫌だったのだが、これまで女手一つで育ててきてくれた母にはこれ以上の負担をかけたくないのでその案を呑むことにした。
「はぁ、明日引っ越しか……」
どんな人がルームメイトなんだろう……
せめて、同年代、欲を言えば物静かな男の子がいい。
「流石に、女子は、ないよ、な……?」
もしそうなのだとしたらコミュ症+陰キャの俺は耐えられない。
あぁ、色々考えてたら頭痛くなってきた。
生きがいは無くなるし、明日は不安なことばかりだし、なんかもう、疲れた……
作業用の椅子に座ったままだが、立ち上がる気力もない。
眠たくなってきた。
「神様、もし本当に存在するのなら、俺をラノベの世界にでも飛ばしちゃって下さい。」
ボソッと呟きながら、だんだんと重たくなってくる瞼を下ろしていく。
視界はだんだんと狭くなっていき、最後には完全に真っ暗になる。
「ピー、ピヨピヨピー、ピヨヒュー……」
鳥の
サァァーーーーという風の音、その風に揺られ、カサカサっと音を立てる木の葉。
雨が降った後の土と葉っぱの匂いがする。
スゥゥーっ! と息を吸えば、全身で自然を感じられる。
「うわっ! 眩しっ!」
目を開けてみると、ギラギラと辺りを照らす日の光が、こちらを覗いている。
眩しすぎて視界は真っ白、何も見えない。
目が慣れてきたところでいつもより軽く感じられる体を起こし、ぐるりと360度見回した俺は度肝を抜かれた。
「す、すごい……」
見渡す限りの緑の大地がそこにはあった。
ここは、何処かで見たことがあるような……
でも、こんなところ来たことがない。
というか……
「何で俺こんな所にいるのー!?」
さっきまで豆電球がついた薄暗い部屋にいたよね!
それがこんなに明るくて綺麗な所に……
でも、何故だろう、不思議と安心感を抱いてる自分がいる。
頭の中で何度も描いてきた世界。
ラノベで書いてきた世界にもこんな感じの大地があったなー……
も、もしかして、ここって、ラノベの世界……?
まさか、そんなことは、と思いつつも、あまりに似た景色のせいで確認したくなる。
今ここで確認する方法……
そうだ! 俺が書いたラノベの世界には、太陽が2つあるんだった!
さすがにないよな……?
と思いつつも、チラリと空を見てみると、
「ぁっっ!!」
俺の目はしっかりと2つの光源を捉えている。
えっ、マジっ……!
俺、本当に……!
気付いた頃には何もない空に向かって叫んでいた。
「あれっ、ここって俺が書いたラノベの世界!?」
相当大きな声で叫んだつもりだが、すぐさま風の音に掻き消される。
「これは、転生!? いや、転移か!?」
うわぁー!! 異世界来ちゃったー!!
魔法とか使えたりする!?
可愛いエルフと一緒に冒険!?
俺のラノベの世界はモンスターやダンジョンが存在し、魔法が使える場所だ。
主人公の東龍雷あずまりゅうらいがこの世界に転生して大切な人を守るために戦う話。
何人かの仲間と協力して《陸海空のダンジョン》を制覇する話。
キャラクター一人一人に壮絶な過去があり、成長していく姿には作者の俺でさえも胸に込み上げるものがあった。
そんな世界に、来ちゃった!?
嬉しすぎる!!
高校行かなくていい!
シェアハウスも関係ない!
この世界で生きていこう!
となれば、まずは魔法だ!
この物語に出てくる主人公やその仲間はチート能力や膨大な魔力があるが、俺にも何かあるのだろうか?
とりあえず、主人公が1番最初に使った初歩中の初歩、
「ファイアボール!」
………………
「えっ……?」
何も出なかった。
「はあぁぁ〜〜!! どういうことだよ! この世界では誰でも使えるような魔法だぞ! 魔力がある限り赤子でも使える魔法だぞ!」
自分で言っていて疑問に思った。
あれ? 俺って魔力あるのか?
このラノベの主人公たちはこの世界に来て自動的に魔力が身についていたが、それは俺も同じなのか?
魔法の発動条件はイメージだ。
この世界は全て俺の手中に収まっていると思っていたが、作者の俺でも分からないことがあるのか。
それにしても……
「魔法が使えないって、精神的ダメージが……」
せっかくの異世界だぞ!
「はぁぁ」
自然とため息をついてしまう。
でも、この大地は心地がいい。
昔から自然豊かなところは好きだったからな!
辺りをぐるりと眺めていると、小さな白い花があった。
綺麗だ。
「んん! いい香りがする!」
気づけば俺はその花を摘んでいた。
「日陰で少し休むか。」
俺はすぐ近くにある大きな広葉樹の日陰に腕を枕にして寝転がり、目を閉じた。
「よし、これからは異世界で楽しく過ごすぞ!」
それから俺は深い眠りについた。
「ちょっと大和! 早く起きなさい! 今日引っ越しでしょう!」
ん? 誰の声だ?
あぁ、今日引っ越しか……
……って、えーー!!
俺、異世界に行ったんじゃ……
椅子から飛び起きた俺は辺りを見渡したが、
「見慣れた部屋だ……」
綺麗な大地も耳を通り抜ける風の音も存在しない。
「えっ、ゆ、夢……? でも、それにしてはリアルすぎたぞ……」
はぁぁぁ……
夢だったかぁ……
ショックを受けた俺は顔でも洗おうと散らかった部屋を歩き出したのだが、
ワシャ
何かを踏んだ。
痛くはない。少しくすぐったい。
何だろうと疑問に思い、それに目をやると、
「えっ……? なん……で……?」
夢の中で摘んだ筈の小さな白い花がそこにはあった。
あれ? 夢? 現実? ここはどこ? あの大地は?
何故夢の中で拾ったものが現実世界にあるんだ?
本当にあの世界は夢だったのか?
今は現実か? 夢か? どっちだ?
俺は昨日、この部屋で寝て気がついたら異世界に居た。
そして、異世界で昼寝をして目を覚ませばここに居た。
じゃあ、どっちも夢?
どっちも現実?
わ、分からない。怖い。
人は未知の体験をするとここまで恐怖を感じるものなのだと初めて知った。
ダラダラと冷や汗が止まらない。
どうすればいい?
「ちょっと大和ー! 早くしなさい!」
か、母さんの声。
そうだ、俺はこの15年間この世界で生きてきた!
あれは夢だ! そう、夢なんだ!
この花は気づかないうちに何処かで取ってきたに違いない!
そう自分に言い聞かせて引っ越しの準備に取り掛かった!
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