第22話 ひよっこからのお呼び出し


 俺がひよっこに頼まれてプラーナ式戦闘術の配信を行ったことで、ダンジョンスターズ社の業務が滞ったらしい。



 Tちゅーぶアプリも接続数過多とかで、起動せず、ダンジョン配信ができなくなって1週間が経った。



「全部サブローししょーのせいって別のSNSでトレンドワードに上がってますねー。ついにTチューブ外のSNSに強制デビューっすよ」



「俺のせいじゃないだろ? ひよっこの会社がやらかしてることだ」



「その原因を作ったのは確実にサブローししょーっすよ」



 その言葉は心外だ。



 俺は葵に魔法を教えてやったのと、ひよっこにプラーナ式戦闘術のやり方を教えただけなんだが!?



「俺は知らん」



「まぁ、どうせ、あたしの春休みが終わったことでダンジョン配信は、時間に余裕のある週末くらいしかできないっすからね。はい、これお昼のお弁当っす」



 俺用の弁当を差し出した葵は、春休みという休暇が終わり、今日からダンジョンスターズ社が運営している探索者学校が再開するということで、いつもの服とは違い、制服を着込んでいた。



「別に葵がいなくても、俺にだってハイシンくらいはできるぞ」



「ダメっすよー。サブローししょーが勝手に配信したらゆいなさんが過労死しちゃう配信がされるっす」



「そんなわけあるか。普通に探索してる様子をハイシンするだけだ」



「きっと、未知の魔物を発見して、ワンパン退治して、調べたらヤベーやつって流れで、ゆいなさんがまたマスコミ対応に忙殺されるっすよ!」



「んなわけあるかっ!」



「いーえ、ありえるっす! だから、配信はあたしと一緒の時しかダメっすよー。あと、今のサブロー氏ショーの顔は、この前のスーパーチャットで味を占めて、またもらえたらなとか思ってる顔っす」



 うぬっ! 戦士の中の戦士たる勇者に任じられた俺が、そんなやましい気持ちでハイシンをするわけがないだろう。



「俺としては遅々として進まないダンジョンの探索を少しでも進めたいだけだ」



 そんな俺の気持ちも知らず、葵はハイシン用の撮影どろーんを自分の鞄にしまい込んだ。



「嘘っすね。サブローししょー、口元によだれが垂れてます! スーパーチャットで稼いだ金で豪遊をしようと企んでるっす!」



 目を吊り上げた葵が、俺に指を突き付けた。



 とっさに指摘された口元を手で拭う。



 よだれなど垂れてないではないかっ!



「ふふっ! 罠にかかったっすね! やはり、豪遊する気満々!」



「ち、違うぞ!」



「はいはい、弁明は学校から帰ってきてから聞きますねー。じゃあ、お留守番よろしくっすー!」



 葵は俺の話を聞こうとせず、玄関を開けると、制服のスカートをなびかせて駆け去った。



「おーい、俺の話を聞けーって、もう居ねえ」



 残された俺は、弁当を抱えて途方に暮れた。



「たく。あいつは人のなんだと思っているんだ」



 葵の姿が消えると、すまほが振動し、電話の呼び出し音が鳴った。



 ん? ひよっこからか……。



 すまほを操作し、呼び出しの応じる。



「おぅ、なんか用か?」



『三郎様、今、お時間は大丈夫ですか?』



「ああ、問題ない」



『ありがとうございます。実は会社の方に困った案件が持ち込まれまして……。三郎様のご意向を確認させてもらいたく』



「困った案件?」



『ええ、電話ではちょっと言えないので、来社して頂くことは可能でしょうか? もちろん、お手間を取らせるので相応の対価はご用意します』



 対価を出すってことは、それなりに時間がかかるってことか。



 葵の作った弁当もあるし、ダンジョン配信もやれないから暇もあるし、ひよっこの提案を受けるのもありか。



「分かった。今から出向く。が、案件を受けるかは内容次第だ」



『あ、ありがとうございます! それで大丈夫です。では、来社をお持ちしておりますね!』



 ひよっこの声が若干上ずっている気がするが、よほど困った案件を持ち込まれてるのか。



「ああ、待ってろ。すぐ行く」



 すまほを操作して、電話を切ると、葵の弁当を持ち、アパートの扉に鍵をかけて、ダンジョンスターズ社に向かうことにした。

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