第27話 ディザスタースライム


「っと! なんとか、スライムを撒けたようだ」



「あっ、くぅ。息が……はぁはぁ」



「すまんな。全速で逃げる必要があった」



 肩に担いできたひよっこを降ろすと、そのまま地面に座り込んだ。



 座り込んでいるひよっこに指示を出しながら、単眼鏡を弄り、追尾してこないように設定した撮影どろーんの映像を見る。



 やはり魔物は、魔導具には反応を示さないのか……。



 羽音がしているはずだが、スライムは撮影どろーんに対し、襲い掛かる様子を見せず、不気味な明滅を繰り返している。



「三郎様、あのスライムはいったい何なんですか……」



「俺の知ってるスライムと同一ならば、あいつはディザスタースライム。貪欲に人や物質を飲み込み、巨大化して、分裂しつづける最強の魔物だ」



「ディザスタースライム……。そんな魔物が存在してるなんて……」



「本当にアレがディザスタースライムかは、今のところ俺も判断がつかない。なにせ、こっちの世界の魔物だからな」



「こっちの世界とは……?」



 そう言えばひよっこも葵と同じく、俺のことをPTSDというよく分からん病気で記憶がおかしくなったやつだと思ってたな。



 訂正をしておきたいが、今はディザスタースライムらしき魔物を倒すのが先決。



「その話は後だ。なんにせよ。災禍と呼ばれた魔物がダンジョンに姿を現したのだ。すぐにダンジョンの入り口を探索者たちに固めさせろ。仁や誠、隆哉にも知らせろ。絶対にこのダンジョンの外へあのスライムの分裂個体を出さないよう! 一つでも逃せば、街一つくらい簡単に消え去るぞ!」



「スライム1匹で街が……。いや、でも先ほどの溶解液の威力を見れば、ありえないとは言い切れないですね」



 座り込んでいたひよっこは、立ち上がるといんかむに手を当て、データを解析している部下と話し始めた。



「コードレッドを宣言します! 警報を鳴らして探索者たちを集めてください! 街に緊急避難警報発令! 日本政府にも今の録画したデータを見せ、自衛軍派遣協力を取り付けてください! あのスライムを外に出せば日本は終わります! ダンジョンの入口から這い出るスライムは全力で排除!」



「それでいい」



 ひよっこがあのスライムの脅威を正確に認識した指示を出したことに満足した。



 俺のいた世界では、初動の対応をした冒険者や兵士が半端な攻撃したことで、分裂したディザスタースライムが野に大量に放たれ、数を増やし巨大化し、多数の人や生物、いくつもの町や村があのスライムに飲み込まれた。



 その二の舞は避けたい。



 単眼鏡越しに撮影どろーんから送られた映像に映るスライムが、不気味な明滅をやめると、俺の周囲に先ほどできた巨大な転移の魔法陣が浮かび上がる。



 まさか、こっちに飛んでくるだと!? こっちのディザスタースライムは魔法まで使うのか!?



「ひよっこ! 映像見てるか! やつが飛んでくるぞ!」



「は、はい! 見てます! ど、ど、どうしましょうか!?」



 ディザスタースライムの大きさ的には、もとの世界のやつよりは小さい。



 だが、こっちのは転移魔法を使う個体だ。



 不測の事態は起きないとは限らない。



 全力の一撃が転移魔法でかわされたら、俺の負けだ。



 その時は…‥‥



「お前は下がれ! ダンジョンの入口を固めろ! 俺が倒す! だが、万が一倒せなかった時はお前たちがやれ!」



「わたくしが……」



「お前一人じゃない。その場にいる探索者たち全員でディザスタースライムを倒せ!」



「みんなで……」



「ああ、お前一人が全てを背負う必要はない。みんなでやれ。俺たちの世界もそうやってあいつを打ち倒した」



 俺はひよっこの肩を軽く叩くと、魔法の詠唱を始める。



「光精よ! 我は命ずる! 星々の光を集め、転移の門を開けよ! 星霊の扉アストラル・ポータル!」



 魔法が発動すると、眩く光る扉が目の前にでき上がった。



「まぁ、今の話は万が一、俺が倒された場合だ。だから、そんなに心配はするな。アレは俺が倒すつもりだ」



 呆然としているひよっこの肩を突くと、彼女の姿は眩しく光る扉の奥に消え去った。



 同時に、光っていた扉も消える。



「これでよし! さぁ、ディザスタースライムのおでましか!」



 地面にできた巨大な魔法陣から、スライムがふたたび這い出してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る